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ガラガラ…

咲蓮

…お兄ちゃん

兄は呼びかけると同時に振り向き、 それまで机に向かって見ていた手帳の ようなものを慌てて閉じた。

小萩

っ咲蓮!

小萩

起きてたのか…

咲蓮

うん

咲蓮

寝ようと思ってたん
だけど、空からこれが
降ってきたから

そう言って、先ほど拾った葉を見せる。

新月の里の子どもよ、こんばんは。

一ヶ月後、数百年に一度といわれる 風露月(こぼれづき)が空に姿を現します。

それにちなんで祭りを開催するので、 準備を手伝ってくれませんか。

場所は、天渡(そらかけ)の丘です。

最後の一文には目を疑った。

なぜなら、天渡の丘はこの里と 宵影の里のちょうど真ん中にあるからだ。

小萩

差出人が書いてないな、
この手紙

咲蓮

あ、ほんとだ…

小萩

行ってみるか?

咲蓮

えっ…

送り手のわからない手紙。

その文面のとおりにしてしまったら、 何が待っているのかも予想がつかない。

それでも。

咲蓮

行ってみたい!

小萩

…明日は早起きしろよ

翌日。

天渡の丘に着くと、少し離れたところに 立て看板を見つけた。

―試練其の壱

素敵な花を摘んできてください―

試練、という言葉に少し緊張する。

でも、看板に書かれているのは 「花を摘む」ということだけ。

ということだけ。

そう難しいことではないはずだ。

咲蓮

お兄ちゃん、
やってみよう!

そう言うと兄はふっと息をつき、

小萩

素敵な花っていっても、
どんなのがいいか
わからないな

咲蓮

素敵っていうのは、
人によって違うもんね

小萩

とりあえず歩いて
探してみるか

咲蓮

うん!

ゆっくりと丘を見渡す。

ここは草花がたくさん生えているけれど、 せっかくなら特別な花を選びたい。

そう思いながら、丘のなだらかな 斜面を降りた。

足元には小さな白い花や黄色い花が 咲いていたけれど、それらはどこにでも ありそうなものだった。

もっと特別な花があるはず。

すると、向こうに紫色の花が 咲いているのが見えた。

咲蓮

わ…綺麗…

近づいてみると、それは藤の花だった。

垂れ下がる房が風に揺れ、 淡い紫がたゆたう。

そっと指先で花びらをなぞった。

別の花も探そう、と思って丘の上に 戻ると、兄がじっと何かを見つめていた。

咲蓮

お兄ちゃん?

彼の視線の先には、淡い青色の 小さな花があった。

小萩

勿忘草…

兄はしゃがみ込んで、そっと指で 花の茎に触れる。

小萩

きれいな青色だな

咲蓮

うん。
なんだか、
夜明けの空みたい

そう言いながら、そっとそれを摘んだ。

手のひらに収まるくらいの可愛らしい花。

でも、これだけじゃ少しさみしい 気がする。

もっと素敵な花を見つけたい―

そう思い、もう少し歩き回ってみる ことにした。

丘の端に進むと、今度は地面一面に 広がる小さな花々が目に入った。

小萩

お、あそこ…芝桜か?

咲蓮

絨毯みたい!

小萩

これも摘んでみるか

気づけば腕の中には、藤の花の一房、 勿忘草、芝桜が揃っていた。

兄は私の手の中の花を見つめた。

小萩

もう少し集めたらどうだ?

そう言われ、私はもう一度丘を見渡した。

すると、少し先に濃いピンク色の花が 集まって咲いているのが見えた。

咲蓮

あれは…ツツジ!

ふんわりとした質感で、 鮮やかな色が目を引く。

藤、勿忘草、芝桜、ツツジ——

咲蓮

よし、あとひとつくらい…

小萩

あっち、なんか星みたいな花が咲いてるぞ

向こうへと目を向けると、 星のような形をした淡い青紫の花が 咲いているのを見つけた。

咲蓮

丁子草……!

珍しい花を見つけたことが嬉しくて、 急いで駆け寄った。

星の形をした花びらは、風に揺れても 崩れず、凛とした雰囲気を持っている。

咲蓮

よし、これでいいかな

藤、勿忘草、芝桜、ツツジ、丁子草。

私はそれらを大事に抱えながら、 兄と一緒に看板へと戻る。

そっと花を地面に置く。

咲蓮

ふぅ…なんか、
疲れちゃった

小萩

もう遅いし、
そろそろ家に帰るか

ふと空を見上げると、太陽は西へと傾き、 雲の端はほんのりと色づいていた。

家路をたどる道の上に広がる夕焼け空は、 虹の欠片を散りばめたような色彩が 淡く溶け合っていた。

𝓉ℴ 𝒷ℯ 𝒸ℴ𝓃𝓉𝒾𝓃𝓊ℯ𝒹

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