三富
さて、始めるわよ。
三富
まずは先に解答する順番を決めないとね。
一宮
(今回のバトルはかなり特殊なものになる)
一宮
(思っていた以上に、バトルは自由度が高いみたいだ)
四ツ谷
どうする?
四ツ谷
じゃんけんで決めるか?
三富
ふふっ、残念だけど……勝負の環境を決めるのはアタシなの。
三富
だからそうねぇ、アタシが先、その次があなた達2人のどちらかってことにしようかしら。
えっと……一宮君と四ツ谷君でいいのね?
四ツ谷
あぁ、そうだけど。
どうせ事前に調べてあるんだろ?
三富
そうなんだけど、雰囲気作りたいじゃない?
一宮
(このルールの勝負において、おそらく解答する順番はそこまで重要じゃない)
一宮
(どちらが先であっても、有利不利は変わらないだろう)
三富
それと、ちょっとルールを追加したいのだけど、いいかしら?
一宮
なんだ?
一宮
環境を決めるのがそちらなら、いちいち確認を取る必要もないだろうに。
三富
冷たいこと言わないの。
三富
ほら、当てずっぽうで解答を進めても、なかなか当てられるものじゃないでしょう?
三富
だから、アタシ達が解答して、どちらも正解を導き出せなかった場合は、彼女に【当たりではないストーリー】をひとつ宣言してもらいましょう。
三富
こうすれば、ストーリーを絞り込む材料になるし、面白そうでしょ?
一宮
(俺達の解答が終わった後、七星が【セットしていないストーリー】を公開する感じか。彼女はあくまでも、こちら側の人間だし、もしかして有利になる発言が出るかもしれない)
四ツ谷
駄目だ……って言っても無駄なんだろうが、断る理由もないよな?
七星が介入することで、少しでも事が有利に運ぶかもしれないと、四ツ谷も考えたのであろう。
一宮
あぁ、それで構わない。
三富
それじゃ、アタシからね。
七星
な、なんだ……。
三富
あらぁ、囚われの姫はおしゃべりしちゃ駄目よ。
三富
あなたが発言していいのは、アタシと彼らの解答が終わってから。
三富
ごめんなさいね。
焦らしちゃって。
一宮
(バトルは仕掛ける側が環境を決定することができる)
一宮
(まず普段と決定的に違うのは、勝負の場が異空間ではないこと。やろうと思えば現実世界のまま勝負することができるのか)
一宮
(まぁ、八橋はサウナという環境自体が策略に一枚噛んでいたし、七星が仕掛けてきた際は、その場にいなかったはずの四ツ谷が姿を現した)
一宮
なぁ、四ツ谷。
ちょっと確認したいんだが。
三富のかけた大音量の音楽が、隠れ蓑となっているからありがたい。
四ツ谷
なんだ?
一宮
お前達と勝負した時、なぜか勝負の場にお前がいきなり姿を現しただろ?
一宮
あれはなぜだ?
四ツ谷
あぁ、あれは主従関係にある人間は、その主人がバトルを行う時は強制的に呼び出されるからだよ。
四ツ谷
俺と姐さんは、あの時主従関係にあったから、俺が呼び出されたわけよ。
四ツ谷
結構便利だとは思うけど、風呂とか入ってたら最悪だぜ。
四ツ谷
真っ裸でここに呼び出されたら、もう罰ゲームみたいなもんだからな。
一宮
それともうひとつ。
一宮
いつもなら、この辺りに絵本が浮かんでるはずだけど、今回はどこにも見当たらない。
一宮
それはなぜだ?
四ツ谷
多分だけど、環境のせいじゃねぇかな。
四ツ谷
いつもは現実とは違う異空間で勝負するだろ?
四ツ谷
あいつらは現実じゃ単なる絵本だし、単純に出てこれないんじゃねぇ?
四ツ谷
その辺りのことは良く分からないけど、いつもなら初めてやり合う相手の物語が頭の中に入ってくるだろ?
