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時 透 s i d e .
蝶屋敷に、ふたたび静けさが戻っていた
炭治郎たちは機能回復訓練を終え、
鬼殺隊本部へと戻った
残されたのは、胡蝶しのぶと館の少女たち
そして、一人顔を見せるようになった無一郎
時 透
無一郎は芙梛の部屋の前に立つと、
しばらく戸に手を置いてから
静かに部屋の中へと足を踏み入れた
部屋には誰もいない
けれど、芙梛の気配だけが、うっすらと残っていた
整えられた布団
片付けられた棚
風に揺れる白い暖簾の向こうに
ふと、あの無邪気な笑顔が浮かびそうになる
けれど、それは幻だ
時 透
時 透
彼女がいなくなったのは、ほんの一日前のこと
無惨に呼ばれたその夜、芙梛は跡形も無く姿を消した
炭治郎たちはその翌朝、訓練を終えて旅立って行った
『 芙梛さんにお礼言えなかったな... 』
と寂しげに笑って
そして今日
無一郎は、彼女がまた戻って来るのではないかと思い
蝶屋敷を訪れた
部屋の中央に腰を下ろし、沈黙に身を委ねる
その時だった
ー ギィ ー
廊下の奥から、僅かな足音が響く
時 透
それは、まるで人のものではないような、静かで
でもどこか異質な気配を纏った歩みだった
無一郎の瞳が細まる
時 透
時 透
刀に手をかける
足音は徐々に近付いて来る
すうっと部屋の前で止まった
次の瞬間
ガラ...と引き戸が開き、現れたのは
と、小さな声で笑う芙梛だった
無一郎はその姿を見て、僅かに目を見開いた
彼女は確かに、いつもと同じように笑っている
だが、そこには、何かが違う
時 透
芙梛は答えない
ただ、ふわりと座敷に座り
何事も無かったかのように無一郎の隣に腰を下ろす
芙 梛
芙 梛
時 透
芙 梛
その笑みの奥に、何処か壊れそうな静けさがあった
沈黙が流れる
外では、夜の風が草を揺らしている
無一郎は彼女から僅かに漂う、
血と...何か冷たい気配に気付いていた
けれど、口にすることは出来なかった
なぜなら、彼女は戻ってきたのだから
理由も傷も秘密も
それらを抱えてなお、
隣に戻ってきたその事実だけが
今の無一郎にとっては全てだった
時 透
ぽつりと無一郎は問う
芙梛は一瞬だけ目を伏せて、こう返す
芙 梛
その「 今は 」と言う言葉に込められた意味を
無一郎はまだ理解していなかった
だが、彼女の奥に宿る何かが
もう戻れない場所に足を踏み入れつつあることだけは
確かに感じていた
コメント
2件
初コメです!!この作品ほんとにめっちゃ好きです!続き待ってます!!