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主
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第115話『名前を呼ぶまでの、わずかな間』
朝から雲が多く、陽射しはあるのにどこか輪郭のぼやけた一日だった。
窓を開けると、湿った空気がゆっくりと部屋に入り込んでくる。
らんは、キッチンでコップに水を注ぎながら、ぼんやりと時計を見た。
まだ九時を少し過ぎたところ。
特別な予定はない。
昨日と同じ。
そのはずなのに、なぜか今日の時間は、ほんの少しだけ掴みにくかった。
らん
氷を落とそうとして、手が止まる。
透明な立方体が、コップの縁でかちりと音を立てた。
らんは、そのまま一拍、動かずにいた。
理由はない。
ただ、一瞬だけ、次にする動作を忘れたみたいに。
らん
そう呟いて、氷を落とす。
水面が揺れて、すぐに元に戻った。
リビングでは、なつがソファに寝転びながらスマホを眺めていた。
いるまとこさめは、作業部屋に篭もりっきりで。
すちはテーブルで何かのメモを書いていて、みことは窓際で伸びをしている。
いつもの光景。
らんはコップを持ったまま、キッチンとリビングの境目に立った。
らん
声が、途中で止まる。
一瞬。
本当に、ほんの一瞬だった。
らん
自然に続いたその呼び方に、誰も反応しない。
なつはスマホから目を離さずに「んー?」とだけ返した。
らん
なつ
なつ
らん
会話は、それで終わった。
らんは、自分の声が少し遅れたことに、かすかな違和感を覚える。
でも、それが何だったのかまでは分からない。
今、間があった?
……いや、気のせいか。
そう判断して、らんはテーブルの椅子に腰を下ろした。
午前中は、特に何事もなく過ぎていった。
すちは洗濯物を回し、なつはゲームをして、みことは何かの動画を見て笑っている。
らんは本を開いていたが、ページをめくる速度はあまり一定じゃなかった。
文字を追っているのに、頭のどこかが別のことを考えている。
それが何かは、自分でも分からない。
みこと
みことの声に、らんは顔を上げる。
みこと
らん
みこと
みこと
らん
らん
みこと
みこと
みことは楽しそうに続ける。
なつ
なつが会話に混ざる。
なつ
なつ
みこと
すち
すちも頷いた。
すち
すち
その言葉が、空気に落ちる。
来年。
誰も強調しない。
ただ、当たり前の未来として、そこに置かれただけ。
らんは、胸の奥で小さく息を詰めた。
嫌じゃない。
むしろ、いいな、と思う。
でも。
――こんなに先の話、してよかったっけ?
そんな考えが浮かんで、すぐに消える。
理由がないから、掴めない。
らん
らんは、そう言って笑った。
その笑顔は、ちゃんと本物だった。
昼前。
キッチンで簡単に昼食の準備をしていると、すちが隣に立った。
すち
らん
らん
また、止まる。
今度は、自分でも分かるくらい、はっきりと。
らん
すちは何も言わずに皿を受け取る。
すち
らん
会話は成立している。
何もおかしくない。
それでも、らんは内心で首を傾げた。
今、なんで止まった?
呼び間違えそうになったわけでもない。
思い出せなかったわけでもない。
ただ、名前が出るまでに、ほんの少し時間がかかった。
らん
自分に言い聞かせるように呟く。
今日は、そういう日なんだろう。
寝不足とか、気圧とか。
理由はいくらでもつけられる。
午後。
食後の片付けを終えたあと、なつが唐突に言った。
なつ
らん
なつ
なつ
みことが興味深そうに聞き返す。
みこと
なつ
すち
すちが頷く。
すち
みこと
みことが笑う。
みこと
みこと
すち
なつ
話は、自然に決まっていく。
未来の予定が、当たり前みたいに積み重なっていく。
らんは、その輪の中にちゃんといる。
相槌を打って、笑って、頷いて。
それでも、胸の奥に、薄い膜みたいなものが張っている感覚があった。
息苦しいほどじゃない。
ただ、少しだけ、空気が重い。
理由は、やっぱり分からない。
夕方。
外に出たついでに、コンビニへ寄ることになった。
らん
自分の口が動きかけて、また止まる。
らん
アイスの棚の前での、何でもない一言。
みこと
みことは受け取りながら、ほんの一瞬だけ、らんの顔を見た。
でも、何も言わない。
言葉にするほどの違和感じゃない。
きっと、そういう類のものだった。
夜。
部屋に戻り、布団に横になる。
電気を消す前、らんは天井を見つめた。
今日一日を思い返してみる。
特別なことは、何もなかった。
楽しかったし、穏やかだったし、嫌なこともない。
それなのに。
名前を呼ぶ前の、あの一拍。
未来の話を聞いたときの、あの息苦しさ。
どれも、言葉にできないほど些細で、気のせいだと言えば、それで終わってしまう程度のもの。
らん
小さく呟いて、目を閉じる。
誰かの名前を呼びかけそうになって、やめた気がした。
でも、その“誰か”が誰なのかは、分からない。
分からないまま、思考は眠りに落ちていく。
第115話・了
主
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𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝♡430
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