茜
やっぱり……なんかどこかで見たことがあるなとは思ってたんだけど。

九十九
あぁ、いくら同じバスに乗り合わせただけとはいえ、目の前で片割れを失ってうろたえていた男の顔くらいは覚えてる。

茜
むしろ、その印象が強すぎて、他の乗客の顔なんてまるで覚えてなかったというか。

九十九
俺もだよ。

茜
私達――まさか同じバスに乗り合わせていたってだけで、ここに集められたってこと?

九十九
信じられねぇ話だが、その可能性は高いな。

九十九
後で他の連中にも聞いてみよう。

九十九
同じように、この新聞が各楽屋に置いてあるはずだからな。

そんな九十九の思惑を汲み取ったかのごとく、アナウンスが入った。
アナウンス
えーっと、RYUSEIです。

アナウンス
ここまで来れば、もうお分かりかと思いますが、数藤さんが降板されました。

九十九
くそっ、やっぱ抗えなかったか。

九十九
あのおっさん。

茜
なんだか、人が死ぬことが当たり前のようになってきてる。

茜
何も感じないようになってきていて、怖いんだけど。

九十九
それはよ、お前の心がぶっ壊れちまわないようにする、自己防衛機能だよ。

九十九
自分が非情な人間だとか考えなくていいからな。

茜
うん……分かった。

九十九
で、どうする?

九十九
俺は数藤のおっさんに手を合わせてくる。

茜
あんなに仲が悪かったのに?

九十九
俺はおっさんみたいなタイプ、嫌いじゃねぇよ。

九十九
おっさんは俺みたいな奴は嫌いだろうけどな。

茜
あんな人でも、いなくなったんだって思うと寂しいね。

九十九
言うじゃねぇか。とにかく、俺は手を合わせてくる。別に全員が降板を確認しなきゃいけないなんてルールはない。

九十九
お前は無理しなくてもいいんだぜ。

その法則を知っている以上、数藤の降板はそういう意味である。
茜
とりあえず、廊下には出ようかな。

アナウンス
例のごとく、特別に楽屋のロックを解除します。

アナウンス
数藤さんとのお別れが終わったら、戻ってください。

アナウンス
ちなみに、せめて誰かは数藤さんに会いに行ってあげてくださいね。

アナウンス
そうしないと、緊急特番の撮れ高に影響しますから。

九十九
まだ、クイズ番組ごっこをするのか。

九十九
大体、誰がこんなもん見てるんだよ。

茜
……そもそも、視聴者なんているのかな?

九十九
さぁな、もしかして全国放送されてるかもしれねぇぜ。

茜
そんなことしたら大問題でしょ。

九十九
あぁ、違いねぇ。

九十九
それじゃ、俺はちょっと行ってくるぜ。

扉の近くまで歩み寄り、ロックが解除されているのを確認すると、改めて九十九は振り返る。
九十九
後、言っとくけど自分の楽屋にちゃんと戻れよ。

九十九
一応、俺も男だからな。

茜
……抱く女くらい選ばせろとか言ってたくせに。

九十九
うるせぇな。

九十九
さすがに参ってんだよ……こんな環境にぶち込まれてよ。

それを肌で感じつつ、もはや見慣れた廊下に溜め息を漏らしたのであった。