ある夜、男友達数人と、 俺の家で飲み会をした。
隆史
だいぶ酔いもまわって来た頃に、そんな提案をした。
龍太
特に反対意見がなかったことから、そんな話がはじまった。
龍太
嘘だ。確かに全員で海に行った時に、女の子にナンパはしていたが、キッパリと断られていた。
こんな調子で、皆本当の話と嘘を織り交ぜて話すから、結構楽しかった。
そして、最後の一人の番になった。
陸
龍太
陸
ある日、目が覚めたら、僕は知らない部屋にいたんだ。
真っ白で、何も置いてない四角い部屋。
何も分からず混乱していると、上の方から声が聞こえた。機械にかけた、変な声だった。
『これから進む道は、人生の道であり、人間の業を歩む道。選択と苦悶と決断のみを与える。進む道は多くして一つ。決して矛盾を歩むことのないよう』
その声が聞こえたとき、部屋の隅にドアがあるのに気づいた。
あの声の意味は分からないが、とりあえず進むしかないと思ったから、ドアを開けて進んだ。
ドアの向こうは、先程と同じ白い部屋。反対の壁には、ドアがある。
でも、鍵がかかっていて開かなかった。
先程の部屋と違うところは、部屋の左手に寝袋が一つ。右にはテレビが一台。寝袋の横には手斧が置いてある。
テレビの向こうには、虚ろな目でこちらを見上げる子供達が写っていた。
また声が聞こえた。
『3つ、与えます。一つ、右手のテレビを壊すこと。二つ、右手の寝袋の中の人を殺すこと。三つ、貴方が死ぬこと。』
『一つ目を選べば、出口に近づきます。貴方と寝袋の中の人は開放され、テレビに映っている子供たちは死にます。』
『二つ目を選べば、出口に近づきます。その代わり、その人の道は終わりです。』
『三つ目を選べば、寝袋の中の人は開放され、おめでとう。あなたの道は終わりです。』
陸
陸
馬鹿らしい話だよな。
でも、その状況を馬鹿らしいなんて思うことができなかった。
それだけ、あの部屋の空気は異質で有無をいわさぬ雰囲気があった。
僕は考えた。
見知らぬ多数の命、見知らぬ一つの命、よく知っている自分の命を比べたとき、それなら見知らぬ一つの命を選ぶべきではないかと。
しばらく考えた末に、僕は手斧を持ち、寝袋の上に振り下ろした。
グチャ…と鈍い音と、手に伝わる嫌な感触。
二度目を振り下ろした。また、グチャ、と音がする。3度目を振り下ろそうとすると、カチャリと音がして、扉が開いた。
次のへやには、左に寝袋、右には大きな船の模型があった。
『三つ、与えます。一つ、右の船の模型を壊すこと。二つ、左の寝袋を燃やすこと。三つ、貴方が死ぬこと。』
一つ目を選べば、出口に近づきます。寝袋の中の人と貴方は開放され、その船に乗っている乗客達は死にます。
二つ目を選べば、出口に近づきます。その代わり、その人の道は終わりです。
三つ目を選べば、寝袋の中の人は開放され、おめでとう。あなたの道は終わりです。
陸
陸
でも、その時はそれが本当なんだと思っていた。理由なんてないけど、そう思ったんだ。
僕は、部屋に置いてあった灯油を寝袋にかけた。灯油のタンクが空になったら、マッチに火をつけ、寝袋の上に放った。
ぼっ、と音がして、寝袋はたちまち火に覆われた。
僕は、隣の船をぼうっと見ながら、扉が開くのを待った。
2分程経ったかな?カチャリと音がして扉が開いた。寝袋の方は見なかった。見たくもなかった。
3つ目の部屋は、左に寝袋、右には地球儀があった。
『三つ、与えます。一つ、右の地球儀を壊すこと、二つ、左の寝袋を撃ち抜くこと、三つ、貴方が死ぬこと。』
『一つ目を選べば、出口に近づきます。貴方と寝袋の中の人は開放され、この世界のどこかに核兵器が落ちます。』
『二つ目を選べば、出口に近づきます。貴方は開放され、その代わり、その人の道は終わりです』
三つ目を選べば、寝袋の中の人は開放され、おめでとう。貴方の道は終わりです。
もう、特に迷いもしなかった。
僕は寝袋の脇の拳銃を拾い、それで寝袋を撃ち抜いた。
ドアに向かうと、鍵はすでに開いていた。
その先の部屋は、何もなかった。
陸
驚いたけど、同時に安心した。
やっと出られるのか、と、そう思ってね。
また声がした。もはや聞き慣れた声。
『最後の、問い。』
『3人の人間と、それを除いた全世界の人間。そして、君。』
『殺すとしたら、何を選ぶ』
陸
特に何も考えることなく、僕は黙って、今まで来た道を指指した。
『おめでとう。君は、矛盾なく道を選ぶことができた。』
『人生とは選択の連続であり、匿名の幸福の裏には匿名の不幸があり、匿名の生のために匿名の死がある。』
『一つの命は地球よりも重くない。君は、それを証明した。しかし、それは決して、命の重さを否定するものではない。』
『最後に、一つひとつの命が、どれだけ重いものかを感じてもらう。』
『出口は開いた。おめでとう、おめでとう。』
僕はぼうっとその声を聞いていた。
安心したような、虚脱したような感じがした。
とにかく全身から力が抜けて、フラフラになりながら最後の部屋に入った。
光が降り注ぐ眩しい部屋。
目が眩みながら進むと、そこには、三つの遺影があった。
父と、母と、弟の遺影が。
隆史
龍太
陸の話が終わったとき、誰も何も言えなかった。
彼の話には、とてつもない迫力があった。
龍太
龍太
龍太
陸
もう、嘘をついたよ
主
主
主
主
主
主
主
主
主
主
主
主
主
主
主
彼の話は、全て実話だということです。
主
主
主
コメント
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そゆことかー!!!!