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私の居場所は、 トイレとお風呂の時間だけだった。
家の中に、私の味方なんていない。 親はいつも怒っていた。呆れたような目。 ため息。そして――暴力。 叩かれても、蹴られても、 私は声を出さなかった。出せなかった。
私が笑うと、親はイライラした。 テレビを見て音楽に夢中になってると、 決まって重たい空気が流れた。
“ああ、また怒られるかもしれない” “楽しくなんてしちゃいけなかったんだ”
だから、私は「私」をしまい込んだ。 誰にも、どこにも、本当の私はいなかった。
でもテレビの中の彼らは違った。 きらきらした光のなかで、 音楽に乗せて笑っていた。 画面越しなのに、まるで本当に 「ここから連れ出してあげるよ」って 言ってるみたいに。
……だけど、それでも。 私は限界だった。
その夜、家を抜け出して、ただ歩いた。 星も見えない、静かな真夜中。 道に迷っても、どうでもよかった。 もう全部やめたくて、消えてしまいたくて、 ただ、何も考えずに――
「……どうした?」
不意にかかった声に、私は反射的に振り返った。
そこにいたのは、 ……夢で見たような、テレビで見たままの、 あの人だった。
〇〇
そして、少し遅れて隣に立ったのは――
「……大丈夫?」
〇〇
夢じゃない。 でも、現実とも思えなかった。
私は声も出せず、ただ、 泣きそうになるのを必死でこらえていた。
颯斗は少し困ったように笑って、 上着を脱いで私の肩にかけた。 空人は、静かにそばにしゃがんで、 目線を合わせた。
高尾颯斗
大倉空人
ああ―― この人たちは、テレビの中でも、 目の前でも、ちゃんと「人を救う」んだ。
その夜、私はひとりじゃなくなった。 たった一言の「どうした?」が、 私の世界を変えた