オレがAkの病室の扉を開けて中に入ると、
そこにはいつも通りに見えて少し漂う雰囲気が普段より甘い2人がいた
Mz
やっほーAk、Prはさっきぶり

Ak
あ、Mzち!!

Ak
Mzちが来てくれるの待ってたんだー、
お見舞い来てくれてありがと!!

Pr
さっきぶりやな、Mz

Prは嬉しそうに笑ってこちらに歩いてくると、
この世の幸せを全て詰め込んだような甘い笑顔でオレに結果を報告してくれた
Pr
うまく行ったわ、ありがとな

Mz
いや、別にそれはいいけど、、、

いつもより少しそわそわしている様子の2人は、
同年代の奴らと比べると比較的こういうことに疎いオレでもわかるほどの
幸せオーラを放っていた
Mz
2人とも、もしかして付き合った?

Ak
へ!?///

Pr
なんでわかったん!?///

Mz
AkもPrもあまりにも嬉しそうすぎる、めちゃくちゃわかりやすいよ

オレが笑ってそう言いながらコンビニで買ってきた差し入れのゼリーを
サイドテーブルにおくと、Prが真っ赤な顔で答える
Pr
Mzにすらバレるとか、相当わかりやすいやん、、、///

Ak
浮かれちゃってるのバレて恥ずかしい、、、///

Mz
あははっ、好きな子と両思いになれて浮かれるのは
仕方ないことなんだろうなって思うよw

Mz
まあ、オレは経験がないから
あいつに勧められたラノベからの知識だけど、、、

Pr
でもでもー、Mzには好きな子がいるんやろぉ?w

Ak
えっ、そうなのMzち!?✨

Mz
は!?別にAtはそんなんじゃ、、、

オレが反射的にそう答えると、
Prはいつも以上にニヤニヤしながらオレのことをからかってくる
Pr
へぇー、その子Atって言うんやなー?w

Mz
(うわ、やったわこれ)

Ak
Mzちも好きな子いるんだぁ、青春だねえ

Mz
同年代のくせにジジイみたいなこと言うなよ

Mz
しかも大好きなPrと付き合って青春真っ盛りのくせに

Ak
そう言われるとなにも言い返せない、、、

Mz
でも、実際Atのことどう思ってるかって聞かれてもピンとこないんだよな

Mz
オレのことを幸せにしてくれた、大切な友人ではあるけれど

Pr
そうなん?

Pr
俺が見とる限りやと、
MzはそのAtってやつのことが好きなんやろうなって思うけど

Mz
例えば、、、どういうところがそう見えんの?

Pr
うーん、その子のためにわざわざ苦手な読書に手を出したり

Pr
その子に会うためだけにあの面倒くさがりのMzが
わざわざいじめっ子に逆らったりするってとこは
普通の友人やとなかなかやらないかもしれんな、、、

Pr
あと、夕方はいつもそいつを最優先にしとるとことか

Mz
……え、ちょっと待って

Pr
どしたん?

Mz
お前、オレが毎日夕方にAtと会ってることを前提に話してるけどさ、、、

Pr
おん

Mz
オレ、夕方にいつもあいつと会ってるってPrに話したことあるっけ、?

Pr
話されたことはないで?

Mz
じゃあなんで知ってんの!?///

Pr
だって、、、いつも別れ道で海岸の方に行くMz、
見るからに普段よりテンション高いし

Pr
相当鈍感なやつやない限りわかると思うけど、、、

Mz
嘘だ、、、

Ak
ここ、わかりやすい人しかいないねwww

Pr
それなwww

Mz
お前ら、からかってきたオレに仕返しできたからって、、、

しばらくゲラゲラと笑い転げているリア充どもにオレが文句を言っていると、
いつも通り丁寧なノックの音と共にKtyさんが入室してきた
Kty
こんにちは、今日は全員いるんだね

Ak
あ、Ktyち!!

