コンテスト受賞作品集

僕は恋している

昔も今も未来もずっと 彼女が好きだ

嫌な部分しかない僕を彼女は好きだと言ってくれた

だから今は少しだけ自分のことも好きだ

嫌なことしかない世界が、僕に恋を教えてくれた

だからもう少しだけこの世界で生きよう

彼女が笑ってくれる間は 何も辛いことはない

彼女に恋している、それだけで僕は幸せだから

彼女が笑っている

だから僕も笑う

可愛くて優しい、僕とは住む世界が違う彼女が

ネクラで卑屈な僕に優しくしてくれた

僕に罵声ではなく優しい言葉を投げかけた

親からも疎(うと)ましく思われていた僕に、価値を見出だしてくれた

だから、彼女が好き

彼女が僕の目に映る間は

まだ生きようと思う

僕は恋している

あれは夏の日のことだった

僕の愛してやまない彼女は

儚く散った

彼女は日記をつけていた

1字１句僕の頭に入っている

「6月〇日 夏休みに海に行く約束をした。今から楽しみ」

「7月〇日 嶋田先輩に告白された。断るのが大変だった。嶋田先輩はイケメンだけど、私には彼がいるから…」

「7月〇日 最近利奈ちゃんに避けられてる…」

「7月〇日 私の鞄がトイレに捨てられてた。最近嫌がらせされてる。相変わらず利奈ちゃんは口を聞いてくれない」

「8月〇日 明日利奈ちゃんに呼び出された。なんで人気(ひとけ)のないA倉庫前なんだろう…？ やっと利奈ちゃんと仲直りできる！嬉しい」

日記はそれで終わりだった

最後の日記の日付から１週間後 A倉庫から女性の死体が発見された

外から鍵を掛けられたA倉庫 「たまたま」利奈が持っていた彼女のスマホ

僕の愛してやまない彼女は、蒸し風呂のような倉庫内に助けも呼べず１週間も閉じ込められた

僕の愛してやまない彼女は、

殺された

そう叫んで振り向く

数メートル先の物陰に潜んでいた水原に歩み寄り手首を掴む

水原はニヤニヤ笑いながら、私の後ろを指差す

気がつけば側にあった消火器で水原を殴りつけていた

飛び散る血しぶきも目に入らず、罵り続ける

もうそうやって笑い続けてないと

目の前にいるアイツが怖くておかしくなりそう

なんでお前がいるのよ 死んだはずでしょ

そんな目で私を見るな

私は走った

クラクション

衝撃

浮遊感

激痛

ブラックアウト

利奈が車に跳ねられていた

僕にはわかる

彼女だ

ああやっぱり僕たちは 赤い糸で結ばれていたのだ

愛は偉大だ