この作品はいかがでしたか?
300
この作品はいかがでしたか?
300
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ワコは海老のように丸くなり、すすり泣いていた。
すでに24時間以上飲まず食わずの状態がつづいている。
命綱であるはずの点滴も空っぽ。
それなのに、ワコの思考は別のところにあった。
今しがた起こった出来事に対処しきれずにいた。
昨夜の口づけが
あまりに唐突で
あまりに理不尽で
Kの流した涙は
あまりに悲しく
あまりに淋しく
それらが、かたくなだったワコの心に突き刺さった。
小学生で母に捨てられ
中学卒業で父に売られ
日陰をひたすら歩いてきた。
やっと手にした幸運は
地獄への片道キップだった。
昨夜は逃げ出すチャンスがあったはずなのに
みすみす棒にふった。
なぜ
なぜ
なぜ
逃げる勇気が無かったんじゃない。
気持ちが揺らぎ
ぐずぐずしていたのだ。
両親よりも
売られた先の茶屋の女将よりも
これまで出会った誰よりも
Kに優しさを感じたから──
それは
監禁というゆがんだ形ではあるけれども
いずれは殺されるとわかっていても
偽りの優しさだと知っていても
人生において
ワコはこんなにも優しい扱いを受けたことがなかった。
父から罵声を浴びることもなく。
女将から蔑まれることもない。
Kは綺麗だと言ってくれる。
愛してるとも言った。
そして昨夜のぬくもり
肌のぬくもり
ゆりかごのぬくもり……
始めてのぬくもり
ワコ
ワコ
ワコ
ワコ
ワコ
ワコ
嫉妬……
ワコ
ワコ
この部屋から一歩出れば
Κはワコの知らないケイジという名で
人が羨むような華々しい生活を送っている。
理事長の娘が部屋に乱入し
その一旦を感じ取ってしまったから余計に悲しいのだ。
ワコはけして表に出せない女。
ゆいつΚの闇を知る女。
いずれはΚによって殺される。
快楽を得るための獲物。
それでもいいと思った。
ワコ
生きてる人間はワコしか知らない。
こんな考え
まともじゃない。
もし神様がいるなら
Kを甘んじて受け入れる私を
どうかお許しください。
ワコはふたたび嗚咽を漏らした。
理事長の娘に見られたのだから
すぐにでも
始末されるだろう──
少しして
ガラリと音を立て、ドアが開いた。
早くもΚが戻ってきた!
ワコはベットの中でじっとしていた。
そしてΚから声がかかるのを待った。
せめて
Κの腕の中で死にたい。
ワコはそう強く願った。
1、2分が過ぎたろうか。
Kは一向に話しかける様子がない。
殺しの準備をしている風でもない。
ワコは不思議に思って顔をあげた。
驚いた。
足もとに
見知らぬ男が立っていた。
ワコ
ワコ
どうも様子もが変だ
男は今にも泣き出しそうな顔をしている。
ワコ
男は小さくうなずく。
皮膚がクレーターのような痘痕顔。
太っているせいで首がなく背中は異状なほど猫背だった。
とても醜い男だった。
ワコ
男はまばたきした。
ワコ
ワコ
男は首を横にふる。
ワコ
ワコ
ワコ
男
男
ワコは首を横にふる。
ワコ
ワコ
ワコ
男
ワコ
男は自分も同じだとばかり胸をたたき
うんうんうなずいた。
ワコ
ワコ
ワコ
男はうなずいく。
ワコ
照れたのかもじもじし出した。
ワコ
男はうつむいた。
ワコは食事をまずいといってKに突き返したことを思い出した。
ワコ
ワコ
ワコ
ワコ
男はうつむきながらワコのそばにきた。
男
男
男
男
男
男
男の手がワコの頬に触れる。
ごつごつの手が触れる。
ワコは男の手に自分の手を重ね
静かに下ろした。
ワコ
ワコ
ワコ
ワコ
ワコは無理して微笑んだ。
男
男
男
男
男
ワコはただ微笑む。
これが最後の晩餐になるはずだ。
ガラリ!
K
K
鋭く尖ったナイフような声がする。
Kはゾクッとするほど冷淡な表情を浮かべて立っていた。
男はみるみるうちに震えだした。
Kは颯爽と部屋の中に入ると
いきなり男を捕まえ
出っぱった腹に思いきり膝蹴りを入れた。
男は腰砕けになって崩れ落ちる。
ワコ
むろんΚはワコの言うことなどお構い無しだ。
倒れた男をこれでもかと何度も蹴る。
ワコ
ワコ
ワコ
Kはやめようとしない。
K
K
K
Kはものすごい剣幕で怒鳴りちらす。
ヨシオと呼ばれた男は
弱々しく首を横にふる。
Kは倒れたヨシオをひっ掴み容赦なく殴った。
ヨシオ鼻から血が吹き出した。
ワコ
ワコ
ワコ
ワコの幼い頃の記憶が呼び起こされた。
父親が母を容赦なく殴り付けるのを思い出した。
いろんなことが一気に込み上げる
幼い自分にブラッシュバックする。
死がせまる恐怖が襲いかかる。
なのにKにひかれる自分がいる。
殺人鬼に思いを寄せる罪悪感
嫉妬
すべてが一度にワコに襲いかかる。
息が苦しい……
パニックになり
過呼吸になり
息ができなくなった
ハァハァハァハァ
苦しい
息が──
できない
・
・
.
つづく