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松村千愛
松村千愛が、震える声で尋ねた。
画面には、確かに“彩実寛花”という名前で、メッセージが届いとる。
《おかえり、寛花。》
涼宮詩恩
涼宮詩恩が覗き込むけど、寛花は首を振る。
彩実寛花
一瞬、空気が止まった。
外の風の音も、虫の声も、何も聞こえん。
新藤仁希
仁希が無理に笑う。
けどその顔には、笑いよりも“焦り”が浮かんどった。
彩実寛花
そう言って、みんなそれぞれ布団に入った。
――けど、寛花だけは眠れんかった。
時計の針は、午前二時を指しとる。
どこからか、コツ……コツ……と廊下を歩く音が聞こえた。
彩実寛花
起き上がり、襖を少しだけ開ける。
月明かりが細い筋のように差し込んで、廊下に人影が見えた。
白い着物の女。
背中が少し曲がっていて、何かを抱えとるように見える。
彩実寛花
声をかけた瞬間、その“女”が止まった。
そして、ぎぎ……と首だけをゆっくりこちらへ向けた。
――顔が、なかった。
輪郭だけがぼんやりして、真っ白な肌。
その顔の中央に、黒い穴のような影がひとつ……。
彩実寛花
寛花が息を飲んだ瞬間、女は“スゥーッ”と消えた。
翌朝。
涼宮詩恩
詩恩が言う。
新藤仁希
仁希が顔を上げる。
涼宮詩恩
寛花は、手が止まった。
まったく同じ夢。
けど――それは夢やなかった。
そのとき、ふと気づく。
部屋の外に、小さな紙切れが置かれとった。
拾って広げると、黒い墨でこう書かれている。
《三号室には入るな》
松村千愛
千愛が指差す。
確かに、隣の襖には“3”の札がぶら下がっとった。
仁希が眉をひそめる。
新藤仁希
涼宮詩恩
詩恩が言う。
松村千愛
千愛が止める。
でもそのとき――
“隣の部屋の襖”が、スゥ……と、内側から勝手に開いた。
そこには、誰もおらん。
ただ、暗闇の奥で……
女の声がした。
永山温季
寛花の足がすくむ。
みんながその方向を見つめたまま、声も出せん。
そしてその瞬間、仁希のポケットの中でスマホが鳴った。
画面に表示された名前は――
《彩実寛花》
永山温季