悠佑
俺は勢い余って(?) ぶっ飛ばしてしまった りうらの方を見た
りうら
悠佑
セーフやんな…
セリフからは犯罪臭が漂ってきて 罪悪感を増幅させた。
悠佑
寝かした方がええ…よな
心の中に燻る自己嫌悪と罪悪感から なんとか逃れようと行動を起こす
りうら
悠佑
ただお前にも批はあったと思うという 余計な一言は喉に押し込んで謝った
悠佑
人外の人魚は俺よりも弱いようだから 優しく接することを決めた俺は 慎重にりうらの体に触れた
悠佑
りうらは短パンにTシャツと足が 見える格好をしているために気づいた 足にまばらだが鱗があるようだ
りうら
悠佑
うめき声は先ほどからちらちらと 聞こえてきたものの、息苦しそうに 咳をしているのは初めてだ。
悠佑
上半身が人、下半身が魚の化け物。 それが人魚を簡単に説明したものだ
悠佑
大丈夫なはずやろ…?
人は肺呼吸である。そのため人魚も そうだと考えていた。 だからすんなり陸にも慣れるとばかり 思っていた
悠佑
そう考えただけでも 俺の背筋は零度に凍った。
悠佑
浴槽、でも良いかもしれないが、 水を貯めている暇なぞない。 海の方が早く着くことはわかっていた
悠佑
りうら
いまだに意識が回復しないらしい りうらを背負い、 海へと早歩きしだした
悠佑
病み上がりで完全ではなかったが 無事にりうらを海に運ぶことができた
悠佑
また放り投げるわけにもいかないので ある程度の深さのところまで 一緒に連れて行くことにした
悠佑
気をつけやなな。
腰辺りまで浸かったところで、 りうらの全身を海に浸からせてみた
悠佑
人魚について、よく知らないことを 改めて痛感する。
悠佑
人魚のこと、というよりも りうらのことを知らんと言った方が…
悠佑
アイツに教えとること
少ないし…
一人でこんな言い訳を考えている時点でもう手遅れなのだろうが、 今はりうらが回復することを願うことに決めた
りうら
悠佑
今、海の中でヒレのようなものが 触れた気がした。
悠佑
りうら
どういうこと!?
すっかり元気になったようで、 海面から顔を出して話しかけてきた
悠佑
俺は思わず、りうらに抱きついた。 海の中だからか、よろめくといった ことはなかった。
りうら
りうら
状況なの?
悠佑
戻りかけてたから……
俺が殴って気絶させたせいで、 戻った可能性は全然あるが、そこは 伝える気も起きなかった。
りうら
いける予定だったのに
りうら
騙しやがって…!
悠佑
怒りが含まれたセリフの中に、 りうらの知人?と思われる人魚のこと がでてきて、思わず質問した
りうら
りうら
悠佑
タコ野郎、という随分濁した言葉でも 怒られるだなんて、 一体どんな奴なのだろうと 余計に気になってしまった
りうら
ならいっか!
少し俯き考えたあとにすぐに ぱっと顔をあげて、りうらは言った。
悠佑
りうら
優しいし、それに
信頼からくる言葉が、 君の俺を撫でるような褒める言葉が
りうら
俺の脳を、だんだんと溶かしていく
悠佑
そのことに気づくのは、 もう少し先だろうけど。
りうら
好きだよ。
悠佑
こともなげに言い放てるりうらを、 少し羨ましくも、恨めしくも思う
悠佑
タコ野郎ってのはなんなん?
りうら
海から出なきゃでしょ
悠佑
先ほどの、タコ野郎…さんの話を 誤魔化されるのも嫌だったので そう言った
りうら
下半身が海に浸かってればね
りうら
どうするの?
自分よりも幼い(そう見える)りうらに 言われてしまっては面目ないので、 一旦出ることにした。
悠佑
浜辺に座り、濡れた服が少し、 気持ち悪く感じながらも話を再開した
りうら
タコ野郎は、
僕の友達のことだよ
りうら
タコ足の魚人で
ピンク頭の奴だよ
悠佑
りうら
そう呼んでるんだ!
よくイラつかせられてるのだろうな と呼び慣れていそうな感じがしたから そう思った
悠佑
なんて言うん?
りうら
僕は普段ないちゃんって
呼んでるんだ
悠佑
今なにか、黒いものが燻った気が したが、目を背けることに決めた
りうら
昔から一緒に遊んでたんだ
りうら
偉そーにしてくるし
悠佑
冗談半分の気持ちではあった。 けれど本当にそうだったら良いのに なんてありもしないことを思った
りうら
でも付き合いが長すぎて
好きとは言えないかな
悠佑
仲良しなんやな
りうら
ちょっと照れくさそうに、 りうらは笑った。
悠佑
初めて、見た顔だった。
悠佑
君をそんな顔にさせられるないこも 親友がいる君も、二人とも羨ましい
りうら
悠佑
そんなことを思っていると、 りうらが急に俺の顔…というよりは 瞳をじっと見つめてきた
りうら
嫉妬…してる?
悠佑
言葉の意味が理解できなかった。 脳みそが働くことを拒否したんだと、 思ってしまった。
悠佑
ゆっくりと噛み砕いてゆくが、 速度が落ちすぎてツッコむ余裕もない
りうら
ユウスケはかわいいね
りうらは、いっそ気持ちの良いほどに 悪い顔をして笑って、俺の手をとった
悠佑
左手の薬指に、りうらの歯があたり、 次に微弱な痛みが走った。 噛まれたのだ。
りうら
最後にわざとらしいリップ音を立て りうらは言った
りうら
ユウスケだけだよ
悠佑
告白は以前にもされたはずだ、 だがああ、 ここまでの破壊力はなかったはずだ
りうら
また明日あおーね!
悠佑
呆然としている間に、殴られまいと りうらは海の中へと消えていった
悠佑
また、明日。 それが嬉しかったことも、 告白も、全て、
悠佑