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𝐆𝐞𝐚𝐭𝐬 IX
夏祭りが終わった帰り道。 屋台の灯りは少しずつ消えていき、 遠くで聞こえていた 太鼓の音も静かになっていた。 夜風が涼しくて、さっきまでの賑やかさが嘘みたいだった。
浅薙星奈(あさなぎせな)
隣を歩くナギさんは、小さく笑った。
ナギさん
少しだけ元気な声が戻る。 けれど、その笑い声の奥に疲れが混じっているのを、ナギさんは気づいていた。
歩く速度が、ほんの少し遅い。 ハルトさんも後ろから静かに見ている。
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
その言葉に、星奈ちゃんは一瞬だけ目を逸らした。 本当は少しだけ苦しかった。 人混み。 熱気。 ずっと立っていた疲労。 吐血と激痛。 それでも――今日だけは皆と笑いたかった。
浅薙星奈(あさなぎせな)
そう答えた瞬間。 ふらっ――
ナギさん
体が傾く前に、ナギさんが支える。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
ナギさんの声は珍しく強かった。そして、ハルトさんは静かにしゃがみ込み、星奈ちゃんの顔を見る。
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
遠くで花火の最後の一発が上がる。 夜空に広がった光が、 ゆっくり消えていった。 ナギさんは小さくため息をつく。
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
額に触れたハルトさんの 手がぴくりと止まる。 熱い。 しかも呼吸も浅い。 夏祭りではしゃぎすぎた疲れと、まだ完全には治っていない身体への負担。 ハルトさんは一瞬でそれを察した。
ナギさん
ハルトさん
浅薙晃誠
浅薙星奈(あさなぎせな)
答えようとして、またふらつく。 その瞬間だった。
浅薙星奈(あさなぎせな)
気づけば星奈ちゃんは、ハルトさんにお姫様抱っこされていた。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
さらっと言いながら、ハルトさんはしっかり抱き直す。 祭り帰りの人たちが少し驚いたように振り返るけれど、 ハルトさんは気にもしていない。 星奈ちゃんだけが顔を真っ赤にしていた。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
星奈ちゃんは観念したように、そっとハルトさんの胸元に額を預けた。 ドクン、ドクン、と落ち着いた心音が聞こえる。 不思議と安心してしまう音だった。
浅薙星奈(あさなぎせな)
するとハルトさんは少しだけ歩く速度を落として、
ハルトさん
ハルトさん
その言葉に、星奈ちゃんは目を丸くする。 夜風が優しく吹き抜ける。 遠くで最後の花火が一発だけ上がった。 その光が、二人を淡く照らした。 星奈ちゃんは少しだけ笑って、小さく呟く。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
車へ向かう途中。 ハルトさんに抱きかかえられたままの星奈ちゃんは、最初は安心したように目を閉じていた。 けれど——
浅薙星奈(あさなぎせな)
急に呼吸が乱れ始める。 胸が上下し、肩が小さく震える。 ハルトさんの表情が一瞬で変わった。
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
全然、大丈夫じゃない。 息が浅い。 苦しそうに空気を吸おうとしているのに、うまく吸えていない。 ハルトさんはすぐ足を止め、人通りの少ない神社横のベンチへ向かった。
ハルトさん
そっと星奈ちゃんを座らせると、ハルトさんはしゃがみ込み、顔を覗き込む。
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
星奈ちゃんは 焦ったように呼吸を繰り返す。 苦しい。 ちゃんと吸えてるはずなのに、足りない。 夏祭りではしゃぎすぎた疲労。 人混み。 熱気。 そして無理して笑っていた反動。 全部が一気に来ていた。 ハルトさんは少し考えると、自分の羽織を肩に掛けてやる。
ハルトさん
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
何度か繰り返すうちに、少しずつ呼吸が落ち着き始める。 けれどその代わり、身体から力が抜けた。 星奈ちゃんは ふらりと前に倒れそうになる。
ハルトさん
ハルトさんがすぐ支える。 そのまま額がハルトさんの肩にこつんと当たった。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
ハルトさんは小さくため息をつきながら、そっと星奈ちゃんの頭を撫でる。 その手つきは不器用なのに、驚くほど優しかった。
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
ハルトさんは星奈ちゃんを もう一度抱き上げる。 今度はさっきよりずっと慎重に。
ハルトさん
星奈ちゃんは抵抗する力もなく、 小さく頷いた。
呼吸は少し落ち着いたけれど、まだ身体が熱い。 力も入りづらい。 ハルトさんはその様子を見て、 少し眉を寄せた。
ハルトさん
