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夏の朝は、いつもより蝉の声が騒がしかった。

志保は胸の奥が落ち着かず、夜明けと同時に神社へと向かった。

今日が、優希の手術の日だと知っていたから。

赤い鳥居の前に座り込み、じっと参道を見つめる。

通り過ぎる人々の足音に耳をそばだて、そのたびに心が揺れる。

けれど、待ち人の姿は現れない。

若林 志保(猫の姿)

(大丈夫。終わったら、きっとまたここに来るはず……)

信じるしかなかった。

志保は小さな前足を合わせるように胸の前で祈り、ただ祈った。

猫の声では神様に届かないかもしれない。

それでも、必死に願った。

若林 志保(猫の姿)

(どうか……どうか優希の手術が、無事に終わりますように)

太陽が高く昇り、やがて沈み始めても、優希は現れなかった。

石畳は夜の気配に冷えはじめ、境内はひっそりと静まり返る。

そのとき、神社の下を通る人々の小さな声が耳に届いた。

 ︎︎

……手術、失敗したらしい

 ︎︎

まだ若いのに、可哀想に

志保の世界が、一瞬で崩れ落ちた。

若林 志保(猫の姿)

(……嘘。そんなの、嘘だよね?)

体が震え、尻尾がかたくなる。

耳をふさぎたいのに、猫の耳は敏感にその言葉を拾ってしまう。

若林 志保(猫の姿)

にゃあ……

小さな声が漏れた。

それは悲鳴にも似ていた。

夜が更けても、志保は鳥居の前を動かなかった。

信じたくなかった。

認めたくなかった。

若林 志保(猫の姿)

(だって、私は猫になった。猫になってでも、優希と出会えた。だから、きっとまた会えるはず……)

そう思いながら、志保は鳥居の下で目を閉じた。

優希の笑顔を思い浮かべる。

あの手の温もりを、思い出す。

──でも、もう二度とその姿は戻らない。

それでも。

若林 志保(猫の姿)

(……猫になった私は、鳥居の前で君を待つ)

その祈りにも似た言葉は、誰にも届かず、夜の空気に溶けていった。

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