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さて、肝心のチャットの効果だが。

目に見えた実感はあった、確かにあった。

だがそれは一時的なもので、未だに無断転載やトレパクの被害は後を絶たない。

それは第2回、第3回と、チャットが回を重ねても変わらなかった。

私達の安寧(あんねい)は1週間持てばいい方で、しばらくすればまた無断転載やトレパクが発生する。

静かな被害を受ける日々は、変わらなかった。

美鳥

まあ、薄々想像は着いていたよ?

美鳥

自分がこうしたい!っていう気持ちだけで突っ走る奴は、完全に黙らせることは出来ないって

美鳥

そういう奴らを確実にやめさせる方法が無いに等しいってのは……ねえ

ちらと3人の顔を覗き見れば、皆、同じ気持ちらしい。眉間(みけん)に皺(しわ)を寄せて、押し黙ってしまった。

チャットの参加者さん達や、それに影響を受けた人達が、あれだけSNSで注意喚起を頑張ってくれたのに。

私達も頑張って注意喚起して、絵師さん同士の交流をより深めようと努力したのに。

それでも尚、無断転載やトレパクは無くならない。

やるせない気持ちが、私達の手をぎゅっと丸めてしまう。

風香

あたしらが大人だったら、裁判やって解決できたかもしれないけど

風香

現実はまだ高校生だもんなあ

風香

ネットでのケンカすら、うっかり学校に見つかったらどうなる事か……

美鳥

外部に相談したところで、お金が絡んでなければまともに対応してくれなかったしね

月泉

それとなーく先生に相談しても、なあなあにされて終わったっけ

華夜

でもさあ、全く効果がないって訳じゃないじゃん?

華夜

チャットの次の日から1週間くらいは、参加者さん達が頑張ってくれているじゃん?

華夜

自発的に無断転載やトレパクを見つけて、通報していたし、ね

月泉

私達が注意喚起を続けていけば、きっと被害も減っていく

月泉

そうだよね?

美鳥

美鳥

でも、このまま続けてもキリが無いよ

風香

まあね。回を重ねるにつれて、どんどん参加者も減ってきてるし

風香

流石にチャットの拡散力を頼りにしてばかりじゃいられないよ

月泉

飽きられた……っていうより、諦められたんだろうなぁ、これ

月泉

ムカつく話だけどさ

華夜

華夜

でも、止める理由にはならない

華夜

ここで諦めたら、次に何が被害に遭うの?

華夜

わたしのイラストだけじゃなくて、美鳥や風香の文章まで、盗作されるかもしれない

華夜

そうなったら、わたし、今度こそ筆を折っちゃうかもしれないよ

美鳥

それは分かってるよ、分かってるんだよ

美鳥

でも、もうそろそろ限界なんじゃない?

風香

確かに……もう、限界か

風香

あたしももう、なりふり構ってなんかいられない

華夜

風香?

華夜

ねえ、何をするつもりなの?

風香

美鳥

風香?

風香

……んだよ

月泉

へ?なんて?

風香

だから

風香

ハナの絵を1番無断転載しているヤツを、晒し上げるんだよ

晒し。

それは、諸刃の剣。

自分たちの正当性を貫く為に、自らの手を汚す行為だと、ここにいる誰もが知っていた。

美鳥

風香、晒しは待った方がいいよ

美鳥

それでどんなに正しいことを言っていたって、名誉毀損(めいよきそん)になるの

美鳥

最悪、犯罪者になって刑務所に入るかも

美鳥

これくらいの傷を負うリスクがあるの、知らないわけじゃないでしょ?

美鳥

何より、私達あと少しで受験生なんだよ?

美鳥

問題を起こしたら、進路に響くよ

風香

分かってる

風香

風香

あたしな、ハナの絵が好きなんだ

風香

もちろん、描いている途中の真剣な顔も、評価を貰って一喜一憂しているハナ自身もな

風香

その絵を、無許可で盗んだ奴の事は、許せない

月泉

だからって、自分の未来を棒に振るの!?

月泉

誰かを晒して、悪名が広がったらもう、小説どころじゃなくなるんだよ!

月泉

自滅するようなものじゃん!

風香

それでいい

風香

友達が助かるなら本望だ

風香

それに悪名を背負うことにビビって何もしないなら、あたしはきっと一生後悔する

月泉

風香……

風香

ハナの画才も、美鳥の文才も、月泉のコミュ力の高さも

風香

花鳥風月の中じゃ替えがきかない才能だ

風香

だから

華夜

『だからまだ替えがきく自分が犠牲になる』?

華夜

そう続けるつもり?

風香

おいハナ――

華夜

ふざけないでくれる!?

私は驚きよりも早く呆気(あっけ)に取られた。

華夜の怒鳴り声なんて、初めて聞いた。 それだけ我慢ならなかったのだろう。

華夜

わたし達は、4人で花鳥風月なの

華夜

わたし達の誰か1人でも欠けたら、それはもう別物なの、わたし達の花鳥風月じゃなくなるの!

華夜

風香1人が犠牲になって、無断転載やトレパクがなくなっても……

華夜

それで風香がいなくなったら、意味が無い

華夜

風香が居なくなるくらいなら、わたしは無断転載とトレパクを容認する!

風香

はぁっ!?

風香

ハナ、お前っ、これまでの事を無かったことにする気か!?

風香

自分勝手で無知な泥棒達のせいで、イラストどころか、作品への熱意まで奪われたのに!

華夜

そうだよ

華夜

そうしたっていいくらい、わたしにとって風香は大事な仲間なの

華夜

大事な人を失ってまで、夢を追い続けられるほどわたしは強くない

華夜

だから替えがきくなんて言わないでよ!

