テラーノベル
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冒険者ギルドの隣にひっそりと立つ食事処〈文目の詩〉。
ここには、少し変わったサービスがある。
目利きのスタッフによる、クエストの斡旋。
スタッフの鑑定眼が確かなおかげで、店はいつも、それなりに賑わっている。
ただ、今日は少し、いつもと雰囲気が違っていた。
剣士
剣士
険の乗った声が、ホールに響く。
その音源では剣士の少女が、スタッフのひとりに詰め寄っていた。
槍使い
剣士の少女の後ろには、パーティのメンバーなのだろう。
槍使いの少女がひとり、申し訳無さそうに控えている。
スタッフ
スタッフ
スタッフ
緑のメイド服を纏うスタッフは少女の剣幕にも動じず、柔らかな口調で言葉を返す。
剣士
剣士
剣士
剣士
剣士
剣士
剣士の少女は、必死だった。
情だけで判断すれば、力になりたいと思えるような光景だった。
スタッフ
スタッフ
ただ、緑のスタッフが告げたのは、おっとりとした、容赦のない言葉だった。
剣士
剣士
剣士
剣士
見込みがないと判断して、剣士の少女は踵を返す。
槍使い
槍使い
槍使いの少女は頭を下げると、剣士の少女の後を追い、店を出ていった。
スタッフ
カディ
カディ
緑のスタッフが嘆息し、青いスタッフ――カディが声を掛ける。
スタッフ
スタッフ
この環境に慣れたものでなければ聞き取れないような、小さな声の会話。
カディ
カディ
カディ
スタッフ
スタッフ
スタッフ
カディ
カディ
二人のそばでクエストスクロールの束を見つめながら、ルティはじっと立っていた。
そして、その眉間の皺が意味するところを
付き合いが長い者であれば、容易に理解することができた。
スタッフ
スタッフ
緑のスタッフ、セリナからルティへの、突然のフリ。
いや、この場合、分かっていて話を振ったのだろう。
ルティ
ルティ
ルティ
ルティは無遠慮にテーブルサイドにやってきて
机の上に1枚のクエストスクロールを置いてくれる。
ルティ
ルティ
ルティ
予想通りの展開になった。
ルティ
ルティ
ルティ
ルティ
誰のための支援なのかは、聞かないほうがいいだろう。
カディ
スタッフ
カディ
スタッフ
スタッフ
カディ
ルティの背後で、セリナとカディが何かを画策している。
ルティ
ルティ
いつもと変わらず、今日もルティは元気だった。
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交易の街、ファールウィンド。
そこはスプリングブリーズの西方に位置し、古くから物流の要所となっている。
普段なら、魔物が現れるような場所ではないが
ここ最近、目撃情報が相次いでいるらしい。
ルティ
ルティ
荷馬車の荷台で揺られながら、ルティはため息をつく。
今回同行したキャラバンは、行商人32名と、馬車24台の大規模なもの
積み荷の多くは食料で、あとは武器や防具の類
戦の噂を聞きつけて、ファールウィンドには多くの人と物が集っている
そしておそらく、強力な魔物も、集まってきているのだろう
ルティ
あの話という物言いに、引っ掛かりを覚えた
ルティは何かの情報を、掴んでいるようだが……
ルティ
ルティ
この3日間で色々な話をしたが、それらしい話を聞いた記憶がない
ルティ
ルティ
ルティ
ルティ
初耳だった
今の今まで、キャラバンの護衛がクエストだと思っていた
ちなみにワイバーンというのは
竜の頭、コウモリの翼、鷲の足、蛇の尾を持つ飛竜。
当然、飛竜だけあって、飛行能力をもっている。
地方によって様々な亜種がいるため、一概にはいえないが
大抵の場合、好戦的でタフで獰猛。
おそらくだが、楽に勝てる相手ではない
ルティ
ルティ
ルティ
ふと、ルティの上に影が落ちた。
反射的に、その身体を引き寄せる。
細くて軽いルティの身体は、簡単に腕の中に収まった。
密着したおかげで、ルティの体温が伝わってくる。
ルティ
ルティ
ルティ
ルティがあたふたするが、それどころではない。
鋭利な爪が、ルティがいた空間を裂く。
噂をすれば影。
フラグを立てれば敵。
その正体は、噂のワイバーン。
熱烈な歓迎をしてくれる。
ルティ
ルティ
武器を手に、荷台から飛び降りる。
全長2メートルと少しの飛竜。
襲撃してきた個体は、再び上昇して空に舞い上がる。
そして、見上げた空には、何体ものワイバーンの影が見えた。
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このキャラバンには他にも護衛がいたが、そちらも襲撃を認知し、戦闘が始まっている。
ワイバーンの群れを相手にした、防衛戦。
できることは、降下してきた個体に対するカウンター程度。
ライトニングボルトはダメージになり得ず
晴天の環境下ではコールライトニングも使えない。
他のパーティも、状況は似たようなものだった。
こちらは圧倒的な火力不足。
ワイバーン側は機動力で勝り
更に、上空から無遠慮に火球を撃ち込んでくる。
形勢は不利。
というより、不利という言葉すら生易しい。
火球の弾幕。そして、振り下ろされる狂爪。
複数のワイバーンによる、連携のとれた波状攻撃。
この相手は、普通の群れではなかった。
訓練された集団。
それこそ、軍を彷彿とさせる。
集団に対し、個で対応するのは限界があった。
無数のブレスが至近距離で着弾し、砂煙が舞い上がる。
即興の、下手な煙幕。
それでも、上空の敵の視界を遮れるのなら、上出来だった。
ルティ
ルティの声が聞こえ
次の瞬間、目の前にワイバーンの牙が見えた。
避ける時間はなかった。
空に注意を向けすぎていた。
ただ、死を、覚悟した。