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薔薇の隠し事

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薔薇の隠し事

22 - 薔薇の隠し事 第22話

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2020年01月26日

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時刻は午後8時過ぎ。

ジーナはホテルから出てくるモリー・シェパードの姿を確認した。

ジーナ

モリー!

モリーは最初、自分が呼ばれているとは思わず怪訝そうに周囲を見回したが、

目の前に停まっている車の運転席から1人の女性がこちらを見つめているのに気付いた。

モリー

あの…どちらさまですか?

ジーナ

イヤだわ、モリーったら(笑)

ジーナ

私よ、ジーナ・トンプソン

モリーは考え込むようにしばし下を向いたが、やがて「あっ」と声を上げた。

モリー

「ローズ」で一緒だったジーナね

モリー

久しぶりだけど…ここでなにしてるの?

ジーナ

なにってあなたを待ってたのよ

モリー

私を?

ジーナ

犯罪心理学者のあなたならとっくに知ってるでしょう?

ジーナ

「ローズ」の昔の生徒が立て続けに殺されてる事件については

モリー

モリー

えぇ、惨い事件だわ

モリー

心配してくれてたの?

ジーナ

当たり前じゃない(笑)

ジーナ

ホテルでのシンポジウムが終わったところでしょう?

ジーナ

夜も遅いし自宅まで送るわ

ジーナは事前に調べておいたモリーの自宅住所を振り返りながら言った。

ジーナの厚意の裏に隠された秘密に気付くこともなく、モリーは助手席に乗り込んだ。

車を発進させてから、ジーナはマックスと打ち合わせた計画を脳裏で再確認した。

ジーナは心の動揺を落ち着かせる為、運転しながらモリーと世間話をするつもりだった。

が、旧友の再会を喜んだモリーから口を開いてくれた

モリー

まさかジーナと再会出来るとは思ってもみなかった

モリー

今、なにしてるの?

ジーナ

「ローズ」で教師をしてるわ

モリー

えっ、本当に?!

モリー

アリス先生は元気?

ジーナ

え…えぇ、元気よ

思わず声がうわずってしまった。

アリスが事件の容疑者として警察に勾留されている事実は報道されていない。

モリーが何気なしに尋ねた質問と知りつつもジーナはドキッとしてしまった。

モリー

もう60を過ぎてるでしょう?

ジーナ

「ローズ」のオーナーを務めてるわ

モリー

でしょうね(笑)

ジーナ

(まさか復讐計画のために先生を身代わりにしたなんて思わないわよね…)

ジーナ

(先生のためにもあなたをこれから…)

ジーナは助手席のモリーを一瞥した。

最後の標的となるモリーを殺める時間が刻々と過ぎているのだが、

当然ながらモリーは身の危険が迫っているとは想像もしていなかった。

モリー

モリー

犯罪心理学者としての見解だけど

モリー

犯人は異常者ね

ジーナ

異常者?

ジーナは鸚鵡返しした。

モリー

そう、異常者よ

ジーナ

どうしてそう思えるの?

モリー

まず猟奇性ね

モリー

人の片腕を切断して殺人現場に遺棄する時点で犯人の猟奇性が露骨に出てるわ

モリー

女性に対する過去の忌々しい記憶が常日頃から頭に焼き付いてて

モリー

それが腕を切断するという凶行に駆り立ててるのよ

モリー

犯人の女性への憎悪の深さ、或いは執着心が垣間見えるわね

ジーナ

(違う)

ジーナはそう言ってやりたくなる衝動を抑えるようにハンドルを握る手に力を入れた。

マックスによると、モリーもエレノア殺害に加担しているはずである。

わずかな疑問は抱いているものの、今のジーナには淡々と犯人像を語るモリーが、

エレノアを追い詰めた自分への擁護にひたすら徹底しているようにしか見えなかった。

ジーナ

(あなたもやっぱりジェシカと組んでエレノアを…)

突然、ジーナは男が現れて慌ててブレーキを踏んだ。

男は、タクシーを停めるかのように手を伸ばしながら車の横に立っていた。

ジーナ

ジーナ

…ラングさん?

突如現れたロス市警の刑事、ヴィクター・ラングは不慣れな作り笑いを浮かべていた。

モリーがビックリしてジーナを見、歩道の男に目を向けた。

モリー

誰?

ジーナ

…ロス市警の刑事さんよ

ジーナは運転席側のウィンドウを開けた。

ヴィクター

いやぁ、これはタイミングがいい

ヴィクター

実は同僚のトーマスに迎えを頼んだんですが中々来てくれなくってね

ヴィクター

もしよろしければ、署まで私を運んで頂けませんかね?

ジーナ

あ、えっと、その今は…

ヴィクター

ヴィクター

お友達ですか?

ヴィクターは助手席のモリーを覗き込むように体を曲げた。

モリー

モリー・シェパードといいます

ヴィクター

初めまして、ロス市警殺人課のヴィクター・ラングと申します

ヴィクター

…何処かでお会いしましたかな?

モリー

あり得ますわね(笑)

モリー

私、犯罪心理学者をしていますの

ヴィクター

あぁ、なるほど

ヴィクターはまたも慣れない笑みを浮かべた。

モリー

ロス市警へ戻られるんですか?

ヴィクター

そのつもりです

モリー

私の家、丁度そっちの方向になるんです

モリー

一緒に帰りませんか?

