主。
主。
⚠️今回はちょっとした掘り下げがあるので、死ネタ未遂が含まれています⚠️ (虹椿ワールドなので毎度のごとく最終回はハピエンです)
主。
主。
At
検査を終えたあといつも通り眠っていた俺がベッドから起き上がると、 そこに広がっているのはここ数週間ですっかり見慣れた無機質な病室だった
At
サイドテーブルに置かれたデジタル時計を確認するために そちらに目を向けると、そこにはパイナップルゼリー6個入りのセットが そっと置いてあって、そばにはKtyさんの字で何かが書かれている メモ用紙が添えられていた
At
At
俺がいつも本を交換している顔も名前も知らない男の子に 少し申し訳ない気持ちになりながら窓の外を見ると、 太陽はすでに沈んでおり、そこに広がる空はとっくのとうに真っ暗だ
At
睡眠というのは不思議なもので、俺は自分が何らかの夢を見ていることも それが心地よいものであることも誰かと夢の中で話していたことも 覚えているのに、その詳しい内容は覚えていない
At
楽しかった、嬉しかった、悲しかった、ドキドキした
夢の中で自分が抱いた感情も明確に覚えているのに、 誰と話した、とか、何を話した、といったことは記憶に残らないのだ
At
At
At
そんなことを考えながら何とはなしにサイドテーブルに目をやると、 俺のスマホがバイブレーションと共にメッセージの着信を告げる
そこに表示された送信元に俺はため息をつき、 その連絡を無視することにした
At
そう呆れながら俺が思い出していたのは、 病院に入院する前に自分の身に起こったクソみたいな出来事のことだった
俺はいわゆる両親の一夜限りの関係でできてしまった望まれない子で、 母親が出産した後は孤児院の前に捨てられてそこで拾われた
とはいえ孤児院も18歳になれば退所しなければならないので、 誕生日が比較的早めで現在高3である俺はバイトと学校を両立しながら 自分の力でこの世界を生きていかなければならなかった
At
高校を卒業しなければ就職は難しいから何とか卒業したかったが、 俺はどんなに努力を重ねてもその結果が実るのには 他人と比較しても大量の時間を要するタイプであった
もちろんそれは学業においても例外ではなく、 バイトも勉強もしなければならないので他の学生より 勉強に費やせる時間が少ない俺は国語以外のテストは 全て赤点ギリギリというスペックの低い生徒だった
先生
At
授業もちゃんと聞いているし、 他の奴らみたいに怠けて遊んだりもしていないというのに、 何度参考書を見て復習してもやっぱり俺は周囲の人間より習得が遅かった
黒板に記された数字とアルファベットの羅列は昨日も勉強したはずなのに、 いざ聞かれると混乱して解法が見えなくなってしまう
At
先生
At
クラスメイト
クラスメイト
クラスメイト
クラスメイト
俺に後ろ指をさしながらくすくすと笑うクラスメイトたちに 不快感を抱いたこともないといったら嘘になるが、 全ては俺の努力不足が原因であるのでどうしようもなかった
At
そんなどうにもならない日常生活を送っていた俺にとって、 息抜きに自身が稼いだ金銭で購入したラノベを読むというのは 俺の人生の中で唯一の楽しみであった
At
いつもの作品の新刊買おうかな)
ラノベというのは使われている言葉が比較的簡単なものであるし、 他の本と比べても短時間でサクッと読めるので 俺にとっては都合のいい娯楽であったのだ
何よりも、最終的に何でもうまくいってしまう ラノベ独特のご都合主義というやつが現実逃避にちょうど良かった
At
At
たまには息抜きも必要だよな)
元々そこまで頭がいいわけではなかったので周囲から バカにされていた俺だったが、ある日決定的な出来事が起こった
俺が少し前にバイト帰りに買ったラノベを読んでいると、 クラスメイトがツカツカと歩み寄ってきて俺の持っていた本を取り上げる
At
クラスメイト
クラスメイト
クラスメイト
At
クラスメイト
クラスメイト
クラスメイト
At
クラスメイト
クラスメイトたちは俺の言葉を聞かずに、 俺のラノベをパラパラとめくっていく
別にそれだけなら良かったけど、 その本を読んでニヤニヤと意地の悪い笑顔を浮かべたそいつらは 俺が本につけていたカバーを外して題名を読み上げた
クラスメイト
クラスメイト
クラスメイト
At
俺はあくまで物語を傍観者として見るのが好きなタイプであるので 相手の言葉を否定しようとしていると、 彼らはニヤリと笑って俺の目の前でそのラノベを破いた
At
At
クラスメイト
バカなんじゃねーの?
