女
言葉と裏腹に、女は艶然と笑っていた。
タタンタタンと、まるでステップでも踏むようなリズムで
電車は揺れる。
そこは廃線計画が発表されたばかりの
田舎の単線鉄道だった。
男
男
女
女
クッションの薄い、固いボックス席が並ぶ車内に二人だけ。
そこにわざわざ向かい合わせに腰を下ろし
女は困ったように眉尻を下げた。
女
哀れむ声色だった。
意味もわからず、男が首を傾ぐ。
女はゆっくりとその手を、男の頬へと伸ばした。
初対面で触れあうには、些か大胆な場所だ。
思わず男の心臓は跳ねたが――
彩られた指先の感触はいつまで経っても訪れない。
奇妙さに視線を動かせば
その指先は男の体をすり抜けていた。
男
女
女
女
タタンタタンと窓枠が踊る。
言葉を失った男から顔をそらし、
女は車窓を流れる景色に目を細めた。
女
女
女
女
女
女
ふふと笑う女は、どこか満足そうに頬杖をつく。
男
女
女
男
女
女
男
男
女
男
女
女
男
女
男
女
女
男
男
女
車内に、ケタケタと明るい声が転がり回る。
やがてそれが落ち着いた頃、女は悲しげに男を見た。
女
女
問いに、男は目元を伏せる。
男
男
女
女
男
男
男
女
男
女
男
男
女
女
呆れて目を丸くする女に、今度は男が笑って見せる。
それを目にし、女はほぅと溜め息を吐いた。
女
女
女
ふわりと女の肌が光を帯びる。
女
女
女
女
男
砂時計が逆さに落ちるように
光は女の輪郭を伴って空へ上がっていく。
男はそれに、咄嗟に手を伸ばした。
男
男
女
女
女は歌うように囁く。
女
女
女
しゃらと音がし、光がすり抜けていく。
今やタタンタタンとステップを刻み揺れる箱があるばかりだ。
男は静かに肩を落とす。
置き去りにされた落胆か。
否
むしろそれは覚悟の直前の脱力だった。
男
男
男
呟き、持参した水筒からコーヒーを注ぐ。
インスタントながらも香ばしい香りが、湯気と共に窓際を満たした。
不意に、曇ったガラスが音を立てる。
まるで真冬によく見る、子どものいたずらだ。
白くよどんだ窓に、するすると文字が書かれていく。
きっと楽しげに笑っているに違いない。
最後のハートを書ききる前に、それは途切れてしまったが――
書き終わることがないからこそ微笑ましく見えるそれを見つめながら
男は静かに電車の揺らぎに身を任せ、目を閉じた。
コメント
13件
井之上さんの書かれる恋愛のお話が読みたくて、また読みに来てしまいました 再読するとまた感じ方が変わって、この男性は何故死を選択してしまったのだろうとか、女性は事故がなければ今頃も生きてたんだよなーとか、思いを馳せてしまい、胸が切なくなりました やっぱり井之上さんのお話は大好きです☺️
めちゃくちゃお洒落ですね!? 私、電車の話好きなんです✨ 会話といい、仕草といい、全ての雰囲気が大好きです😆