ジーナ

え、ちょっと、モリー…

ヴィクター

よろしいですかね?

モリー

どうぞどうぞ(笑)

ジーナがなにか言おうとする前に、ヴィクターは後部座席に乗り込んだ。

モリーとヴィクターが改めて自己紹介をする中、ジーナはただ1人戸惑っていた。

ジーナ

(これじゃあ計画が実行に移せない)

どうすればいいか考えながら、ジーナはアクセルを踏んだ。

ホテルからモリーの自宅までは約30分の距離がある。

ヴィクターを乗せたのはホテルからわずか10分が経過した頃だった。

ジーナ

(モリーの家が近付く前になんとか降りてもらわないと…)

と、ジーナが思った瞬間、いきなりヴィクターが声を上げた。

ヴィクター

そこは曲がってください

ジーナ

え?

モリー

私の家、このまま直進なんですけど…

ヴィクター

いえね

ヴィクター

実は一昨日ですが、この先の道路で走行中の車を狙う事件が起きましてね

ヴィクター

犯人は複数ですがまだ捕まっていません

ヴィクター

私は刑事ですが今はたった1人です

ヴィクター

多勢に無勢と言いますか、万が一襲われたら1人で連中に立ち向かうのはいささか厳しい

ヴィクター

ですから、遠回りになりますが出来ればあっちを通りましょう

ヴィクターは直進から外れた右側のルートを指差した。

モリーは賛同したが、ジーナは渋った。

ただでさえ刑事が乗っていて困っているのに、その上ルートの変更とは…。

ジーナ

(この計画は失敗する)

そう確信したジーナは、観念したように黙って右折した。

ジーナの運転する車は約40分かけて、モリーの自宅前に着いた。

モリーは2人に手を振り、家に入った。

ジーナ

それじゃあ、刑事さんを目的地までーー

ヴィクター

いや、署には戻らないでください

ジーナ

え?

ヴィクター

今から、さっき私が右折を指示する前の道まで戻ってください

ジーナはドキッとした。

マックスはヴィクター・ラング刑事を頭の切れる男だと言っていたが、まさか…。

ヴィクターは車を降り、後部座席から助手席に移動した。

ジーナは車を発進させ、少し進んだところで右折した。

これもヴィクターの指示だ。

車はさっきまで通っていた道の、今度は対向車線を走り続けた。

やがて、ヴィクターが右折の指示を出したあの道に戻った。

ヴィクター

このまま、モリーの自宅へ向かうつもりで真っ直ぐ車を走らせてください

ジーナ

………

少しの間があってから、ジーナはアクセルを踏み込んだ。

既に時刻は9時前である。

冷たい冬の風とジーナの車のエンジン音だけが聞こえるだけの静寂。

ジーナ

どうしてこんな面倒臭いことをなさるんですか?

車内の沈黙に耐え兼ねてジーナが口を開いた。

ヴィクター

ヴィクター

今夜、モリーを殺すつもりでしたね

ジーナ

………

ヴィクター

無言ということは事実と受け止めて間違いはありませんね

ヴィクター

だが、計画を立案したのはあなたじゃない

ヴィクター

マックス・アンダーソンだ

ヴィクター

あなたは彼の共犯だ

突然、ジーナは路肩に車を停めた。

ジーナ

刑事さん

ヴィクター

はい

ジーナ

エレノアがどうして死んだのかご存知ですか?

ヴィクター

表向きは窓から飛び降りた自殺とされていますね

ジーナ

自殺なんかじゃないんです

ジーナ

エレノアは…

ジーナ

…エレノアは、ジェシカたちに殺されたんです

ジーナ

だから、殺された彼女のためにも仕方がなかったんです

ヴィクター

腕を切断し、そばに薔薇を一輪遺したのはあなたの意思によるものですね?

ジーナはゆっくり頷いた。

ヴィクター

あなたはそうすることで、被害者たちにエレノアの自殺を仄めかせたかった

ジーナ

そうすれば、エレノアへの供養になるような気がしたもので…

ヴィクター

あなたの役割は被害者が存命中に自宅に上がり込み

ヴィクター

前に殺害し切断した被害者の腕と薔薇を遺棄することだった

ヴィクター

違いますか?

ジーナ

その通りです

ヴィクター

ヴィクター

殺しは全て、マックスがしたことではありませんか?

ジーナ

マックスは…

ジーナ

彼もエレノアを愛していたし

ジーナ

彼女の自殺には当時から疑いを向けていたんです

ジーナ

以前は過去のことだと割り切ったように言ってましたが

ジーナ

結局、こんなことになってしまって…

ジーナは嗚咽を漏らすと、やがてハンドルに顔を当てて泣き出した。

ヴィクターはジーナが泣き止むのを待った。

ヴィクター

ふと、車内が明るくなった。

対向車線を向かいから走ってくる大型のトラックのライトに照らされたのだ。

それが、どんどん車線を越え、ジーナたちの乗る車へと迫っていた。

ヴィクター

危ないっ!

ヴィクターは慌てて体を丸めていたジーナの上に覆い被さった。

夜の闇に響く鈍い金属同士がぶつかる音。

トラックが右前の正面に激突し、車は歩道に乗り上げ、建物に衝突した。

衝撃で、ヴィクターは気を失った。

2020.01.26 作

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