テラーノベル
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文化祭当日。 人混みと笑い声 焼きそばの匂いと音楽と 全部が混ざり合って 学校はまるで別世界みたいだった。
モブ
及川 徹
人の波の向こう 制服の上からニットを羽織って 小さく手を振ってる
及川 徹
呼びかけると 彼女は小さく駆け寄ってきた。
ちょっとだけ人目を気にしながら でも自然と歩調が合う。 制服姿の彼女が 今日だけはいつもより華やかに見えた。
及川 徹
秋保 楓花
校舎の廊下は、仮装や笑い声 紙の飾りでにぎやかに彩られていた。
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
及川 徹
焼きそばをふたりで食べて 手の甲がちょっと触れて、 きみは気づいてるのかいないのか ほんの少し距離を縮めてきた。
その仕草に、心臓がすこしだけ暴れた。
及川 徹
秋保 楓花
及川 徹
秋保 楓花
たくさんの人でにぎわう渡り廊下を歩いて、フォトスポットで写真を撮って。 ヨーヨーすくいではふたりとも1個もすくえなくて 悔しそうな顔を見てまた笑って。
夕暮れが、文化祭の校舎を ゆっくりと包み込んでいく。 空は橙色から紫へ そして群青へと変わるその途中だった。
屋台の灯りもぽつぽつと消えて 人混みもだいぶ少なくなってきた頃。 俺たちは、昇降口の近くの 少し奥まったところにある 小さなブースに立ち寄った。
及川 徹
秋保 楓花
目に留まったのは、手のひらにすっぽり収まるくらいの 淡い紺と白の布でできたお守り。 小さく「結守(むすびまもり)」って刺繍が入ってた。
やわらかい鈴の音がして そばに貼ってある小さな説明書きが目に止まる。
『このお守りを一緒に買って持ち歩いた二人は── 永遠に、結ばれるという伝説がある』
秋保 楓花
及川 徹
及川 徹
秋保 楓花
及川 徹
きみは少しだけ黙って、 それから、ゆっくりと頷いた。
二人でひとつずつ 色違いのお守りを手に取った。 紺と、藤色。 手作りらしくて、どこかあたたかい。
及川 徹
秋保 楓花
ちり、と鈴の音が鳴った。 それが、まるで約束の証みたいに 小さく空に響いた。
彼女が、俺の手を握って言った。
秋保 楓花
その瞬間、言葉じゃなくて、 ただまっすぐ彼女の手を握り返した。
ふたりで信じたものは きっと、嘘じゃない。 俺は、そう思いたかった。
後夜祭
打ち上がる音が、夜空を震わせた。 ドン、と胸に響く低音。 それから、パッと夜空に咲く花。 ひらひらと舞う火の粉が まるで空の中で笑ってるみたいだった。
秋保 楓花
見上げる瞳が、花火の光を映して きらきらと揺れている。 その横顔を、俺はそっと盗み見る。
及川 徹
秋保 楓花
花火が、また夜空に開いた。 紅、蒼、白──その一瞬のきらめきが ふたりを包む。
そして、俺は手を差し出した。
きみの手が、それに重なる。 そのぬくもりは、花火よりもずっと 胸を熱くした。
及川 徹
彼女は目を見開いて それから小さくうなずいた。
秋保 楓花
打ち上げられる最後の大輪が 夜空いっぱいに咲き誇る。 その瞬間、俺は彼女の肩を引き寄せて そっと額を寄せた。
騒がしいまわりの音も、 響く花火の音も、 何もかもが遠く感じた。
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