少年
お母さん!早く早く!!
少年の母
はいはい、今行くよー
少年
今日は1番に行きたいんだ!!
少年
昨日はあいつらに負けちゃったから!
少年の母
なにー?負けちゃったって。
少年
誰が1番につくか競争してるんだよー!!
少年
今日こそは僕が一位になりたい!
少年の母
ただラジオ体操に行くだけでしょ…まったく…(笑)
少年の父
おっ、今日もラジオ体操に行ってきたのか!
少年の父
2人ともえらいなー!
少年の母
今日は私がシールの担当だったのよ。地域会のママさん達の中で回してるのよー。
少年の父
ママ、地域づきあいとか色々ありがとな…俺ももっとご近所さんと仲良くしたいんだが、なんせ仕事がな…
少年の母
パパは気にしないで!そんなこと!いつもお仕事ご苦労様です♡
少年
朝からラブラブしてる!ヒューヒュー!
少年の母
してない!!!
少年の父
してない!!!
少年
あははははは!!…お腹減った
少年の母
急ね!すぐ用意するから待っててね
少年
はぁい!
少年
待てー!!絶対に捕まえてやる!
友達A
ほらほらこっちこいよー!!
友達B
はさみうちだ!!
少年
おう!観念しろー!!!
少年
ん…?
少年
なんか泣き声がする
泣き声がする方に行ってみると、
赤ちゃんを連れた女の人が
公園を散歩してた
女性
ほら、ゆーちゃん、お外ですよー公園ですよー!
少年
あー!赤ちゃんだ!!
女性
あら、こんにちは。僕は何年生?
少年
5年生です!
女性
5年生か!もうすっかりお兄ちゃんねー!そうそう、この赤ちゃんね、双子ちゃんなのよ。もう1人は今お家で旦那が見てくれてるの。この子はずーっと泣いててね。
少年
お母さんって大変なんですね…。
僕は、お母さんの大変さと凄さに感心 しながら赤ちゃんを覗き込んだ。
少年
うぅ…うぅん
女性
触りたいの??笑
少年
うん…!
女性
いいわよ。優しく触ってねー
少年
つんつん、ぷにぷにしてる!!もちみたい!
女性
ぼくには妹か弟はいないの?
少年
お兄ちゃんが1人…でもすっごく意地悪なんだよ。高校2年生。
女性
あらそうなの…まぁ、お兄さんもきっとお年頃なのよ!もうちょっとすれば弟が可愛くてたまらなくなるものよ!
少年
そうかなぁ…。
少年
あ、この赤ちゃんの名前、なんて言うの?
女性
あ、この子の名前はね………
女性
…ちゃんっていうの!
少年
へぇ!可愛い名前!
友達A
いた!お前なにしてるんだよー!
友達B
ん?こんにちは!
女性
こんにちは、2人ともお友達?
少年
はい!…って!
友達A
わぁ!ぷにぷにしてるー!
友達B
おれも赤ちゃん触りたいー!!
女性
あははは、すっかり人気者ねー!
女性
うぅ…ッ!はぁッ…
少年
えっ…?あの!どうしたんですか?!
友達A
苦しいんですか?!
友達B
どうしよう…救急車呼ばなきゃだめなのかな…?
少年
でも、近くに電話なんてないし…。大人の人呼ばなきゃ!
友達A
赤ちゃんはどうするんだよ!置いていくのか?
友達B
お前は赤ちゃんを連れて先に病院に行ってて!!俺とAで大人の人呼んでくるから!
少年
病院って、中央病院でいいのか…?
友達B
そうだ!早く!
少年
わかった…!
僕は、どうしたらいいかもわからない
まま、赤ちゃんを乗せた
ベビーカーを引いて走った
それが
少年
はぁっ…はぁっ…
少年
もうすぐ中央病院だ!
少年
赤ちゃん、もうすぐだからね、待っててね!
少年
うわっ!!!!
キーーーーーーーー!!!!!
