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私にとって その数字は思い入れが強い
いま私がここにいられるのは その魔法の数字のおかげだから
何にもない田舎町
晴れても曇っても雨が降っても ずっと素敵な光景を見せてくれるこの町で
私は生きている
一枝
一枝
空気は綺麗で 肺は洗濯したみたいにすっきりした
深く呼吸をして 自身の胸に手を当てる
私はもう一度思った
生きている、と
一枝
一枝
一枝
一枝
一枝
隣を歩く夫に話しかけた
「そうだね」
まるで本当に声が返ってきたように 今のわたしには感じられる
きっと歩いてくれている
だって 何度も会いに来てくれたもの
一枝
一枝
一枝
「そうだね」
柔らかい風に乗って 声が答えてくれた気がする
一枝
一枝
一枝
一枝
一枝
小鳥が囀った
「そうだね」
声は小鳥の鳴き声に重なって聞こえてくる
私はバス停前の椅子に座った
一枝
一枝
私は水筒を取り出して カップになる蓋にお茶を入れた
それを隣に置いておく
自分の方は水筒の縁に 直接口をつけて飲んだ
一枝
一枝
一枝
一枝
一枝
水筒の中のお茶が ちゃぽんと音を立てて揺れた
「そうだね」
声は潤ったように伝わってきた
一枝
一枝
一枝
一枝
一枝
一枝
一枝
一枝
一枝
声は
返ってこない
一枝
一枝
一枝
一枝
声は返ってこない
一枝
一枝
声は返ってこない
一枝
一枝
貴方の選択で結末は変わります 運命を切り開きましょう
A.死ぬ
B.死ぬ
C.死ぬ
……
なんで
声は返ってこないの?
心細いの
とっても
心細いの
「そうだね」
私は顔を上げた
そこには誰もいなかった
一枝
一枝
一枝
「そうだね」
一枝
「そうだね」
一枝
声は返ってこない
一枝
「そうだね」
一枝
一枝
「そうだね」
一枝
一枝
一枝
一枝
「そうだね」
私は思い出した
いまの私が生きていられるのは 死んだ夫や一弥、秋斗くんだけのおかげではない
38人の命が支えてくれたものだった
私は38人の命を背負って いまを生きている
それだけの理由があった
あの魔法の数字がそれを教えてくれた
初めから答えを知っていたのに 私は、私は……
一枝
何かが頭に落ちてきた
びっくりして手で払うと なんてことはない葉っぱだった
「そうだね」
声は落ちてきた
一枝
一枝
一枝
「そうだね」
声は笑ったように聞こえた
そうしていると 遠くから低い音が聞こえてくる
一枝
一枝
私は立ち上がった
そして手を振った
バスが目の前までくると 声が返ってきた
「そんな手ぇ振らなくたって見えてる」
「恥ずかしいから大人しくしてろ」
「ばあちゃん」
一枝
一枝
「あ? なに笑ってんだ。気持ち悪ぃな」
一枝
「おっ。それお茶か?」
「もらうぜ。ばあちゃん」
一枝
「かぁー。生き返ったぜ」
「ふああ。それより今回は一人だからバスで眠っちまわねぇように気ぃ付けてたから眠い」
一枝
一枝
「そうだな」
一枝
その声が一瞬だけ
あなたの声に聞こえた
本当に一瞬だけ
一枝
「さっきから何笑ってんだよ」
「先行くぜ」
一枝
私は生きる
自分だけの命じゃないから
誰かのために
私自身の選択で
生きる
だからあなたも そしてどこかの"貴方"も
自分の選択で「いま」を生きてね
貴方の選択で結末が変わります 運命を切り開きましょう
A.生きる
B.生きる
C.生きる
さあ…… 貴方の運命や如何に