この作品はいかがでしたか?
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らむ
らむ
らむ
朝。
珍しく登校完了時刻ギリギリに登校した。なんでかはよく分からなかったけど、なんとなく。
顔とか傷の手当は消毒くらいしかしてないから、頬は腫れてるし制服の隙間から覗く腕や鎖骨付近は青紫の痣が丸見え。
すれ違いざま何人か僕を侮蔑するような声や視線を感じたが、特になにも感じなかった。
今日は、ブラブラしようなんて考えが浮かばず。 頭を占めるのは、昨日の会長サマの言葉。待ってたら、ほんとに来てくれるんかな、っていうほんの少しの淡い期待。
吸い寄せられるように、屋上へと向かった。
屋上へ向かうには、最上階である5階まで登り5階の中央廊下を突っ切って特別な裏階段を使わないといけない。
5階は音楽室や美術室など教科ごとの教室が配置されている。 だから、基本的に授業が無い限り人とすれ違うことは無いのだが。
鬱
下を向いて少し早足で歩いていたからだろうか、誰かとぶつかってしまった。
??
思いっきり舌打ちされ、少し肩がビクッと震える。
鬱
謝ろうと、ゆっくり顔を上げて相手の顔を確認する。
金髪、空を切り取ったかのような綺麗な水色の瞳。目鼻立ちが整った、ジャニーズ属性のイケメン。制服の胸ポケットについた名札から、2年だと分かる。
名前は、コネシマ。
確か、この人も生徒会に入っていた気がする。もう一人の子と『狂犬組』なんて呼ばれていたっけ。
鬱
コネシマ
鬱
綺麗な瞳を零れんばかりに見開いて、凡そ会話には向かない大音量でそう叫んだ。
鬱
コネシマ
思い出したように、こめかみを押さえては悲しそうに呟く。 彼にも、会長サマと同じ視線を感じた。後悔と罪悪感に塗れた、およそ常人が向けることの無い視線。少なくとも、初対面の相手にこんな視線を向けるやつはいない。
コネシマ
先程までのあの視線はどこへやら、ころっと表情を変え、心配してますと言わんばかりの声音と表情で、僕に問いただす。
鬱
鬱
コネシマ
コネシマ
鬱
コネシマさんは、ガッシリと僕の腕を掴むとグイグイ引っ張っていく。
悲しいかな、ヒョロがりの骨みたいな体では抵抗するなんてことは出来ず。 されるがまま引きずられていく。
会長サマと約束があるのに!
強烈に後ろ髪を引かれながら、保健室へと強制的に連れていかれた。
コネシマ
相変わらずの声量で保健室の扉を思いっきり開けたコネシマさんは、キョロキョロと保健室を見回す。
なんだかんだ保健室には初めて来た。学園の教師全てを把握している訳でも無いけど、ある程度顔は見たことがあった。けれど養護教諭は一回も見かけたことがなかったから、ちょっと身構えてしまう。
しんぺい神
しんぺい神
間延びした声とともに、浅葱色のふわふわした長髪を束ねた優しそうな養護教諭が現れた。何故か黒紙に金の文字で『神』と書かれた面布を顔に貼り付けている。
不思議な人やなぁという印象。 どこか落ち着くのは何故だろう。
しんぺい神
顔こそ見えないけど、声色から彼が動揺しているのは明白で。会長サマにコネシマさんに先生に、なんでこう皆変な反応するんだろう。 新手のイジメかなんかか?
しかし、彼も養護教諭。 僕の怪我を見ると、ハッと我に返ったようにすぐに治療の準備を始めた。
しんぺい神
救急箱、その他諸々の道具を持って席へと誘導される。
鬱
助けを求めてコネシマさんに視線を送るけれど、"行け"との無言の圧を感じる。
あ、助けてはくれないんですね...
