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「あっちに行ったぞ!」

「そっちに行ったぞ!」

「大人しく捕まれ!!」

「逃げるな!!」

クジ引きの店主

(誰が大人しく捕まるものか!)

クジ引きの店主

(ここで根性見せないと…)

クジ引きの店主

(一生、上の奴らの顔色を伺って)

クジ引きの店主

(ヘラヘラ笑いながら)

クジ引きの店主

(嫌なことをし続けなきゃいけないんだ)

狼はその姿を立派な龍に変え

建物を壊しながら

たかる妖怪を蹴散らしながら

上昇する。

が、

クジ引きの店主

!!?

その尾に絡みつく

頑丈な白い糸。

手繰り寄せるのは

怒りの表情を浮かべる

緋灯組の女性たち。

クジ引きの店主

離せ!!

しかし、

どんなに身をよじっても

絡みついた糸は解けなかった。

煌緋(こうひ)

その子供を寄越せ!!

クジ引きの店主

くそっ!!

クジ引きの店主

これはオレのだ!!

さらに身をよじった瞬間、

女の子を縛っていた縄が解けた。

クジ引きの店主

え…

クジ引きの店主

なんで…

それは

呪をかけたヒトにしか

解けないはずだった。

ほぼ反射的に伸ばされた短い龍の手が

女の子に触れるよりも先に

白凌が彼女を抱きとめた。

白凌

”みあちゃん、だね?

”みあ”

え…うん…

白凌

しっかり捕まってて

白凌

妹さんのところに

白凌

”のあ”ちゃんの連れて行くから

”みあ”

え…

”みあ”

”のあ”…ここにいるの?

白凌

そうだよ

”みあ”

”のあ”が……

円らな瞳に涙が浮かぶ。

クジ引きの店主

そいつを返せ!!!

龍が真っ赤な火を吐けば、

周りにいる妖怪も巻き込まれる。

白凌

龍に化けて火を吐くなんて

白凌

そうそうできることじゃない…って

白凌

感心してる場合じゃない

白凌

走るよ

白凌

落ちないようにね

”みあ”

うん

女の子─”みあ”はギュッと白凌に抱きつく。

緋灯組の子①

白凌!

煌緋(こうひ)

貴様!!

煌緋(こうひ)

緋灯組を敵に回すか!!

飛んでくる白い糸。

それが白凌に触れると

真っ赤な炎に包まれた。

緋灯組の子①

くっ!

白凌

(真正面から戦って勝てる相手じゃない)

白凌

(平八が刀を持ってくるまで)

白凌

(妖力が保てばいいけど……)

背後から飛んでくる白い糸、

金に目がくらんだ酔っ払いの妖怪たちの攻撃、

龍に化けた妖怪もそこに混ざる。

祭りで賑わっていたはずの都(みやこ)は

白凌と”みあ”を中心に欲望が渦巻く。

反撃に打って出たいとは思うものの、

幼い子供を背負ってのそれは難しく、

結果、逃げるという選択肢しかないのだが、

それだとどうにも妖力の消費が激しい。

白凌

(まずいな…)

白凌

(足が重たくなってきた)

欲に目がくらんだ妖怪たち

足の動きが鈍くなったぞ

欲に目がくらんだ妖怪たち

今だ!やれ!

ここぞとばかりに

妖怪たちが一斉に飛びかかってきた

のだが、

突然雨が降ってきて、

それから

凍てつく様な冷たい風が巻き起こり、

欲に目がくらんだ妖怪たちが

一瞬にして凍りついた。

雨女の雨天奈

なにしとんねん、あんたら

雪女の雪冴

せっかくの祭りが台無しよ

白凌

雨天奈(うてな)さん…

白凌

雪冴(ゆきさえ)さん…

白凌は足を止め、

肩で息をする。

雨女の雨天奈

その子

雨女の雨天奈

ウチらが喧嘩したときに

雨女の雨天奈

結界が歪んでこっちに来たんやろ?

