幸いなことに、体育用具室は外玄関があり、マットを外に運び出すのは容易だった。
イシカワ
それで、どうやったら校長先生は助かったんだ?

キョウトウ
それより、こんなことをして【革命軍】から何かを言われないだろうか。

キョウトウ
彼らが逆上したりしたら――。

イガラシ
【革命軍】は生徒への介入を禁じただけで、それ以外の行為は禁じていません。

イガラシ
俺達はただ、マットを外に運び出して並べるだけですから。

イシカワ
――まぁ、何も言ってこないから、容認はされているんだろうな。

イシカワ
あいつらは俺達の動きをテレビ中継で確認しているだろうし。

学校を取り囲むように集まった警察とマスコミ関係者。
指示が出たのかどうか知らないが、少しばかり警察の数が減ったように思えた。
キョウトウ
――この様子なら、私達だけでも逃げることが可能なんじゃないか?

イガラシ
可能なんでしょうが、駄目ですよ。そんなことをしたら。

イガラシ
生徒達を置いて、俺達だけ逃げ出した――なんてなったら、後から大問題になりますよ。

イガラシ
それこそ【革命軍】を逆上させるような気がしますけど。

警察とマスコミ関係者達は、一定の距離を置いたままだ。
まるで目に見えない壁が、外と校内に存在しているような気がして不思議な感じだった。
校内放送
では3年1組、回答を。

イガラシ達のことを無視するかのごとく、淡々と回答が進められる。
その間、体育用具室から引っ張り出したマットを、おおよそで校長が落下するであろう地点に重ねていく。
ふと校長と目があったイガラシは、ただただ深く頷いた。
イシカワ
で、さっきの話の続きだけど。

イガラシ
――何もしない。

イガラシ
これが校長を助ける方法だったんだよ。

キョウトウ
何もしない?

キョウトウ
そんなことをしたら、校長が屋上から飛び降りることになってしまうじゃないか。

イガラシ
えぇ、そうです。

イガラシ
ただし、10本のロープを腰に巻きつけたままです。

イガラシ
10本もロープがあれば、校長の体重も支えられるはず。

イガラシ
屋上から飛び降りる必要はあるけど、落下することは防げる――ってわけです。

イシカワ
確か、各クラスの持ち時間はそれぞれ5分で、持ち時間をオーバーすると、回答の権利がなくなるはず。

イガラシ
そう、それを繰り返して3年3組まで回答しないという手段を取れば、かなりの確率で校長は助かったはずなんだ。

キョウトウ
――だから君は、1年1組の教室に飛び込んだ時、回答しないように指示したんだな?

イガラシ
えぇ。

イガラシ
ですが、もうロープの残り本数は4本しかない。

イガラシ
このままいけば、校長はたった1本のロープを頼りに飛び降りなければならなくなる。

イシカワ
だから、マットを敷いてやるのか。

イガラシ
あぁ、うまくいってくれればいいけど。

校内放送
3年1組の回答は――【10】か。

校内放送
残念ながら、それも外れだ。

イガラシの推測が正しければ、おそらく当たりは出ないだろう。
イシカワ
それにしても、当たりがそもそも出ないなんてこと、よく思いついたな。

イガラシ
これに似たことをやられたことがあってね。

校内放送
それでは、次は3年2組だな。

イガラシ
とにかく、俺達にできることはやった。

イガラシ
後は見届けることしかできないな。
