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え?

目の前にいるのは、紛れもない生徒会長サマ。しかも、相当急いで来たのだろう。肩で息をしている。

なんで、生徒会長サマがここに?

生徒会長なんて大層な役を担っている人が、立ち入り禁止である屋上なんかに来てはいけないだろう。

バレたらマズイんちゃいます?

グルッペン

いや、お前.....

死のうとしていたんじゃないのか?

まるで見透かしたようにグルッペンは言った。

どこか、深紅の瞳が悲哀に満ちているのは気のせいだろうか。

そうやけど、なに?

天下の生徒会長サマも知ってるでしょ、僕の噂

別に僕が死んだってどうでも良くない?

所詮落ちこぼれだし

『落ちこぼれ』

その言葉にグルッペンは大きく目を見開き、顔を顰めた。その顔に怒りを孕んでいるのが分かる。

グルッペン

決して

グルッペン

お前は落ちこぼれなんかでは無い

グルッペン

そんな自分を卑下しないでくれ

懇願するような、悲痛な願い。 なんで今初めて会ったようなやつに、そんな切り詰めた顔を向けるのだ。

力強く壇上で演説する彼からは想像も出来ないほど、今のグルッペンは弱々しい。

しかし、生憎鬱はそう簡単に人を信じるような性格では無い。

生徒会長サマがなんか分かったような口してるけど、どうせあれやろ?薄っぺらい正義感やろ

グルッペン

なっ、そんなことは.....!

いいよ、虚勢張らんでも

グルッペン

虚勢なんかでは無い

グルッペン

これは本心だ

一回も僕と喋ったことも大して知りもしないくせに

グルッペン

いや、俺はお前をよく知っている

グルッペン

お前の親よりも、お前を理解している

グルッペン

この学校で誰よりもお前との付き合いが長いと断言出来る

何おかしなこと言っているんだと声を上げようとして、彼の顔が今までに無いくらい歪んでいるのに気付いた。罪悪感や自責の念に駆られているのだろうと、そう汲み取ることが出来た。

遂には彼の深紅の瞳から大粒の涙が溢れ始めた。

嗚咽を必死に噛み殺しながら、肩を震わせながら、それでも溢れる涙をそのままに視界にはしっかりと鬱を映して。

グルッペン

頼むから.......死なないで、くれ...っ

哀願する彼が、酷く弱い存在に見えた。産まれたての小鹿のような、絶望を目の前にしたか弱い人間のような、そんな感じ。

圧倒的力の前に為す術なく縋り付くしか出来ない、ちっぽけな存在。

可哀想、という言葉よりも先に、 嗚呼彼も自分と同じなんだと、少し嬉しくなった。

彼が一体誰と自分を重ねているかは知らないが、彼も元々弱い存在だったのだろうと。きっと、なにかのきっかけで誰かを失ってしまったのだろうと容易に想像出来た。

.......疲れすぎなんちゃう?

僕と誰を重ねてるのかは知らへんけど

グルッペン

ちがっ.....

会長サマに言われてもうたら死ぬにも死にきれへんやんか

ほら、泣きやみ

彼がこんなにも弱っているのを見ると、どこか心が痛む。もうとっくに良心は壊れたものだと思っていたが、どうやらまだ健在らしい。

母親のように、彼を抱き締めては頭を撫でてやる。男相手にこんなことをやるのも癪だが、何故かこうしてやりたいと、本能でそう感じた。

彼は僕の胸の辺りの服を掴みながら、声を殺して泣いていた。時折、僕の心臓に手を当てて、耳を寄せて、一定のリズムを刻む鼓動を聞いて安心したように頬を緩めていた。

相当、大事な人だったんだろうな。こうして心臓が動いていることに安堵するくらい、とても大切にされていたんだろうし、その分の悲しみも凄かったのだろう。

少し羨ましいな、なんて。

僕の家族も、友達も、この世界には誰一人として僕のことで喜び、憂いてくれる人はいないんだから。

どう?落ち着いた?

グルッペン

グスッ.....あぁ、すまなかった...

グルッペン

生徒会長としてあるまじき、情けない姿を見せてしまったな

ええって、会長サマも人間なんやし、泣くことぐらいあるやろ

グルッペン

.......お前は本当に変わらないな....

ん?なにが?

グルッペン

いや、なんでもない

そう言う彼の目がどこか懐かしむような目になっていたのは、きっと気のせいじゃない。

にしても、僕を誰と勘違いしてたん?

あんなボロボロ泣いて

グルッペン

お前.....

