主
主
遠井さん
一日の授業がすべて終わり、SHR(ショートホームルーム)までの合間にジュースを買いに行った遠井さんが勢いよく戻ってきて叫んだ。
一緒に行った友達も興奮気味だ。
ころん
遠井さん
席に着いて話していた僕と莉犬の机に、バン!と、大きな音を出して手をつき遠井さんは目を輝かせる。
遠井さん
莉犬
莉犬が思わず食いつく。
僕も、心の中では食いついていた。
他人の告白を目撃するなんて、そうそうあるものではない。
遠井さん
ピクリ、と体が反応する。
ここでさとみ君の名前が出てくるなんて、心の準備ができてなかった。
その様子を見ていたのか、莉犬が僕に意味深な目配せをしてきた。
遠井さん
莉犬
莉犬はとりあえずそこが気になるようだ。
僕のことを気にしてるのだろう。
遠井さん
遠井さん
遠井さん
遠井さん
すぐ立ち去ろうと思ってたんだけど、気になって覗いちゃった~と遠井さんたちは言う。
このまま付き合うかと思った。と一人の女の子が言った。
そんな風に体当たりで告白できるのは、確かにすごい。
断られてからなんでと聞けるのもすごい。
僕だったらすぐに引いてしまう。
そもそも告白という入り口でつまずきそうだけど。
はあーっと感心のため息をこぼしながら、
ころん
と、つぶやいた。
遠井さん
遠井さん
きゃあ、と遠井さんたちが一気に甲高い声をあげた。
その声に僕の
ころん
という、素っ頓狂な声はかき消される。
莉犬
莉犬
莉犬もさすがに驚いたのか身を乗り出した。
遠井さんは自慢気に
遠井さん
という。
側にいただけのクラスメイトも
クラスメイト
と集まってきて、僕は今すぐにここから逃げ出したいに気持ちになった。
何で気になってる子がいるなんてはっきり言ってしまうんだろう
彼の気になってる子が自分なんだと思うと顔が引きつってしまう。
もし、そんなことがみんなにばれたら、どう思われるんだろう。
おまけに、彼からの告白を断ったなんて知られたら、目の敵にされてしまうかもしれない。
想像するとぞっとした。
遠井さん
遠井さん
莉犬
莉犬が感心するように言葉を零した。
莉犬にそう言われるなんてなかなかだ。
遠井さん
遠井さん
遠井さん
“好きな子がいるから。それは君じゃないから、悪いけど無理”
そんなさとみ君の気持ちが遠井さんから聞くだけで伝わってくる。
なんて真っすぐで、誠実な人なんだろう。
目にした遠井さんが興奮するのも当然だ。
遠井さん
遠井さん
遠井さん
曖昧に断るだけじゃなくて、はっきりと口にする。
期待させるようなことは一切しないさとみ君の言動に、冷たいとか、ひどいとか思う人もいるだろう。
泣いている女の子を置き去りにしたのだから。
少なくとも、その後輩の女の子は傷ついたはずだ。
けど、彼はそんなのきっと気にしてない
どう思われてもいい。ただ、自分の信じることをするだけなのだ。
僕も、そんな彼をかっこいいと、思う。
『好きだ』
『どういう意味?』
『ずっと気になってた』
ぼんやりと、さとみ君からの手紙を思い出す。
彼の嘘偽りのない言葉。
それらに対して、適当に濁した言葉で返事をしていた自分に恥ずかしくなった。
つき合うつもりがないのなら、彼との手紙のやり取りは早めに終わらせた方がいい。
だらだらと期待させてしまう状態で続けちゃいけない。
ありがとう。 でもやっぱり僕さとみ君のことあまり知らないから。 ごめんなさい 放送委員以外は見ないから大丈夫だよ。
土日に何度も返事を考え、何度も書き直した手紙をぎゅっと握りしめる。
僕に好意を抱いてくれたことは本当にうれしいから、彼をできるだけ傷つけたくない。
けど、期待させてしまうような曖昧な言葉は残さなかった。
これが僕の素直な気もちだ
朝早い時間に学校に来て、きょろきょろとあたりを見渡しながら、場所を覚えてしまったさとみ君の靴箱に手紙を入れた。
今回はルーズリーフではなく、小さな封筒とセットのメモ用紙を選んだ。
真剣に考えた返事だと伝わればいいなと思う。
きっと、これが最後の手紙になる。
ころん
一人きりの廊下でポツリと本音を漏らして、苦笑した。
もしもさとみ君と付き合ったりしたら、毎日落ち着かないだろう。
みんな僕のことを興味津々に見てくるだろうし、2人で並んで歩くなんて、緊張でパニックに陥ってしまい会話なんてできそうにない。
でも、手紙でやり取りした少しの間は、夢を見ているようでもあった。
困ったし、大変だったし、すっごく悩んだけど、終わってしまうと少し寂しく思う。
ちょっとだけだったけど、僕は案外楽しんでいたのかもしれない。
ほんの少しだけさとみ君に興味も出た。
でも、もうこれで終わり。
終わり,,,,だよね。
手紙を手放したことで少し冷静になり、不安がよぎった。
また返事をもらったり、なんてことはない、はず。
だって、はっきり『ごめんなさい』と書いたのだから、返す言葉もなにもないだろう。
でも、いつもそう思ってた。
それでもさとみ君は返事をくれた。
まさか。まさか、ね。
主
主
主
主
主
コメント
5件
フォロー失礼しますm(*_ _)m 今回も最高です!続き待ってます!!
うああああ!!また続きが気になる終わり方をっ!!次回も楽しみにしてますっ!!!
ホントに最高ですね!💫✨このシリーズ大好きです!♡