早々に諦め、大人しく用意された席に座る。
しんぺい神
鬱
しんぺい神
しんぺい神
鬱
まるで小児科のような、小さい子をあやすような口調に、子供扱いされているような気分になる。もう高校生なんやけど。
不満を顔全面に表せば、少し困ったような笑いを零す。
しんぺい神
しんぺい神
鬱
鬱
しんぺい神
しんぺい神
しんぺい神
鬱
時々話が飛躍するのは何なんだろう。
相変わらず訳の分からない話を振ってくる。みんなって、僕にはきっと関係ない人達だろうに、なんで僕に話すんだろう。
しかも、そんな話を振るくせに「知らなくていいよ」みたいな事を言ってくるものだから少し腹が立つ。
結局はイジメたいだけじゃないのか。
鬱
しんぺい神
戒めとばかりにギュッと思い切り包帯を巻かれる。圧迫+痣の痛みで、そこそこの鈍痛が走る。ちょっと涙目になったのはしょうがない。
鬱
しんぺい神
鬱
しんぺい神
しんぺい神
「はい、治療終わり」と肩をぽんと叩かれ、治療道具が仕舞われていく。 会話してたら、いつの間にか終わってた。先生すごい(小並感)
しんぺい神
コネシマ
たった10数分だったが、待ちくたびれたと大袈裟なため息一つついて保健室へと入ってきた。
流石の僕でもあれくらいの待ち時間なんてこと無いのに。オーバーリアクションにも程があるだろ、なんてツッコミが出来るほどの度胸は持ち合わせていないので、そっと心の内に秘めておく。
コネシマ
コネシマ
しんぺい神
しんぺい神
しんぺい神
コネシマ
鬱
コネシマ
真剣な眼差しを向けられる。 どうやら生徒会の方たちは相当正義感が強いらしい。昨日の会長サマといい、今日のコネシマさんといい、初対面相手にここまで本気になれるなんてたまげたなぁ。
なんか、この人らに嘘ついてもすぐ見抜かれる気がする。
言うしか、ないかあ
鬱
鬱
その瞬間、部屋の温度が一気に下がった気がした。体感10℃くらい下がった気がする。
その原因がコネシマさんと先生から出る怒気というか、ある種殺気のようなものであることにはすぐ気付いた。
頑張ってコネシマさんは真顔を、先生は笑顔を保とうとしてるみたいだけど、その顔は怒りに歪んでいる。(まぁ先生は憶測やけど)
昨日の会長と同じ顔。 コネシマさん折角のイケメンが台無しやって思ったけどそんなこと無かったわ。イケメン腹立つ。
鬱
コネシマ
コネシマ
鬱
しんぺい神
鬱
鬱
コネシマ
部屋に沈黙が訪れる。 まあ、そうなるわな。
別に話したところで改善するとは毛頭思わないし、助けて欲しいとも思わない。
これが僕に与えられた運命なのだから。抗おうとも逆らおうとも変わることは無いから。
それに、助けてくれるような善人なんていない。誰が好き好んでこんな厄介事を受け入れるか。最悪裁判にもなりかねないこの案件は、最も触れにくいもの。色々とめんどくさいのだ、虐待とかの家族絡みのトラブルは。
だから、さっさと話題転換してしまおう。
鬱
しんぺい神
椅子から立ち上がろうとして、咄嗟に僕の腕を掴んだ先生によって椅子に逆戻り。
鬱
しんぺい神
鬱
素っ頓狂な声を上げてしまう。
この先生、今なんて言った?
鬱
しんぺい神
しんぺい神
しんぺい神
しんぺい神
しんぺい神
正直、親父にバレないというのであれば嬉しいに越したことはないけど。
鬱
鬱
しんぺい神
しんぺい神
しんぺい神
鬱
ますます訳が分からない。 なんで初めて会ったはずなのに「二度と」なんてワードが出てくるんだ。
だけど、アイツらから身を守れるというのなら、この好意素直に受け取りたい。
鬱
鬱
しんぺい神
しんぺい神
しんぺい神
鬱
まてまてまて。 それは予想外だぞ。
しんぺい神
しんぺい神
しんぺい神
鬱
しんぺい神
コネシマ
しんぺい神
しんぺい神
しんぺい神
しんぺい神
コネシマ
コネシマ
コネシマ
コネシマ
二人の意味不明な会話。本質があるようだけれど、それが一切透けてこないから不思議だ。
でも、二人の口ぶりからして誰かを失ったことがあるのか? 救えたはずの命を、救えなかった過去が。
それが、今の二人に重い枷となっているのだろうか。
鬱
しんぺい神
コネシマ
先生は図星なようで目を丸くしていて、コネシマさんは悔しそうに唇を噛み締めていた。
やっぱり、あるんだ。
二人とも若いはず、コネシマさんに至っては僕と同い歳なのに、そんな重いものを背負ってるのか。中々に辛いもんだな。
そんなもの背負ったって、その人が亡くなったという事実は変わらないというのに。それを引き摺ったところで、所詮は自分のエゴだったりして。
大衆正義によくある、「自分の責任だと己を罰することで戒めとし、それを背負い罪を償い、二度と同じ惨劇を繰り返さないようにする」なんていう汚れた正義感。罪悪感を美化しただけの、正義感とも呼べない鬱陶しいエゴ。
中々に厄介なものだけど、でもそれを背負いたいと言うのなら別に口を挟むつもりは無い。例えただのエゴでも、贖罪でも。 結局意味は無いのだから。
嗚呼ただ無駄なことをしてるなあと。 そんな薄っぺらい感想が出てくるのみ。
鬱
鬱
しんぺい神
コネシマ
コネシマ
コネシマ
しんぺい神
しんぺい神
二人の言う"アイツ"は、僕と思考が似ているらしい。とんだ変わり者もいたもんだな。あ、それは相手に失礼か
償い、贖罪、使命、ねえ。
鬱
しんぺい神
コネシマ
あ、やべ。 つい口に出てもうた!!