Pr
Tg先生の彼氏さんや!!w

Kty
あ、もしかしてバレた?w

Pr
今日先生が教えてくれたんよ

Kty
そっかぁ、てことは今日は帰宅したらTgにPrくんの
相談内容聞かないとな

Pr
え、それは嫌や!!///

Kty
ふふ、そんな慌てなくても大丈夫だよ、
本当にTgに相談内容聞いたりしないから

Pr
うう、、、///

Mz
Ktyさんの方が一枚上手だったなw

Ak
大人だぁ、、、

Ktyさんは笑いながらいつも通り食事をAkのところに持っていく
Ak
Ktyちありがとう!!

Ak
やっぱり、最近もあの子は、、、?

Kty
ずっと眠ってるね、検査があるから今日は起きてると思うけど、、、

Mz
(そういえばさっきすれ違ったやつも検査って言ってたな)

Kty
それと、いつも以上にぼーっとしている時間が増えたかな

Kty
起きた後は1時間くらいぼーっとしてる

Ak
そっかぁ、、、

Akは相変わらずな本の交換相手の様子に心配になっているのか
目を伏せて少し辛そうな顔をしている
Ak
あ、そうだKtyち

Kty
どうかしたの?

Akは車椅子を移動させてサイドテーブルまで移動すると、
その棚を開けて病院のコンビニで買ったのであろう
パイナップルゼリーの6個パックを取り出し、Ktyさんに手渡した
Ak
これ、、、その子に

Kty
わかった、渡しとくね

Ktyさんは優しく微笑むと、それを抱えて病室から出ていく
Kty
あ、そういえばMzくん

Mz
はい?

Kty
……いや、時間が押してるしまた今度でいいか

Kty
どうしてもって時はTgの方から言って貰えばいいし、、、

Mz
?

Kty
ごめんね、なんでもないよ

Kty
それじゃあ3人とも、またくるね

Ak
はーい!!

Pr
お仕事頑張ってくださいっ!!

Mz
わかりました

Mz
(Ktyさん、さっき何を言おうとしてたんだろ、、、)

Ktyさんが病室を出た後も数時間ほどAkのお見舞いをしていたが、
そろそろ夕方になるということでまだ残るらしいPrと別れて
いつもの海岸に来ていた
Mz
(まだ夕方とはいえないけど、、、)

Mz
(まあ、Atが来るのを待てばいいよな)

まだ夕方というには少々早い時間なのでAtはいないだろうと踏んで
海岸に向かったのだが、そこにはもうすでに彼がいた
声をかけようとして、昼間の出来事を思い出して息を呑む
Mz
(もし、あいつがオレのこと忘れてたら、、、)

オレのそんな不安を打ち消すように、
今日は珍しく向こうから声をかけてくれた
At
あ、Mzじゃん

At
今日はいつもより早いんだね

At
俺は、、、嬉しいけど

そう言ってにこりと微笑んだAtを見て、
とくりとくりと鼓動が速くなる自分がいた
Mz
お、おう

目の前の彼はいつも通りの大人っぽい笑みを浮かべており、
オレの姿を見てちゃんとオレを認識している
そのことに安堵したが、それじゃあ病院で出会った彼は全くの別人なのかと
聞かれるととてもそうは思えない気がした
Mz
(本当に、なんなんだよ、、、)

Mz
てゆーかAt、お前夕方しかここにいれないんじゃなかったの?

オレがいつも通り靴を脱いで彼の隣に腰掛けながらそう問うとAtは、
んー、と声を上げた後、少し間を置いてからオレの質問に答えを返した
At
なんていうか、、、最近ここにいる時間増えてる

Mz
そうなん?

At
うん、理由はわかんないけど、、、

At
そろそろ、なのかもしれないな

Mz
え?何が?

At
それは内緒

彼は意味深ににこりと微笑むと、オレの目を見ながらこんなことを聞いてきた
At
ところでMz、最近は幸せ?

Mz
うん、数週間前とは比べ物にならないくらい幸せだけど、、、

Mz
急にどうした?