四ツ谷
でも、三富とかいうやつの絵本の物語が情報として入ってこなかった。
四ツ谷
これも異空間みたいに絵本が姿を現さないから――って可能性もあるし、もしかすると三富が環境として、そう設定していることも考えられるな。
四ツ谷
まぁ、相手の物語の内容を知らないって、この勝負において致命的だから、多分現実世界という環境のせいだろうな。
四ツ谷
物語が分からないと不利になるのは、あちらも同じわけだし。
一宮
(確かに四ツ谷の言う通り、今回は絵本の情報がまるで入ってきていない。本来ならば、三富が所持する絵本の物語が勝手に頭の中に入ってくるはずなのに)
一宮
まだ手探りな部分が多いな。
四ツ谷
とにかく、俺達は姐さんがなにを考えて物語をセットしたか考えればいい。
四ツ谷
ただそれだけだ。
一宮
(七星の絵本は人魚姫。バリエーションが多いがゆえに、簡単にストーリーを当てることはできないだろう)
三富
やだ、もう23時過ぎてるじゃない。
三富
夜更かしはお肌に悪いのに。
一宮
0時までに来い――なんて、時間指定してきたのは、そっちのほうじゃないか。
三富
それもそうね。
それじゃあ、そろそろ――。
三富
そうね【海の底に潜る】でどう?
一宮
(海に潜る――確かに、人魚姫の舞台は海底だけど、それは汎用的すぎるというか)
一宮
(案の定――外れか)
三富
あ、ちなみにだけど、正解か否かは、直感的にあなた達にも分かるようになってるはずよ。
三富
そういう環境にしてあるから。
四ツ谷
確かに、答えを聞いた途端、それがなぜか不正解だと分かったな。
三富
それじゃ、今度はそっちの番よ。
三富
ちなみに、分かっていると思うけど、物語に関連のあるものじゃないと、不正解として扱われるからね。
三富
バトルも初めてじゃないだろうけど、念のために言わせてもらったわ。
三富
あくまでも彼女がセットした物語に沿ったストーリーだからね。
一宮
あぁ、俺達も場数は踏んでるんでね。
一宮
それくらいは分かってるさ。
一宮
(これまでバトルを経験した人間なら、それくらい分かっているはずなのに、なぜわざわざ……)
四ツ谷
さて、次は俺達の番だな。
四ツ谷
一宮、ここは俺にいかせてくれ。
一宮
(期間がどれくらいなのかは分からないが、四ツ谷のほうが七星との付き合いも長い。彼女の性格をより知っている)
一宮
任せたぞ。
四ツ谷
あぁ、それじゃ答えるぞ。
四ツ谷
ズバリ【恋をする】だ。
四ツ谷
こいつは一宮、あんた達とやり合った時に、姐さんが【踏まれてはいけないストーリー】に設定したもの。
四ツ谷
俺にしか分からないはずのストーリーだ。
一宮
なるほど、それなら七星があえてセットすると言う可能性も――残念ながらないようだな。
四ツ谷
みたいだな。
三富
あらぁ、残念ねぇ。
三富
でも、もしそれが正解だったとしても、アタシが勝ってたわね。
三富
だってアタシ……恋してるもの。
一宮
(三富には悪いが、どうもペースを乱されるな。ただ、ストーリー当てるだけじゃなくて、踏んでも有効ってことか?)
一宮
(確か、ルールを説明する時、一度踏む――って言葉を使ったあとに、わざわざ当てるって言い直していたよな)
三富
それじゃあ、次はお姫様、あなたよ。
七星
声を失う――だ。
三富
ふっふっふっふ、確かに声を失うことは物理的に簡単じゃないわ。
三富
そんなものをストーリーとしてセットするわけがない。
三富
アタシには当てられないようにして、彼らに当ててもらうようにするのは、なかなか難しいわね。
七星は【外れのストーリー】を宣言するルールになっているのだから、当然ながら、その宣言は外れ扱いとなる。
三富
さて、それじゃ2巡目ね。
三富
断言してあげるわ。
三富
0時……0時には決着をつけてあげる。
三富
私の勝利でね!
一宮
(この三富の自信――なにか妙だ)
一宮
(こいつ、なにを考えている?)