ガサガサッ
篤史
いたか?
睦実
いいや、ただの虫だよ
篤史
…そうか
睦実
全く
睦実
お前も人がいいよなぁ
睦実
森に狼が出るなんて話を信じて
睦実
こんな夜に山の見回りなんてさ
篤史
そんな俺に付き合うお前だって
篤史
充分お人よしだと思うけどな
睦実
俺のは気まぐれだよ、気まぐれ
睦実
どうせ家にいたってする事もねーし
睦実
可哀想な篤史君に
睦実
付き合ってやろうと思っただけ
篤史
はいはい
篤史
そういう事にしといてやるよ
篤史
てか、居なかったな~狼
篤史
夜に狼の鳴き声が聞こえたらしいのに
睦実
つーか、狼って
睦実
どうせ、ぼけたじじばばの聞き間違いだろ
睦実
俺はそんな鳴き声聞いたことないし
篤史
でも、聞いた人は一人や二人じゃない
篤史
もし本当に近くに狼がいたら
篤史
村の皆が危険になるだろ?
睦実
はっ、ばぁか
睦実
日本の狼はとっくの昔に絶滅したんだぜ
睦実
お前、そんな事も知らないのか?
睦実
時代遅れの馬鹿ばっかり
睦実
これだから、こんな田舎は嫌なんだ
篤史
まあ、そう言うなよ
篤史
(こいつ、いつもは無口で大人しいくせに)
篤史
(俺の前では素を出すんだよな)
篤史
(親父さんが厳しい人なのと)
篤史
(村の人達を敵に回したくないから)
篤史
(みんなの前では猫被ってるって言ってたけど)
篤史
まあ、狼じゃなくても
篤史
野犬でもいたら大変じゃないか
篤史
それに、村のお年寄りは
篤史
狼はまだいるって言ってたぞ
睦実
お前、そんなの信じてるのかよ
睦実
あーあ
睦実
古臭いこんな村、嫌になるぜ
睦実
こんな事なら、あの時
睦実
俺も姉さんと一緒に村を出れば良かった
篤史
ああ、里美さん
篤史
元気でやってるのか?
睦実
知るかよ
睦実
都会に出たっきり
睦実
手紙ひとつ寄越さねーよ
睦実
薄情な姉だぜ
篤史
里美さんが上京した時は
篤史
お前、こっそり泣いてたもんな
睦実
う、うるせーな!忘れろよ!
睦実
大体!姉さんが悪いんだよ
睦実
一緒に行こうとか言ってたくせに
睦実
さっさと出てっちまうんだから
篤史
はいはい
篤史
ショックだったよなぁ
篤史
お前、昔から
篤史
お姉ちゃんっこだったもんなぁ
睦実
くそっ!馬鹿にしてんのかよ!
篤史
してないよ
篤史
…まあ、なんにせよ
篤史
夜の森は危険だ
篤史
狼の他にも、猪や熊みたいな
篤史
獰猛な獣がいるかもしれないからな
睦実
…熊が出たら斧では勝てなくないか?
篤史
なに、威嚇にはなるだろ
睦実
勇ましいねぇ
睦実
流石自警団の団長様だ
睦実
…お前は、一生こんな村にいる気か?
篤史
ん?
篤史
まあ、家族もいるしな
睦実
そんなの勿体ないって
睦実
お前は頭もいいし、体力もある
睦実
なあ篤史、お前、俺と──
睦実
…………
篤史
睦実?どうした?
睦実
今、狼の鳴き声が聞こえた
篤史
本当か?俺には何も聞こえなかったぞ
睦実
嘘だろ。あんなにハッキリ…
ガサガサッ
睦実
…!
篤史
(後ろから、草木が揺れる音が聞こえる…)
篤史
(まさか、狼か!?)
ガサッガサガサガサッ!