At
別に、俺が自殺止めたせいで不幸になってたら申し訳ないなって

Mz
それは大丈夫、むしろお前のおかげで今幸せだから

Mz
お前がいなければオレはここまで幸せになれなかっただろうな

At
それは、、、俺が自殺を止めたから?

Mz
……どうだろう

Mz
一番最初はそうだったかもしれないけど、、、

Mz
普通に、Atとこうして話している時間も幸せだし

Mz
これからもお前と話していられたらいいな、とは思ってる

Atはオレの言葉を聞いて目を見開くと、
珍しくその表情を辛そうに揺らして目の前でたゆたう海面に目を向けた
At
……ごめん

Mz
え?オレまずった?

At
違う、そうじゃなくてっ、

怪訝に思って彼の顔を覗き込むと、
その色違いの瞳からポロリと水滴が落ちて、波打つ海面に
円状の波紋をつくりだす
Mz
お、おいAt!?

At
嘘だろ、俺今泣いてるんだ、、、

At
すっごいひさしぶり、情けないなあ、、、

At
Mzと一緒にいると、ハジメテとか久しぶりばっかだよ、

At
なんかもう、よくわかんないっ、

Mz
え、えと、ごめん、?

At
ううん、Mzはなんも悪くないよ

At
なんなら、めちゃくちゃ感謝してる

At
でも、状況が状況だから手放しでMzがくれた“幸せ”を楽しめないだけ

Mz
そ、そうなん?よくわかんないけど、、、

静かに涙をこぼすAtに触れて、そばにいるよと伝えてやりたくなるが、
今Atに触れたら何かが壊れてしまう気がして結局行動には移せなかった
そして、その行動がオレ含む人生に絶望しているやつあるいはしていたやつが
大嫌いな“偽善”としてこいつの目に映ってしまう可能性があるかもしれないと
思ってしまって、Atの心に触れるという決断に踏み出せなかった
At
ねえ、Mz

Mz
?

At
Mzは、俺に生きていてほしい?

Mz
……ちょっと前なら、お前と同じように生死がどうこうとか、
自殺とかを止めるつもりはないって答えただろうな

Mz
死にたい、って気持ちはわかるって

Mz
あの日のお前みたいに答えたと思う

Mz
でも、、、今は

ほとんどのところはAkとPrでなっているように見えるその幸せだが、
自分の「この人には生きていてほしい」と思うほど大事な人には
間違いなく目の前のこいつも含まれていた
Mz
苦しいこととかあったら寄り添うから、
そばにいてほしいし生きていてほしいって思うよ

Mz
偽善に見えるかもしれないけど、w

At
ううん、大丈夫だよ

At
Mzの言葉には、何も知らない大人たちの言葉とは
違う重みみたいなのがあるから

Mz
経験者だと、やっぱりな

At
でも、、、そうだよね

At
Mzは、そう言ってくれるってわかってた

At
だけど、俺はっ、

Atがさらに泣き出してしまったのでオレがどうしようと思っていると、
彼は物語の読み聞かせのような芝居くさい口調でこんなことを言い始めた
At
あるところに、人生に絶望して自殺をすることにした
1人の男子高校生がいました

At
彼は、周りの大人からこんなことを言われていました

At
生きていれば幸せなことがあるかもしれないって

At
諦めないで生きろって

At
だけど彼は、何もわかってない大人たちに腹が立って

At
全部全部苦しみを知らない奴らの偽善で理想論だって

At
生きていたって幸せなことなんかあるわけないって、
もう笑えなくなった高校生は海に身を投げました

Mz
……。

At
間違った差し伸べられ方をした腕にムカついて、
全部拒絶して跳ね除けました

At
あのまま生きていたって、きっと幸せなんてなかったし

At
それに関しては今も意見は変わってない

At
もしもあのまま逝っていれば、彼は後悔なんて微塵もしないで
あの世で大人たちに説教されて終わりだった

At
でも、、、妙な形でこの世に残されて、彼は出会ってしまったのです

At
自分に生きていてほしいって思ってくれて、
その人のためなら生きたいって思えるような大事な人に

Atらしい物語調で語られる“彼”に関するお話は妙に臨場感があって、
聞いていると本を読んでいるときのようにその世界にのめり込んでしまう
あまり本を読んでこなかったオレにはその“彼”の正体を
察することができるような知恵なんかなかったけど、
Atがとても辛そうだということだけは学のないオレでもわかった
At
本当に、クソみたいな物語だよ