というブレーキの音が聞こえた次の瞬間
僕は道路に叩きつけられた
少年
僕…死ぬの…?
少年
痛いよ…誰か
少年
あれ、赤ちゃん…は
少年
どう…した…ら…
少年
痛い…痛いよ…誰か…
人達が騒然とする声を遠く遠くに
聞きながら
僕は意識を失った。
少年の母
…!目を覚ました!先生!!
少年の父
よかった…本当に良かった…!
少年
おか…さん、お……と…さん
先生
検査をしましたが、奇跡的に息子さんの体は打撲と擦り傷以外、内部に問題はありませんでした。ですが頭を打っているようなのでしばらくは用心していてください。念のためもう一度検査をしますが、明日には退院できますよ。
少年の母
はい…!ありがとうございます!
少年の父
ありがとうございます…!
少年
僕、生きてて良かった。
少年
……!
少年
ね、ねぇ、赤、ちゃんは?
少年
ねぇ!赤ちゃんはどうなったの?ねぇ!!!
少年
うっ…痛い
少年の母
あぁ!目覚めたばっかりなんだから無理しないで
少年の父
赤ちゃん…?なんのことだ?
少年の母
どういうこと?
少年
実は…
僕はうまく回らない口をなんとか
頑張って動かして
ことの一部始終を全て両親に話した
少年の母
そういうことがあったのね…。
少年の父
あのな、その赤ちゃんのことならお前が気にすることはない。問題ない。
少年の母
そうよ、ここからは私たち大人の問題。あなたはゆっくり休んでいて。
少年
…。
少年
わかったよ。ごめんなさい、心配かけて
少年の母
ううん、いいのよ。でもこれからは絶対に飛び出したりしちゃダメよ
少年の父
ああ、そうだな。これからは気をつけなさい
少年
はい…わかりまし…た…。
少年
zzz
少年の母
ねぇ…あなた
少年の母
その赤ちゃんのこと、何か聞いてない?黙ってるだけとかじゃないの?
少年の父
俺も、なにも聞いていないんだ。一体なんでそんなこと教えてくれなかったんだろう…
少年の母
先生に聞いてみる…?
少年の父
あぁ、ここはちょっとあれだ。場所を移そう
少年の母
ええ、そうね
先生
すみません、お待たせいたしました。どうされましたか?何か息子さんのことで気になることが?
少年の母
あの、実は息子から聞いたのですが
先生
え…?赤ちゃん…?すみません、こちらの病院に本日赤ちゃんの搬送はありません。お力になれずすみません。
少年の母
え…?それってまさか
少年の母
息子の脳は本当に大丈夫なのでしょうか?先生!
先生
今日中にもう一度検査をしてみますが…先ほどの検査では特に大きな異常はありませんでした。
少年の父
そうだ、その友達2人なら知ってるんじゃないか?
少年の母
あ!そうよ!その子達に聞けばなにかわかるはずよ!
少年の母
先生、お忙しい中すみません。引き続き息子のことをお願いいたします。
先生
え…あ、はい。そちらはお任せください。
少年
う…うぅ…赤ちゃん…僕のせいで
少年
ごめんなさい
少年
ごめ…んな…さ…ぁぁいっ…
お母さんが2人に聞くと
AとBはあの後
近くの大人を2人で呼びに行って
女の人は救急車で搬送されたらしい
原因は疲労による重度の貧血と診断。
入院をして治療に専念しているよう。
そして、事故現場にいた人達によると
僕の周りには
赤ちゃんなんてどこにもいなくて
ベビーカーすら見つからなかった
少年
僕の、あの記憶はなんだったんだろう
少年
でも、みんなに心配かけたくないからもうこの事は誰にも話さないでいよう
少年
病院で診てもらったけど、脳にはやっぱり異常はなかったし
少年
黙っていよう
少年
僕は、なにも知らない
少年
赤ちゃんなんて、見てない
少年
………なんて子、知らない。
2008年8月18日
その日起きた出来事で
1人の少年の心に
深い、深い、闇が宿った