童ノ宮奇談「辿縁」篇
専業主婦の竹原カリンは、娘ミトを連れて駅前のメンタルクリニックを訪れる。
彼女は日々つきまとう、正体不明の気配に怯え、不安に苛まれる日々を過ごしていた。
そして、娘の掌に、彼女が生まれた時から握りしめられている“天狗石”。
それは、かつて自分が逃げ出した実家・塚森家に伝わる神紋が刻まれた石だった。
何度捨てても、必ず戻ってくる。まるで“誰か”が、娘の手に戻しているかのように。
さらにミトは、誰も教えていないはずの真言を口ずさみ、
「おめめが一つだけのお兄ちゃん」と楽しそうに話すようになった。
カリンは語り始める。
自分の家は、神職の家系だったこと。
見えないものが“日常”として家の中を歩き回っていたこと。
家族はそれを当然のように受け入れていたこと。
ただ一人、自分だけが恐怖に震えていたこと。
だから逃げた。
だから忘れた。
だから、記憶を封じた。――そのはずだった。
なのに、娘の誕生とともに、封じたはずの記憶は再び“こちら側”へ滲み出してきた。
まるで、呼び戻されるように。
カウンセラーは静かに言う。
「神様がいるかどうかではなく、
あなたが“なぜ”そこまで恐れているのかが問題です」
そして提案される催眠療法。
カリンは、記憶の奥底へ沈む決意を固める。