At
あのまま何も知らないで死んでいたら、
彼が迎えていたのは彼にとっては幸せなメリーバッドエンド

At
でも、妙な形で残されたから、彼は自分の犯した罪を思い知ってから
何もできないで消えて救いようのないバッドエンドを迎える羽目になる

At
彼のことを大事な人にしてくれた彼の大事な人を傷つけて、
物語の悪者みたいに苦しみながら消えていくんだ

Atは海面を見つめながらふっと自嘲気味に笑うと、
何かに苛立っているような、絶望したような、
そんな彼らしくない感情的な声で告げる
At
大人たちのいうことは、どう足掻いても正論だった

At
でもそれは、死に損なったからこそ思い知ったことだ

At
あの時は、あいつらのいうことなんか正しくなかった

At
お前が死んだら誰かが悲しむ?

At
自分にそんな奴はいない

彼はほろりと涙をこぼし、それが再び海面に波紋を生み出す
At
この世には生きたくても生きられない人がいる?

At
そんなの俺には関係ないだろ

そう続けていくAtの手もその声と同じように震えている
At
あいつらは正しくないって思い込んだまま死ねたほうが、
いっそ楽だったのに

At
自分の命を捨てた奴には、ちょうどいい罰だって
神様がこの世に残したんだろうな

彼はそこまで言い終えると、そっと瞳を閉じて静かに深呼吸をする
やがて深呼吸を終えた彼は今度はゆっくり目を開いて、
オレの方を見ながら言った
At
ごめんねMz、俺ばっかり話しちゃって

At
取り乱しちゃった

Mz
あ、いや、それは大丈夫だけど、、、

Mz
Atの話、わかるとこもあったんだけどわかんないとこもあって

Mz
ごめん

At
ううん、それでいいんだよ

At
Mzみたいな優しくて素敵な人は、知らないでいいんだよ

At
せっかく生きたいって思えたんだから、まだ生きているんだから、
Mzがそう思っている間は生きないと

At
俺と話すときにここに来るのももちろんいいけど、、、

At
もし今後の人生でMzがもう一度死にたいって思う日が来たら、
その時もこの海岸に来てよ

At
迎えに来て、あげるから

Mz
……。

初対面の時と同じようなことを言っているのに、
今の彼が放った言葉にはあの日とは比べ物にならないほどの重みを感じる
Mz
あのさ、At

At
どうしたの?

Mz
Atは、これからもここにいてくれるよな、?

オレが口にした不安のこもった質問に彼は薄く笑うだけして、
遠くを見ながらこう答えてきた
At
……Mzが心の底から今自分は完璧に幸せだって
言えるようになるぐらいまではここにいられるといいなあ

Mz
なんだそれ、答えになってない

オレの文句に彼はうんともすんとも言わずに空を見上げ、
話題を逸らすようにこんなことを言ってくる
At
ほらMz、もうすぐ太陽が沈んじゃうよ

At
早く孤児院に戻らないと

Mz
でも、

お前が消えそうで怖いんだ、というオレの本心は結局言葉にならない
At
Mz、俺はまだここにいるよ

At
また明日、でしょ?

Mz
本当に、明日もここにいる?

At
もちろん

Mz
約束だからな?破るなよ?

At
そんなに念を押さなくても、約束は守るよ

Mz
……わかった

にこにこといつも通りの笑顔を浮かべるAtに背を向けて、
オレは海岸をあとにしようと歩いていく
少しだけ不安に思って、数メートル歩いた後振り返ると、
そこにはもうAtはいなかった
Mz
(あいつ、どこ行ったんだ、、、?)

Mz
(まあ、約束は守ってくれるはずだよな)