鬱
鬱
鬱
鬱
鬱
鬱
ちょっと一般論は混ぜたけど、粗方自分の本音。
コネシマ
しんぺい神
しんぺい神
二人が妙に納得したような顔をして、顔が少し緩んだのは気のせいか。
ふと時計を見れば、丁度昨日会長サマと屋上で出会った時間になっていた。
鬱
しんぺい神
鬱
しんぺい神
鬱
鬱
しんぺい神
鬱
鬱
コネシマ
え????
僕と二人っきりじゃないん?
鬱
コネシマ
しんぺい神
鬱
混乱冷めやらぬまま、保健室に来た時と同様コネシマさんに手を引かれ、先生に背を押されながら保健室を後にしたのだった。
"彼"は、地下牢に横たわっていた。
目を背けたくなるような酷い傷。手足の指は無く、太腿には赤黒い火傷痕になにかで抉られたようなものもあった。既に右目は抉られたようだった。右腕も肘から下が無い。
顔は死人のように青ざめ、傷も長いこと放置されたのかウジがわき、ハエがたかっている。死体と変わらない腐乱臭が鼻をつく。
コンクリートの床に水溜まりを作る赤黒い見慣れた液体は、全て彼から流れていた。バケツをひっくり返したような、それくらいの量。
まだ微かに息が残る彼は、その視界に自分を捉えるとふにゃりと笑顔を浮かべた。
堪らず駆け出す。 バシャッと彼の血溜まりがはねズボンの裾を赤く染めるが、そんなの気にならなかった。
自分の顔を見ては嬉しそうに、哀しそうに、今にも消えてしまいそうな儚い笑みを浮かべる。
??
もうほぼ意識は無いだろうに、絞り出すように彼は話す。 もうこれが最後の会話だと、言外にそう含ませて。
絶えず彼の口の端から血がこぼれ落ちる。彼には拭う余力も残っておらず、咳き込みその血を度々喉に詰まらせながら、それでも話を続ける。
??
指の無い血まみれの手を自分の頬に当て、輪郭を確かめるように掌でなぞる。その血の生ぬるさが、より自分の心臓を締め付けた。
自分は、とんでもない罪を犯したのだと。救えるはずの彼を、見殺しにしてしまったのだと。
謝罪しようと声を出そうにも、嗚咽がそれを邪魔する。えぐえぐと言葉としての意味を成さない音をただ零すばかり。
??
こんな時までお前は、といつもなら出る言葉も、今ばかりはうめき声に変わる。頬に当てられた彼の手を固く握り、彼を抱きしめることしか出来ないなんて。
なんて惨めで、無力。 自分はただの能無しなんだと、まざまざと実感させられる。
握る手からは、段々と体温が消えていく。まるで氷になってしまうのではないかと、そう疑ってしまうほどに。
??
頼む、最後なんて言わないでくれ。
伝えきれていないことが、山ほどある。まだちゃんとした謝罪も、日頃の感謝も、あの時の小言も、街に一緒に行くという約束も、なにも出来ていない。
そんな自分の思いとは裏腹に、彼の目は段々と閉じていく。ゆっくりと、ゆっくりと瞼を閉じていく。
最後の最後まで、自分の姿を焼き付けておきたいと言わんばかりに、濁ったその瞳に自分の姿を映して。
??
??
彼は───鬱は、まるで死顔とは思えない穏やかな顔で、その目を固く閉じた。
自分の────グルッペンの、悲痛な咽び泣く声が、地下牢いっぱいに響いた。
コメント
3件
初コメ失礼します。とても吸い込まれるような素晴らしいお話です。ブクマ失礼します。