風香

ハナ……

月泉

風香はちょーっと、自分を卑下しすぎ

月泉

風香1人が犠牲になって、いなくなって……その上で作った物なんて、きっと私達は愛せない

月泉

いや、そもそも物語すら作れなくなるかもね

月泉

ちょっと冷静になろうよ、ね?

美鳥

風香にそんな重荷を背負わせたくないのは、私も同じ

美鳥

だから晒しなんてやめよ?

美鳥

風香が犠牲にならないような方法を、一緒に探そう?

風香

風香

それもそうだね

風香

ごめん、ちょっと焦りすぎたみたいだ

月泉

でも焦る気持ちはわかるよ

月泉

だって私達、もう高2だもの

月泉

あと少しで夏休みがきて、もうあと数か月もすれば受験生

月泉

高校生のうちは、こうしていつでもチャットで繋がれるけど……

月泉

大学生になったら、どうなるか分からないよ

華夜

それまでにやれるだけ、やっておかなきゃ

月泉

でも、無断転載やトレパクを無くす方法なんて、これ以上ある?

美鳥

うーん、もう出せる案は出し尽くしたというか

風香

そんな都合のいいやり方があれば、苦労しないもんな

華夜

もっと注目してもらう方法があればね

美鳥

注目、かあ

美鳥

見てもらうってだけなら、方法はひとつあるんだけど

美鳥

こればっかりは、おすすめ出来ないかも

華夜

え〜!何なに、知りたい知りたい!

美鳥

え、でも

美鳥

華夜の気持ちを無視したアイデアだと思うし……

華夜

それは聞いてから判断するよ!

風香

まあ話してみなって

風香

もしかしたら、結構いいアイデアかもしれないじゃん?

美鳥

じゃあ、遠慮なく話させてもらうね

かくして私は話し出す。

解決するかどうかも分からない、不透明な現状が打破できると信じて……

1週間後。

読者の皆様、お久しぶりです。 日ノ原です。

花鳥風月の活動について、ご報告がございます。

長らく活動を休止しておりましたが、この度、来月1日より活動を再開する運びとなりました。

異能探偵団の更新も、休止前同様、進めてまいります。お待たせして申し訳ございませんでした。

今後とも私達 花鳥風月をよろしくお願いいたします。

月泉

はい、これで活動再開報告は終わりっと

月泉

でも本当に活動再開なんて言っていいの?

美鳥

いいのいいの

美鳥

そうしないと始まらないんだから

美鳥

美鳥

それより皆、これまでの異能探偵団の話のおさらい、終わった?

風香

あたしは昨日の時点で終わってたりするんだな、これが

美鳥

まさか、休止中も読み返していたの?

風香

もちろん!

風香

あたし達がめっちゃくちゃ考えて作った、最高に面白い話なんだよ?

風香

いくら読み返しても飽きないね

風香

で?月泉とハナは読み終わったのかい?

月泉

とっくに終わってるよ

月泉

毎週読み返してたのは、風香だけじゃないんだな〜これがさ

華夜

へへ、わたしも〜

美鳥

なぁんだ、皆同じだったの

美鳥

じゃあ次の話の展開決め、始めちゃおうか!

風香

おうとも!

美鳥

それにしても、まさか皆乗ってくれるとは思わなかったなあ……

月泉

ん?なんか言った?

美鳥

いいや、なんにも

思わずそんな言葉が出てきてしまうほど、私の考えというものは心無いものであった。

今書いている小説に、私達が受けた無断転載やトレパクなどの『泥棒』による被害をネタにした話を追加する。

はっきり言って、これは直接的な被害を受けた華夜の事を、間接的に傷つけかねない行為だ。分かっていたからこそ、言い出せずにいた。

しかし華夜は「それでもいいよ」と言ってくれたのだ。それどころか「向こうの世界で泥棒達がやり込められればスカッとする」と容認してくれた。

やはり自分の作品を盗んだ泥棒達に、何かしら一矢報いたいのだろう。

風香

とはいえ、受けた被害を作品に落とし込むって言ってもなあ

風香

作品を盗まれたって、ハナの現状をまんま書くのが、伝えたいことはダイレクトに伝わっていいんだろうけど

風香

これまでの話が話だけに、インパクトに欠けるな……なんて思ったり

月泉

そうなんだよねえ

月泉

爆弾が仕掛けられた、とか、異能で夢世界に監禁された……って話の後に泥棒の話はね

月泉

華夜と私達がどれだけダメージを受けて、どれだけ時間を費やしたかは素直に描写できるけど

月泉

どうにかして、作品の世界の雰囲気に合わせて、泥棒達を当て擦るか……

月泉

そこが肝心だよね

美鳥

美鳥

誘拐犯、とかは

美鳥

そう

月泉

誘拐?

美鳥

私達にとって作品って、子供みたいなものじゃない?

美鳥

どの作品も頭を痛めつつも作ってるし

美鳥

異能であちこちの家庭から子供をさらう、極悪非道な泥棒達に立ち向かう……

美鳥

それなら前章に比べて見劣りしないと思うし、泥棒行為の悪辣(あくらつ)さが際立つんじゃないかな!

華夜

いい!それ!

月泉

確かにそれならインパクトは充分!

月泉

じゃあ、この路線で作っていこうか!

風香

よっし!ならまずは、悪役と黒幕の繋がりを決めて――

狭い部屋の中で、顔を突き合わせて始まる、創作物のチェック作業。

変わらずやってきた光景が、 今やっと帰ってきた。

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