星奈ちゃんは悔しそうに俯く。 夏祭り、楽しかった。 だから無理してでも最後まで 笑っていたかった。 それを全部見抜かれていたのが、 少し恥ずかしかった。
夜の駐車場は、祭りの賑やかさが嘘みたいに静かだった。 遠くからまだ微かに祭囃子が聞こえる。 提灯の明かりも小さく揺れていた。 ハルトさんは星奈ちゃんを抱きかかえたまま、ゆっくり車へ向かう。
浅薙晃誠
三途川メグリ
ナナセさん
ハルトさん
ハルトさん
ナギさん
後部座席へそっと星奈ちゃんを乗せる。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
ハルトさんはそれ以上何も言わず、シートベルトを付けてやると頭を軽く撫でた。
ハルトさん
ドアが閉まる。 助手席へ回る足音。 エンジンが静かにかかった。 車がゆっくり走り出す頃には、星奈ちゃんは安心したみたいに目を細めていた。
車の中は静かだった。 窓の外を流れる街灯の光が、一定のリズムで車内を照らしていく。 ナギさんは、何度もバックミラー を見ていた。 後部座席の星奈ちゃんは、ぐったりしたままシートに寄りかかっている。
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
声に力がない。 呼吸もまだ少し熱っぽい。 ナギさんは眉を寄せたまま、 少しだけスピードを上げた。 ——数十分後。
家へ着くと、ハルトさんはすぐ車を降りる。 後部座席のドアを開けた瞬間、星奈ちゃんの身体がふらりと傾いた。
ハルトさん
間に合った。 ハルトさんが支えなければ、そのまま倒れていた。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
少し困ったように言いながら、ハルトさんはまた星奈ちゃんを抱き上げる。 お姫様抱っこされたまま家へ入ると、リビングの灯りがついていた。
ソファに座っていたユウマくんとミレイさんが顔を上げる。
黒神ミレイ
ユウマくん
その瞬間、空気が変わった。 ハルトさんの腕の中で、星奈ちゃんの顔色がかなり悪いことに気づいたからだ。
ハルトさん
ユウマくん
ハルトさん
ハルトさんは そのまま星奈ちゃんの部屋へ向かう。 ベッドへそっと下ろした瞬間、星奈ちゃんは安心したように力を抜いた。
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
夏祭りが楽しかったから。 みんなと笑っている 時間が幸せだったから。 終わってほしくなかった。 その気持ちが、 弱った今になって零れてしまった。 ハルトさんは少しだけ黙る。 それから、ベッドの横に腰を下ろした。
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
ぶっきらぼうな言い方。 でもその声は、どこか優しかった。 すると星奈ちゃんは小さく笑う。
その直後。 安心した反動なのか、 ふっと意識が沈みかける。 ハルトさんは慌てて肩を支えた。
ハルトさん
かすかに笑って、 星奈ちゃんは目を閉じる。 その寝顔を見ながら、 ハルトさんは長く息を吐いた。
ハルトさん
部屋の扉がこんこん、と 小さくノックされる。 ハルトさんが振り向くと、 少しだけ扉が開いて、 そこからユウマくんが顔を覗かせた。
ユウマくん
ハルトさん
ユウマくんは両手でコップを大事そうに持ちながら部屋へ入ってくる。 氷の入った冷たい水だった。
ユウマくん
ハルトさん
ユウマくん
ハルトさん
ユウマくん
ユウマくんは 少し安心したように息を吐く。 でも完全には安心できていない顔だった。 星奈ちゃんはうっすら目を開ける。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ユウマくん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ユウマくん
ハルトさんが身体を起こして支えると、ユウマくんは慌ててコップを渡す。 星奈ちゃんは両手で持とうとするけれど、力が入りきらない。 するとユウマくんが、
ユウマくん
と言いながら、そっと下から支えた。
ユウマくん
星奈ちゃんは少しだけ水を飲む。 冷たい水が喉を通ると、少しだけ呼吸が楽になった。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ユウマくん
浅薙星奈(あさなぎせな)
小さく笑う星奈ちゃんを見て、 ユウマくんも少し安心 したように笑った。
その時。 リビングからナギさんの声が飛んでくる。
ナギさん
ユウマくん
返事をしながら、ユウマくんはぱたぱたと部屋を出ていく。 その背中を見送りながら、ハルトさんは小さく呟いた。
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
完全にパニック。 ハルトさんは腹を抱えて笑い始める。
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ちょうどその時。
ユウマくん
遠くからユウマくんが走ってくる。 ハルトさんは立ち上がりながら、ニヤニヤしたまま小声で言った。
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
真っ赤になっている星奈ちゃんを見て、 ユウマくんは不思議そうに首を傾げる。
ユウマくん
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
