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みさこ
目を覚ますと、辺りはもう真っ暗になっていた。
みさこ
ベッドサイドに置いていたままのスマホに視線をやる。
一応、着信やメールなどを確認してみるが、何も残されてはいない。
みさこ
ふと、もしかしたら全てが夢なのかと思った。
しかし、自分が制服姿のまま寝てしまっていたことや、メールのやり取りの履歴を遡ってみるに、どうやら夢でもなんでもないらしい。
みさこ
ふと、不安になって玄関まで確認に向かう。
鍵はもちろんしっかりかかっているし、ドアガードもかかっている。
みさこ
みさこ
みさこ
自分に言い聞かせるが、引っかかる点も残っている。
家に帰って来た際、鍵が開いていたのは何故なのか。
単純に母親がかけ忘れたと考えるべきなのだろうか。
みさこ
美佐子はキッチンの冷蔵庫を開けてみる。
みさこ
冷蔵庫の中は空に等しかった。せいぜい、牛乳とバターが入っている程度。
普段から食費を節約するために、消費期限が近づいて半額になったものなどを狙って買ってくるがゆえに、そこまで冷蔵庫にものが入っていることはない。
みさこ
炊飯器には、そもそも電源すら入っていなかった。
みさこ
たまたま冷蔵庫に牛乳とバターがあるし、パンは棚の中に買い置きがある。
どれだけお金がなくと、棚の中にはパンが買い置きされている。
みさこ
トースターでパンを焼いている間、ふと美佐子は思い出す。
何気なかった、あの頃のことを。
みさこ
咳き込む日向の足元には、少しだけかじったパン。
ムカデは日向の頬をカサカサと駆けた後、ぽとりと落ちてどこかに行ってしまった。
えみり
ふっと、瑠奈のほうを見ると、冷たい視線で地面に落ちたパンを見つめていた。
みさこ
みさこ
みさこ
美佐子は地面のパンに手を伸ばすと、あえて地面にパンを擦り付け、砂の混じったパンを差し出す。
るな
るな
みさこ
みさこ
みさこ
砂に塗れたパンを日向の口元に押し付けると、涙を流しながら観念したようにパンに口につける日向。
噛む度に、しゃりしゃりと砂を噛む音が聞こえた。
るな
るな
えみり
るな
るな
るな
瑠奈はスマホを取り出し、実に楽しそうにそれを撮影する。
るな
その姿を見て、美佐子はゾッとする。
あぁ、良かったな――とも思う。
自分が日向のポジションにいなくて、本当に良かった。
そして、今のポジションにいる限り、自分が日向のポジションに落ちることはない。
みさこ
そう、このポジションにいる限り。
トーストからパンが飛び出す音で我にかえった。
みさこ
全ては自分が招いたこと。
しかし、そんな自覚さえない美佐子は、他責を続けるばかり。
冷蔵庫から牛乳を取り出してグラスに注ぐ。
皿にパンを乗せ、バターを塗ると、それを手にテーブルへと向かった。
みさこ
みさこ
自分に言い聞かせながら簡単な食事を終えると、シャワーを浴びるべく風呂場へと向かおうとする。
その際、嫌な咳がひとつ出た。
それは、何度も美佐子が経験して来た兆候。
小さい頃から、今日にいたるまで、何度も経験してきたもの。
みさこ
何気なくひとつ出た咳が、続いて連続的に出る。
喉の奥がぎゅうっと締め付けられるような感覚。
みさこ
みさこ
そこで美佐子はあることに気づき、慌ててパンが保管してある棚へと走る。
みさこ
みさこ
ふっと、家に帰って来た際、鍵が開いていたことを思い出す。
みさこ
みさこ
なぜ、そんなことをしているのかは説明するまでもない。
美佐子が重度の小麦アレルギーだからだ。
みさこ
しかし、慌てる必要はない。
このような時に備えて、エピペンを用意してある。
アナフィラキシーショック……いわゆる、重大なアレルギー反応が出てしまった際、それを抑える自己注射薬。
みさこ
みさこ
気道がアレルギーのせいで狭くなり、呼吸をする度に妙な音がする。
普段は無意識に行っている呼吸であるが、意思的に呼吸をしないと、うっかり止まってしまいそうだ。
みさこ
そこで美佐子は絶望する。
荷物は火事から逃げるために、置いて来てしまった。
みさこ
みさこ
みさこ
みさこ
全ては……パンへと誘導するためだった。
みさこ
スマホに手を伸ばそうとするが、目の前がかすみ、そして足がもつれて無様に転ぶ。
呼吸のひとつひとつが重い。
もう、これ以上は――もたない。
咳が再現なく出続けて呼吸ができない。
電気すらついていない暗い部屋の中。
咳き込む音がぴたりと止まると、そこにはただ静寂が訪れたのであった。
同時刻。
ひなた
瑠奈の家の様子を遠目から確認しつつ、日向はぽつりと呟いた。
ひなた
ひなた
日向は刀に手をかけると、本丸である瑠奈の家を眺める。
ひなた
ひなた
ひなた
仇討ち解禁令――最上日向、第5号執行者。
内山美佐子