コメント
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なんだか綺麗で、儚くて、でもどこか切なさもあるお話で凄く惹き込まれてしまいました……。表現の仕方や物語の流れ方がとても好きです…!
春が来た。 暖かい風とともに運んでくる桜の花びらが 目の前の愛しき彼の雪色を彩る。
kzh
kne
くつくつと喉の奥を鳴らして笑えば、 葛葉の髪に手を伸ばして花弁を退かす。 困ったように眉を下げ、なんだと軽口を叩く彼は幼すぎて愛しすぎる。
kzh
ぷい、と顔を背けた葛葉の視線は桜に向いていた。 確かに桜は綺麗だ。 毎年咲く癖に人々は飽きずに愛で続ける。 否、飽きられる前に桜から枯れるのだと、その表現が正しいのかもしれない。
kne
冷たい人間だと蔑まれようと構わない。 それほど惚れ込んでしまったのだから、今更言い換えることなんて到底できないのだ。
kzh
その赤い瞳が、今は桃色に染まっていても、
kne
kzh
我ながら格好つけ過ぎてしまった自覚はあった。それでも葛葉は分かり易く照れてしまうから、心配になる。 桜というよりはさくらんぼの方が適切かもしれない、頬の赤みが増しておどおどと戸惑う表情がいじらしい。
kne
そんな頬に甘く口付けを落とす。 好きすぎて傷付けてしまうのが怖いから、優しくすることしか出来ない。
慈悲に慈悲を重ね、それでいて甘みと恋慕と愛しさを。 さもなければ、この人一倍一倍繊細で臆病で、お人好しな彼を腕の中に閉じ込めておくことができない。
kzh
kne
嘘つき、お前の瞳に移ってるのは桃色じゃなくて僕以外の何ものでもないでしょ? 桜なんて一時的なものよりも、 春も夏も秋も冬も関係なくそばに居る僕の方が断然良いじゃないか。
kzh
kne
やってしまった、と肝から全身が冷えていく。 あたふたと葛葉の顔をのぞき込むと、
kzh
kne
ほらね、そうやってお前は笑うんだ。 その笑顔に何度も何度も狂わされてるってこと、知らないでしょ?
kzh
kne
kzh
何かを言いかけた葛葉が、物惜しげに目を伏せる。 長いまつ毛が下を向いた時、 自分の胸奥がどこか空っぽになる感覚に襲われた。
kzh
ほら早く、と僕の手を掴んではずんずんと進み出す葛葉。
ねえ、葛葉。 お前はまだわからないままでしょ? 過去の記憶の中、桜と一緒に笑う吸血鬼を、僕は知っているってこと。
お前はいつだって僕を春に呼び起こした。 それは平和と称される現代にだって。
???
その一連の出来事を、僕は桜の呪いと呼んだ。