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3 - 2人♯3

♥

235

2020年01月10日

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2人の部屋は 1人になると随分と広く感じる

いつもと変わらないフローリングも 彼がいなければ凍るほど冷たい

いつもと変わらない風呂も 彼がいなければ広くて溺れそうで怖い

いつもと変わらないベッドも 彼の温もりを無意識に探してしまって

彼の腕に抱かれたことが 幸せな記憶として僕を支配している

彼がいなくなった部屋を 掃除していた時だった

カサッ

何だろうと拾い上げあげると

うらたさんへ

さかたからの手紙だった

読もうと思って開くと 彼の匂いがかすかにした

感謝の言葉と 愛情の2つ

無機質な紙から 彼の全てのような、ほんの一部のような

何かが伝わってきた

久しぶりに彼の存在を確認すると 思いの外、また涙が溢れてきてしまって

初めてお酒というものに 手を出した

彼が呑んでいた酒は いつか彼が帰って来たときに 2人で呑めたらと希望を込めて 大切に残していたけど

彼を思うと 何でも良いから彼の一部が欲しくて

僕は真っ赤なビンの蓋をあけた

最後に彼から感じた香りは このお酒だったかもしれない

思い出してく 彼がどんな人がだったかを

身長が高くて いつもキスをするときには

僕が背伸びをしていた

長い前髪は彼の心を 何かから隠すようで

たまに見える瞳は真っ黒で

狼のように黒くて真っ直ぐだった

僕を撫でる手は優しくて 彼に抱き締められたら

絶対に逃げられなかった

彼の声はいつも 僕の奥深くに突き刺さって

怖いのに気持ちよくて

愛しかった

真っ黒なタトゥーも最初は 怖くて嫌だったけど

彼の一部だと思うと

これ以上ないほどの愛しさが溢れた

耳元のピアスは2人を繋ぐ唯一の糸

彼は今も身につけているだろうか

僕を忘れていないだろうか

彼がピアスを外してしまっていても 僕を忘れてしまっていても

僕は彼との思い出を何1つ 忘れたくない

例え辛さが一緒にあったって

小さなカケラ1つでさえも 大切に、なくさないように

全身で抱き締めていたい

彼に愛されていたかった

いつも通りの町

僕の身体は相も変わらず 夢に破れて愛を求めて生きている

今日も僕は無意識の内に 彼の姿を探す

だけど

あれから8年経った今日も 彼の姿はない

初めて出会った町は 変わってしまったけれど

僕は相変わらず1人 彼だけを待っている

昼くらいになって 太陽が桜の花びらを揺らしていた 暖かい風が吹く

ふいに彼の香りを感じて 僕は辺りを見回した

彼の姿はない

桜並木に隠れていないかな もしかしたら家にいないかな 僕を探していないかな

錯覚に陥る自分に 呆れながら、僕は彼と出会った その場所から、立ち去ろうとした

今日でもう、ここに来るのは やめにしよう

そうやっと覚悟出来たのに

背後から、愛しい声が響いたから

うらたさん、
会いたかった…

そんな覚悟も一瞬で捨ててしまう

ねぇ…
もう一度だけ

僕を飼ってよ

待ち望んでいたその時は 気紛れに突然やってきて

……………ぅん…っ………

「[愛してる]」

奇跡を起こしてしまう

一生、離さないで…
さかた

もちろんだよ

この言葉があれば 僕は何処へでも行けると思って

背伸びをして 愛しい彼にそっとキスをした

うらたさん、
それこっち!

今日は2人で引っ越しをしている 狭い2人の部屋から 大きな2人の家に移るため

わかったー!

さかたは御曹司の一人息子だ ということを僕は最近知った

会社を継ぐのが嫌で逃げていた ということも

8年間、海外で修行を積み 今は世界からも注目を浴びる人物

んー、実感沸かない

僕のなかでは、 さかたはさかただ

例えエリートになっていても 長かった前髪が短くなっていても いつも輝いていたピアスが減っても

僕とお揃いのピアスは外さないから

さかたはきっと変わっていない

ただ、少し変わったことがあるなら

…わわっ、危ない!

えっ、…わぁ!?

もー…
良いよ、貸して?
僕が持つよ

ごめん……

…うらたさん

…なに?

愛してる

いつも好きとしか言わなかった彼が 愛してる、と言うようになったことかな

俺も
愛してる

変わらない愛のカタチ それでもそこには愛はあるんだ

それなら僕は、信じるだけ

さかた、僕を愛してくれて ありがとう

背伸びして彼にキスをする 僕の影が2人の家に移った

2人の幸せな笑い声が響く 何よりも愛しい空間が

どうか永遠に続きますように

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