グルッペン

いや、まぁそうだな

グルッペン

お前が昔の仲間に酷く似ていてな

グルッペン

どうやら私も疲れているらしい

えらい泣くから心配したわ

会長サマも大変やね

グルッペン

まあな

グルッペン

だが、その忙しさも結局は楽しさに起因するからな

グルッペン

生徒会に入って忙しいことはあれど、つまらんと思ったことは一度も無い

へー

楽しいとこなんやね

人生勝ち組はええなあ

僕とは大違いや

家族に見放されて、学校での居場所も無くて、とりわけ特技も、才能がある訳でも無い。

完璧なる人生の負け組。 権力持ちに媚び売って靴を舐めていくことでしか生きられない、醜い負け犬。

それが、僕。

グルッペン

私には、お前が負け組のようには見えないがな

お世辞はええって

グルッペン

お前は、絶対に努力を欠かさない。いくら折れようとも、悔しさをバネにして、何度も何度もしつこく立ち上がる

グルッペン

適度に力は抜くくせして、大事なところで期待以上の活躍をする

グルッペン

それがお前だ

核心を突いてるように聞こえるけれど、その実僕はそんなこと一ミリも思ったことは無い。

努力なんて嫌いだし、諦めは早い方。悔しいなんて感情湧いたりしない。期待に見合う程の才能も実力も持ち合わせてはいないし、そもそも僕に期待する人間がいない。

やっぱり、彼はまだ似て非なる、誰かの話をしてる。

でも、なんとなく彼に現実を突きつけるのは可哀想な気がした。

ここは、素直に受け取っておこう。

ほんまあ?

そう思ってくれてたんは嬉しいわぁ

生憎、演技だけは、人を騙すことは得意だ。知らん間に詐欺師なんてあだ名がついてたけど、あながち間違っちゃいない。騙すことも、人生上手く生きるためのコツやしな。

てか、会長サマそろそろ授業行かなヤバいんちゃうの?もうすぐで2時限目始まってまうで

グルッペン

っ、そうだな.....

なんでそんな嫌そうな顔してるん

グルッペン

もっとお前と話していたかったからな

グルッペン

こういう時に生徒会長という肩書きは邪魔だな。もっと身軽になりたいものだ

そんな愚痴言ってないで、さっさと行きや

グルッペン

あぁ、すまんな

グルッペン

ではまた、明日ここで会おう

は?

グルッペン

じゃあな

え!?ちょちょちょ!

僕の制止の声虚しく、彼は颯爽と消えていった。

はあ....ほんまなんなん....

10分ちょっと。 たったそれだけだったけれど、ちょっとこの時間が良かったな、なんて。

あかんわ、会長サマに毒されてまう

.........明日、か

待ってみよかな

また話せるのが嬉しいなんて、きっと気のせい。

ただいま~

ドアを開け、誰もいない薄暗い家に向かって声を投げる。 当然のように声は返ってこない

はずだった。

鬱の父親

よお、おかえり

いるはずのないあいつが、家に居た。

ぞわりと、全身の毛が逆立つ感覚がした。冷や汗が吹き出す。全身から温度が奪われるような感覚。

なんで、なんであいつがここにいる?あいつには、ここの居場所は分からないはず。だって、実家から新幹線でも使わないと来れないような場所だ。

なんで、なんでなんでなんでなんで

なんで

なんで

息がしづらい。ヒュッ、と喉から嫌な音が鳴る。

鬱の父親

こんな遠いとこまで足を運んでやったんだ。お疲れ様の一言も言えねぇのか!?

ドガッ、と頬を殴り飛ばされる。

ッ、

鬱の父親

まぁいい

鬱の父親

鬱、金寄越せ

......、は?

態々遠くまで来た理由はそれか。 こちとら家賃払うのでもいっぱいいっぱいなのに、金なんて貸せるわけがあるか。

むり、そんな金もってないし

鬱の父親

あ"ぁ!?親に逆らうってのか!!?

胸ぐらを捕まれ、また頬に一発。それだけでは飽き足らず、馬乗りになっては顔を殴打される。

口の中が切れたのか、口内に鉄の味が広がる。思わず顔を顰めると、それも反抗と取ったのか腹やら肋やらをひたすらに殴られた。

ぐっ、...う"ぁっ!.......っ"

しばらくの間為す術なく一方的に殴られた。僕の意識が段々朦朧になっていくのを見計らって、あいつは僕のカバンから財布を取り出し何枚か万札を抜き取るとそそくさと出ていった。

っ........ぅ、く.......

痛みで軋む体を引き摺り財布を見てみれば、最近卸したばかりの万札が全て抜き取られていた。

僕の全財産は3000円ちょっととなってしまった。

くそ.........っ"

僕は、ただその場に惨めに蹲ることしか出来なかった。

いつまでも貴方と共に

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