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朝の光は、変わらず優しく降り注いでいた
蝶屋敷の廊下を歩く芙梛は、
見慣れた笑顔で小さく口笛を吹く
炊事場で皿を洗い、寝具を干し、
カナヲと炭治郎たちの機能回復訓練を手伝う
まるで、いつも通り
ただ、誰にも気づかれないように視線を空に向けたときだけ、ほんの少し表情が揺れていた
芙 梛
頭の中で響いていたのは、昨夜の声だった
『 蓮華。すぐに来い 』
それは、心の奥底を凍らせるような命令
抗う余地も、拒む言葉も許さない、絶対の声
「 鬼舞辻無惨 」の声だった
芙 梛
誰にも聞かせたくなくて、
芙梛は心の中でだけ返事をした
あの男の声が脳内に鳴るたび、背中が嫌なほど冷たくなる
誰にも見つからないように、蝶屋敷を離れる準備をした
荷物も持たない
ただそこに行って、そして...命令に従うだけ
それだけのはずなのに
芙 梛
思わず、縁側で握った拳が小さく震えた
もし無惨に、無一郎のことを知られたら?
もし、無惨が彼に興味を持ったら?
ダメだ。絶対に
誰にも言えない想いが、
胸の奥で小さく叫んでいた
時 透 s i d e .
翌朝
蝶屋敷の門を、一人の少年が訪れた
静かな声と共に入って来たのは、霞柱・時透無一郎
彼は人を探していた
時 透
出迎えたしのぶが首を傾げる
胡 蝶
胡 蝶
時 透
胡 蝶
無一郎の目がわずかに揺れる
時 透
胡 蝶
無一郎は静かに頷くと、屋敷の中を歩き出す
誰もいない部屋
干してあった布団は片付けられていて、
芙梛が使っていた湯呑みも洗ってしまわれていた
でも、痕跡は残っていた
畳の上に落ちた長めの髪
押入れの奥に、折られた紙の花
そして、微かに残る...
時 透
無一郎は立ち止まった
時 透
誰にも見せない表情が、ふっと翳る
胸の奥で何かがざわついていた
時 透
誰も答えない
ただ静かな朝の中に、蝉の声だけが響いていた
蓮 華 s i d e
一方、その頃
蓮華は、一人山深くのあの場所に立っていた
月の残る空の下、あの男がそこにいた
鬼 舞 辻
問いかけに、蓮華は静かに目を伏せた
蓮 華
鬼 舞 辻
鬼 舞 辻
無惨の目が、蓮華を貫く
蓮華は笑った
いつものように
蓮 華
蓮 華
でも、心の奥で...
「 この人を、いつか殺す 」と思っていた
まだ遠い未来に
最後の術を使う、その日のために