主
息遣いだけで説明できた。その瞬間、全ての人の意識がそこに集中した。息を吸う音、ピアノの一音。それだけで引き込まれた。会場にいる全員が。大人も、子供も、老人も、赤ん坊も。歌っているのが中学生とは思えないほどの歌唱力、そして表現力。その歌にはメロディだけでなく、しっかりと“気持ち”が乗っていた。リズムや声質がどんどん変化していく。高音が軽やかに舞い、低音が大地を揺らす。中音がしっかりとメロディの音程を取り、高音が美しいハーモニーを奏でる。一人一人の声は独立しているのに、その声が溶け合い、まるで天空をうねる龍のように空間を満たす。歌が壁に反響し、声量が上がっていく。会場は息をするのも忘れ、ただ美しい声に身を任せていた。
__これは、「伝統」を大切にしてきた中学生が「伝説」になる話。