クラスメイト
Atのやつこんなキッショい話読んでるんだぜー?www
クラスメイト
お前らも気をつけろよー?www
彼らはビリビリになったラノベをクラス全員に 見せびらかしながら笑っており、 他のクラスメイトたちも俺たちを見ながら爆笑している
俺はただ、ビリビリになってぐちゃぐちゃにされたお気に入りの本と 誰も彼らの行動を咎めずに笑っているこの空間を眺めて 呆然と目を見開くことしかできなかった
その事件のあとから俺はクラス全員から バカにされていじめられるようになり、 そろそろ限界を迎えたので担任の先生に相談していた
At
先生
At
俺は事情を説明したが、その話を聞いた先生は怪訝そうな顔を浮かべる
先生
先生
At
そういうふうに問い詰められてしまうと、 遠回しに「いじめられているわけではないよな?」と言われている気がして 俺は何もいえなくなった
At
先生
そのあと彼は、何も知らないくせに知ったような顔をして、 こんなことを言ってきた
先生
先生
先生
先生
ああ、この人は何も分かってないんだ、と思った
At
At
At
生きたくても生きられない人がいるって言ったって
今しんどくて辛いのは本当だし、俺には関係ない)
At
悲しむ人がいるだなんて無責任な、、、)
その後、俺が担任の教師に自分の境遇を相談することは二度となかった
周りの大人を頼ることを俺がやめた後も、 俺に対するクラスメイトたちの対応はエスカレートするばかりだった
クラスメイト
クラスメイト
クラスメイト
At
ほぼ全てのクラスメイトにそういうふうに言われるようになっていた俺は、 この時もうすでに自分の心の中心がすっかり抜け落ちていた
先生
先生が入ってくるとみんなはさっと態勢を整えて 何事もなかったかのように先生の話を聞き始める
そんな彼らを眺める先生の顔には、 「ほら、やっぱりこいつらはいい子達だ」と書いてある気がした
ぼーっと先生の話を聞いている俺を、 クラスメイトたちが楽しそうに眺めていた
そろそろ心も体も限界を迎えるという時、 クラスメイトたちのイタズラで全員から一斉にメッセージアプリで 「死ね」と送られてきた
スクショを撮って証拠にすることも考えたが、 わざわざそこまでしていじめを撃退したところで この後自分にいいことなんかあるのかと考えてしまった
当時の俺の精神状態ではその答えなんか明白で
その出来事が今まで溜め込んできた「死にたい」の引き金となり、 俺は近所の海岸で自分の体を海に捨てた
流石に俺の異変に気がついたらしい担任の教師が慌てて 俺を海岸まで追ってきたらしいが、その時にはすでにもう手遅れだった
でも、その教師がすぐに救急車を呼んだせいで俺は一命を取り留めてしまい、 精神の病気と診断されて病院に送り込まれた
お見舞いにきた担任の教師に「もう来るな、中途半端に救われて迷惑だ」と 吐き捨てて、俺は再び1人になった
学校に戻れるわけなんかない、つまり俺は高校を卒業できない
結局どう転んでも不幸にしかなれない俺は、 今度病院のやつらの目を盗んでもう一度命を断ちにいくつもりだ
だって、生きていたってどうにもならないんだから。
At
心のどこかで、なぜか俺の声がする
At
そう俺に話しかける声は まだ感情があった頃の俺の声と似ているようで、どこかが違った
At
生きていたって、何にもならないだろ
At
誰だよ、そのMzとかいうやつ。
At
お前は何を言っているんだ
そもそも、お前は誰なの?
At
At
意味わかんねえよ、何だそれ。
そう思ったところで、俺の意識はふっと浮上した
はっと俺が目を覚ますと、そこはいつも通りの病室で、 俺がこんなところにいる原因でもある出来事を思い出している間に 眠ってしまっていたらしいということを脳が少し遅れて認識した
At
いつも寝起きはふわふわしていて夢の内容もあまり覚えていないのだが、 今回はものすごく明確にその内容を記憶している
At
夢の中で自分の声が言っていた“Mz”という名前に 俺が妙な引っ掛かりを覚えていると、コンコンとノックの音がして 看護師のKtyさんが入ってきた
Kty
Kty
At
Kty
Kty
At
Kty
Kty
At
Kty
Ktyさんが相槌を打ちながら俺の夕食を持ってきてくれて、 俺はぺこりとお辞儀をする
At
At
Kty
いつもの子に渡すためのラノベを数冊取り出し、Ktyさんに手渡す
と、そこで、Mzのこともダメ元で聞いてみることにした
At
Kty
At
Kty
At
Kty
Kty
At
At
Kty
悪魔のピン留めつけてるよ
Kty
At
Ktyさんから聞いたその子の特徴に、 俺は今日廊下でぶつかったあの男の子の姿を思い出し、 それを思い出した俺の心臓はどく、どくと大きく波打ち始める
頭の中に見覚えのある海岸とそこで座って海水に足を浸し、 笑いながら話しているその子の姿がチラチラとチラついて、 なぜかそわそわして落ち着かない
At
Kty
At
Kty
Kty
何かあったらすぐにナースコールを鳴らすんだよ?
At
Kty
笑顔で俺の病室から出ていくKtyさんを見ながら俺は、 今日すれ違ったあの子と その姿に自分の心臓が妙な反応を示す理由について考えていた