さっきまでいたハルトさんとの会話を思い出しながら、星奈ちゃんは布団の中でぼんやり天井を見つめていた。
『……無理すんなよ』
最後にそう言って、軽く頭を撫でて部屋を出ていったハルトさん。 あの人なりに、かなり心配していたのが分かった。 でも――。
浅薙星奈(あさなぎせな)
小さく呟く。 胸の奥が重かった。 能力のこと。 副作用のこと。 みんなに隠してる痛みや吐血したこと。 考えれば考えるほど眠れなくなる。 その時――。
コン、コン。 控えめなノック音。 低く落ち着いた声。
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
扉が少しだけ開き、ナギさんが顔を覗かせた。
ナギさん
ナギさんは苦笑しながら部屋へ 入ってくる。 そしてベッドの横の椅子に 静かに腰掛けた。
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
即答だった。 星奈ちゃんが思わずむっとすると、ナギさんは珍しく少しだけ優しい顔をした。
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
静かな沈黙。 でも嫌な空気じゃない。 むしろ、安心する沈黙だった。 ナギさんはしばらく黙ったあと、ぽつりと言った。
ナギさん
その言葉に、星奈ちゃんの指先がぴくりと動く。 図星だった。 完全解放の代償。 また倒れるかもしれない恐怖。 みんなを巻き込むかもしれない不安。 全部、怖かった。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
ナギさんは否定しない。 無理に励ましもしない。 だから逆に、少しだけ涙が出そうになった。 ナギさんが静かに続ける。
ナギさん
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
ふっと二人で笑う。 その瞬間だけ、胸の重さが少し軽くなった。 ナギさんは立ち上がると、部屋の電気を少し暗くした。
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
その言葉だけ残して、 静かに部屋を出ていった。 部屋に静寂が戻る。 けれど、さっきまでの 冷たい静けさじゃなかった。 星奈ちゃんは 布団をぎゅっと握りしめながら、 小さく目を閉じた。
浅薙星奈(あさなぎせな)
部屋が静かになってから、 どれくらい経っただろう。 星奈ちゃんは薄く目を閉じたまま、 呼吸を整えようとしていた。 でも――胸の奥が嫌に熱い。
浅薙星奈(あさなぎせな)
起き上がろうとした瞬間、視界がぐらりと揺れる。 咄嗟に口元を押さえた。 次の瞬間――。
浅薙星奈(あさなぎせな)
手の隙間から赤が滲む。 ぽた、と布団に落ちた血が暗く広がった。 呼吸が浅くなる。 隠さなきゃ。 そう思うのに、身体に力が入らない。 再び激しく咳き込み、今度ははっきりと血を吐いた。 その時。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ガチャッ!!
ナギさんだった。 部屋の異変に気付いて戻ってきたのか、その表情が一瞬で凍りつく。
ナギさん
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
珍しく声を荒げた。 ナギさんはすぐに星奈ちゃんの肩を支え、呼吸を確認する。 布団についた血を見た瞬間、空気が変わった。
ナギさん
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
静かな声だった。 でも、その一言が胸に刺さる。 ナギさんはそっと 星奈ちゃんの背中を支えながら、 落ち着かせるように呼吸を合わせる。
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
その時、廊下から 慌ただしい足音が近付いてきた。
ハルトさん
ハルトさんの声。 どうやらナギさんがすぐ連絡したらしい。 扉が開いた瞬間、ハルトさんは血を見て顔色を変えた。
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
ハルトさん
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
ハルトさん
ハルトさん
誤魔化せない。 二人とも、戦場で 何度も何度も、 限界の人間を見てきた。 だから分かってしまう。 ナギさんがもう一度聞く。
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
ハルトさん
星奈ちゃんは答えられない。 それが答えだった。 ハルトさんが額を押さえる。
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
でも、怖かった。 知らない間にここまで壊れていたことが。 自分達が気付けなかったことが。 ハルトさんは乱暴に髪をかき上げると、震える声で言った。
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさんとハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
少しだけ強く返すと、 ハルトさんはようやく 小さく息を吐いた。 けれどその目は、まだ全然 安心していなかった。
