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文化祭当日。 人混みと笑い声 焼きそばの匂いと音楽と 全部が混ざり合って 学校はまるで別世界みたいだった。

モブ

及川〜、呼び込み頼むぞー!

及川 徹

はーい、イケメンサービスでーす♡

人の波の向こう 制服の上からニットを羽織って 小さく手を振ってる

及川 徹

ふうちゃん!

呼びかけると 彼女は小さく駆け寄ってきた。

ちょっとだけ人目を気にしながら でも自然と歩調が合う。 制服姿の彼女が 今日だけはいつもより華やかに見えた。

及川 徹

ふうちゃん、俺と一緒にまわってくれる?

秋保 楓花

うん...!!

校舎の廊下は、仮装や笑い声 紙の飾りでにぎやかに彩られていた。

秋保 楓花

ねえ、あそこの焼きそば屋さん、すごく並んでる

及川 徹

並ぶ?
ふうちゃん、焼きそば好きだったっけ?

秋保 楓花

うん。祭りのときとか、つい買っちゃう

及川 徹

じゃあ決まり!ふたりで並べば待ち時間も退屈しないしね!

焼きそばをふたりで食べて 手の甲がちょっと触れて、 きみは気づいてるのかいないのか ほんの少し距離を縮めてきた。

その仕草に、心臓がすこしだけ暴れた。

及川 徹

ねぇ、ふうちゃん! ほら、これ!
射的行こうよ、射的!

秋保 楓花

ええっ、また? もう3回目だよ?

及川 徹

でも当たってないからリベンジしないと!
三度目の正直って言うじゃん!

秋保 楓花

子どもみたい……ふふ

たくさんの人でにぎわう渡り廊下を歩いて、フォトスポットで写真を撮って。 ヨーヨーすくいではふたりとも1個もすくえなくて 悔しそうな顔を見てまた笑って。

夕暮れが、文化祭の校舎を ゆっくりと包み込んでいく。 空は橙色から紫へ そして群青へと変わるその途中だった。

屋台の灯りもぽつぽつと消えて 人混みもだいぶ少なくなってきた頃。 俺たちは、昇降口の近くの 少し奥まったところにある 小さなブースに立ち寄った。

及川 徹

ふうちゃん、ここ知ってた?

秋保 楓花

ううん。
でも……見て、あのお守り

目に留まったのは、手のひらにすっぽり収まるくらいの 淡い紺と白の布でできたお守り。 小さく「結守(むすびまもり)」って刺繍が入ってた。

やわらかい鈴の音がして そばに貼ってある小さな説明書きが目に止まる。

『このお守りを一緒に買って持ち歩いた二人は── 永遠に、結ばれるという伝説がある』

秋保 楓花

……永遠、かあ

及川 徹

いいね。こういうの

及川 徹

これ……一緒に、買わない?

秋保 楓花

……いいの? ほんとに?

及川 徹

うん。だって……俺は、信じたいし

きみは少しだけ黙って、 それから、ゆっくりと頷いた。

二人でひとつずつ 色違いのお守りを手に取った。 紺と、藤色。 手作りらしくて、どこかあたたかい。

及川 徹

俺、これ部活の遠征バッグにつける!

秋保 楓花

私は……通学かばん。
毎日一緒にいられるから

ちり、と鈴の音が鳴った。 それが、まるで約束の証みたいに 小さく空に響いた。

彼女が、俺の手を握って言った。

秋保 楓花

ねえ、及川。
もし伝説がウソだったとしても──
私たちは、私たちの“永遠”を作ればいいよね

その瞬間、言葉じゃなくて、 ただまっすぐ彼女の手を握り返した。

ふたりで信じたものは きっと、嘘じゃない。 俺は、そう思いたかった。

後夜祭

打ち上がる音が、夜空を震わせた。 ドン、と胸に響く低音。 それから、パッと夜空に咲く花。 ひらひらと舞う火の粉が まるで空の中で笑ってるみたいだった。

秋保 楓花

きれい……

見上げる瞳が、花火の光を映して きらきらと揺れている。 その横顔を、俺はそっと盗み見る。

及川 徹

今日は、一緒にいてくれてありがとう

秋保 楓花

こちらこそ。
……及川と過ごせて、すごく嬉しいよ

花火が、また夜空に開いた。 紅、蒼、白──その一瞬のきらめきが ふたりを包む。

そして、俺は手を差し出した。

きみの手が、それに重なる。 そのぬくもりは、花火よりもずっと 胸を熱くした。

及川 徹

来年も、再来年も……できれば、ずっと。
こうして、隣にいてくれたら嬉しい

彼女は目を見開いて それから小さくうなずいた。

秋保 楓花

……うん。私も、そう願ってる

打ち上げられる最後の大輪が 夜空いっぱいに咲き誇る。 その瞬間、俺は彼女の肩を引き寄せて そっと額を寄せた。

騒がしいまわりの音も、 響く花火の音も、 何もかもが遠く感じた。

『君が教えてくれた空』

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