金髪ギャルと牛島若利

今日は卒業式だ

卒業かぁ…

別に「THE・青春」なんてしてねえしな

普通なら友達と涙流して、結局笑顔で卒業式を終える！って感じじゃないし…

なんでこうあたしの頭マイナス思考にしか働かないのかしら

あたしも友達と泣いたり笑ったりしたかった、なぁ…

まあ、3年生はいろいろあったな、

彼のおかげで

卒業式を終え、みんなが写真を撮ったり

彼氏に花束をあげたり、自由な時間だった

みんなが別れを悲しみ、でもその時間を少し楽しんでいるようで…

そんな時間あたしは学園を見て回っていた

これくらいしかやることないもんね

歩き回っていたらある体育館に着いた

ここは男子バレーボール部専用体育館だった

ここでいろいろありましたな…！

よく連れ出されたり、いろいろと…

あっ…！日向くんもここで会ったなぁ…

春高すごい活躍だったし

彼ならバレーボールに身長は関係ないっ！

て、みんなに思わせてくれるよね

体育館裏と言ったら隼人！

中等部でいろいろ話したなぁ

今考えるとすげえいい奴だったしな

もう少し、バカみたいな話をずっと、していたかった

連れ出しと言えば、後輩生意気ズ！

あの3人はプレッシャーがすごいと思うけど、頑張ってほしいな

あの大きな3年生の代わりをね

賢二郎は…新しいエースで、新しい白鳥沢を作ってほしい

新しい強者をね

あと！はじめととーる！あれっきりだったけど

仲良くなれたし、仲良く…？まあどっちでもいいや

またいつか、会えるかな

あと、インターハイも行ったなぁ

いろいろあったね…インターハイも

みんなに言ってないけど、宮兄弟に絡まれたり

試合を見るのも楽しかった

改めて白鳥沢の強さを知った日だった

圧倒的な力で押しつぶす、なんてカッコいいのだろう…！

そうだ、この体育館でバレーの授業もやったなぁ

スパイク打てなかったけど…頭ぶつけたし、今もちょっと痛いし

でもあたしはあの牛島若利のスパイクを受けたことがある！って

みんなに自慢できるよね

この学園では少しだけど、いろいろなことがあったな

今までのことを考えながら歩いていたら

白鳥沢学園で1番大きい桜の木の前にいた

いつの間に歩いてきたんだ、あたし

桜吹雪と共に暖かい春風で

少し気持ちが暖かくなる

しばらくその木を見惚れていたら

背後から声がした

よく聞いたことのある声

声が聞こえた瞬間、後ろを振り返ったら

桜吹雪でふわっと髪の毛が舞った

その桜の先には

牛島若利がいた

卒業式後俺はバレー部専用体育館に足を運んだ

少し見たくなったのは、気のせいだろうか

この学園にはいろいろなプレイヤーがいた

父の言う通り強いところにはいろいろな選手がいる

強い奴や面白い奴、環境がいろいろ整えられていた

そして強くなれば色々な奴と戦える

強い奴、変な奴、そして——新しい奴

父の言葉を信じて、白鳥沢に入った

それが正しかったのかどうかはよくわからない

そして俺は卒業する

最後の春高

いつものようの青葉城西を下し、全国に行くものだと思っていた

自分のいるチームが最強のチームだと、それを当然に思っていた

「俺の後輩頭悪いけど———」

及川のその発言は俺たちの敗北を見透かすような発言だった

高校3年間

今思えば、長い長いバレーボール人生の短い3年だったのかもしれない

歩いていたらいつの間にか

桜の木の前にいた

綺麗な木だな…

思わず見つめていると、近くに女子生徒がいることに気づいた

金色の髪に、スラリと伸びた長い手足

彼女もその木を見つめていた

見たことのある女子生徒だった

俺がそう言ったら、彼女は後ろこちらを振り向いた瞬間

心地の良い春風が吹いた

桜の花びらたちが、一斉に舞い上がった

桜と共に彼女もふわっと髪が舞った

桜と一緒に舞った彼女はとても

綺麗だった

心臓がドクンとなった

声の先には牛島若利がいた

そう言って、牛島はみんながいるところに向かっていった

その姿をあたしは見つめるだけ

そうだよ、牛島は人気者。あたしなんかよりずっと…

自分で追い返したくせにここまで喉が張り付くのは何故だろう

すごく、寂しい

彼のおかげでこの1年少しは楽しいと思えた

本当にこのままでいいの…？

このずっと感じているモヤモヤは放って置いていいの？

でも、

今までの記憶が全て蘇る

やっぱり伝えなきゃ…！この気持ちを

気づいたらあたしは彼の元へ走っていた

彼の左手をきゅっと握り

今言えることの精一杯

ニカっと全力で笑顔を作った

あたしは走り去っていった

これできっとよかったのだ

あたしたちの関係は

金髪ギャルと牛島若利

この奇妙な関係はようやく幕を閉じる

でも、最後に一言伝えるのを忘れてしまった

【FIN】