白凌

は、はい

白凌

その話し…

白凌

誰から?

雨女の雨天奈

河童の吉兵衛(きちべえ)

白凌

え……

雪女の雪冴

だから、これは私たちの責任ってこと

雪女の雪冴

ここは私たちがどうにかするから

雪女の雪冴

早く月世見神社に行きなさい

白凌

助かります

煌緋(こうひ)

待て!!

煌緋(こうひ)

行かせるか!

雨女の雨天奈

あんたの相手はウチらや!!

強い妖力がぶつかり合い、

衝撃波が辺りを襲う。

小豆洗いの平八

白凌!

白凌

平八!

小豆洗いの平八

ほれ!刀!!

平八は持っていた刀を投げ渡した。

白凌

助かった!!

後ろで轟く爆音を聞きながら

白凌は神社を目指して再び走り出した。

春太

にゃぁ

春太

凄い音がするにゃ……

春太は月世見(つきよみ)神社の境内から

轟音が響く方向を見つめる。

春太

ちょっと心配になってきたにゃ

”のあ”

……

”のあ”

あ…

春太

どうしたのにゃ?

”のあ”

お姉ちゃん!

振り返ると、

大鳥居の前の橋を渡る

白凌の姿が見えた。

春太

にゃにゃ!!

春太

さすが白凌だにゃ!

嬉しそうに言った春太の目に、

白凌の背後から近づくモノが映った。

春太

白凌!!

春太

後ろにゃ!!

白凌が声を聞いて振り返るのと、

白い糸が”みあ”の足に絡みつくのが

ほぼ同時だった。

白凌

しまった

後ろにいたのは

煌緋だった。

煌緋(こうひ)

ふふっ…

煌緋(こうひ)

残念だったな

煌緋(こうひ)

大人しくその子を渡しな

煌緋(こうひ)

そうすりゃ

煌緋(こうひ)

命だけは助けてやるよ

口調こそ強いものの、

体のあちこちに擦り傷や切り傷があり、

満身創痍なのは火を見るよりも明らかだった。

”のあ”

お姉ちゃん!

”みあ”

”のあ”!!

煌緋(こうひ)

人の子が二人……

煌緋(こうひ)

極上の献上品ね

煌緋(こうひ)

お母様はさぞお喜びになるでしょう

白凌

悪いけど

白凌

そうはさせないよ

白凌はゆっくりと刀を抜く。

煌緋(こうひ)

ふん…

煌緋(こうひ)

単なる呪物のくせに

白凌

そう思って舐めてかかると

白凌

痛い目みるよ?

煌緋(こうひ)

なにを

目にも止まらぬ一閃。

それは”みあ”の足に絡みついていた糸を、

そして、

煌緋の腹部をあっさり切り裂いた。

煌緋(こうひ)

あ゛……

白凌

ね?

白凌

言っただろ?

白凌

痛い目みるよ、って

煌緋(こうひ)

ぐっ……

白凌

手を引くんだ

白凌

次は

白凌

加減しないよ

煌緋(こうひ)

……くっ

煌緋(こうひ)

畜生……

煌緋は歯痒そうに言うと、

踵を返して引き上げていった。

白凌

……ふぅ

春太

お疲れ様だにゃ

白凌

……

白凌は刀を鞘に収める。

白凌

ああ、もう

白凌

お酒が呑みたい…

白凌

浴びるほど呑みたい…

春太

禁断症状が出てきたにゃ

白凌

ヒトを中毒者みたいに言わないでくれるかい?

春太

今の発言は

春太

完全に中毒者のアレにゃ

白凌

そういう春太は

白凌

甘い物、食べたくないのかい?

春太

食べたいにゃ

春太

でも、もう少し我慢にゃ

そう言って春太が視線を向けた先には、

幼い姉妹がしっかりと抱き締め合っている姿だった。

白凌

…そうだね

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