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
ナギさん
ナギさん
ナギさん
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
しばらくして。 星奈ちゃんの呼吸が、少しずつ落ち着いていく。 さっきまで苦しそうだった肩の震えも止まり、布団を握っていた手から力が抜けていった。
ナギさん
ナギさんが小声で呟く。 ハルトさんがそっと顔を覗き込む。
ハルトさん
その穏やかな寝息を聞きながら――。 今夜だけは、絶対にこの子を一人にしないと静かに決めていた。
お昼。 珍しく仕事の連絡も入らず、 ナギさんとハルトさんが車を出しながらながら振り返った。
ハルトさん
助手席ではハルトさんが 缶コーヒーを片手に笑う。
ハルトさん
連れてこられたのは、海沿いの小さな展望公園だった。 静かな波の音と、綺麗な青空。観光客も少なく、風だけがゆっくり吹いている。
浅薙星奈(あさなぎせな)
思わず漏れた声に、 ナギさんが少しだけ目を細めた。
ナギさん
ハルトさんはベンチに どかっと座りながら、
ハルトさん
ナギさん
そんな何気ないやり取りに、 自然と笑みがこぼれる。 しばらく三人で海を眺めていた時だった。
——ガサッ。
背後の植え込みから、 何かが動く音。 ナギさんの視線が鋭く変わる。
ナギさん
次の瞬間。 黒いフードを被った人物が 飛び出してきた。
浅薙星奈(あさなぎせな)
視界が揺れた。 遅れて激痛が走る。 刺された。 服の下から熱い血が一気に溢れていく。
ハルトさん
ハルトさんの怒鳴り声。 ナギさんが一瞬で犯人の腕を掴み、 地面に叩き伏せる。
低い声。 いつものナギさんじゃない。 完全に怒っていた。 犯人は何も言わない。 振り払って逃走する。 ハルトさんはすぐにしゃがみ込み、傷口を押さえた。
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
ナギさんがすぐ救急へ連絡しながら、自分の上着を脱いで傷口へ押し当てる。
ナギさん
でもその声も、どこか焦っていた。 普段冷静なナギさんの額に、 はっきり汗が浮いている。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
ハルトさん
その声が遠くなっていく。 海の音だけが、妙に静かに聞こえていた。
救急車のサイレンが近づく中—— ナギさんが押さえる傷口から、 血が止まらない。 ハルトさんは震える声を抑えながら、
ハルトさん
その時だった。
逃げたはずの犯人が、 もう一度来て立ち止まる。 フードが風で揺れ、顔が見えた。
ハルトさんが目を見開く。 ナギさんも言葉を失った。
ナギさんとハルトさん
そこにいたのは——
ナギさんとハルトさん
ナギさん
佐竹
ハルトさん
佐竹
佐竹
佐竹
佐竹
佐竹
佐竹
ハルトさん
包丁でまた刺そうとする。
ナギさん
佐竹
ハルトさんの手が震えていた。 普段なら絶対に見せないくらい、 顔色が真っ白だった。
遠くで救急車のサイレンが聞こえてくる。 ハルトさんが叫ぶ。
ハルトさん
その声にナギさんの表情が変わった。 けれど佐竹さんを押さえる手は緩めない。
そして救急隊員たちが公園へ駆け込んできた時、佐竹さんは笑っていた――。
赤いランプの光が、公園の地面を何度も照らした。 ――救急車が到着する。
ナギさん
救急隊員たちがストレッチャーを押しながら駆け寄ってくる。 ハルトさんは血だらけの手のまま叫んだ。
ハルトさん
救急隊員
救急隊員がすぐに星奈ちゃんの 状態を確認する。
救急隊員
酸素マスクが付けられ、 止血処置が始まる。 星奈ちゃんは薄く目を開けた。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
ハルトさんの声が震える。 普段なら絶対に見せないような 焦った顔だった。 一方――。 少し離れた場所では、ナギさんが佐竹さんを座らせていた。 佐竹さんは笑ったまま、自分の手を見つめている。
佐竹
ナギさん
ナギさん
警察官が近づく。
警察官
その時。 救急隊員の声。
救急隊員
救急隊員
ナギさんは一瞬だけ佐竹さんを見る。 そして静かに立ち上がった。
ナギさん
警察官へ短くそう言うと、 ナギさんは救急車へ走る。 後部ドアが開いたまま、星奈ちゃんの処置が続いていた。 心電図の電子音が夜の空気を切り裂く。 ハルトさんが星奈ちゃんの手を握ったまま顔を上げる。
ハルトさん
ナギさん
ハルトさん
ナギさん
ハルトさん
ハルトさんは息を整えながら乗り込んだ。
ハルトさん
ナギさんはスマホを握り締めていた。 何度か呼吸を整えてから、連絡先を押す。 ――メグリさん。 数秒後。
そう言った声は落ち着いていたけれど。 握り締めた拳だけが、震えていた。
三途川メグリ
いつもの声だった。 その瞬間、ナギさんの喉が少し詰まる。
ナギさん
三途川メグリ
後ろでは救急隊員の声が飛び交っている。
救急隊員
その音で、メグリさんの声色が変わった。
三途川メグリ
ナギさんは一瞬目を閉じる。 そして静かに言った。
ナギさん
三途川メグリ
三途川メグリ
ナギさん
電話の向こうで何かが落ちる音がした。
三途川メグリ
ナギさん
ナナセさん
ナギさん
三途川メグリ
ナギさん
ナナセさん
ナギさんは病院名を伝える。 すると向こうで 慌ただしく準備する音が聞こえた。
三途川メグリ
ナナセさん
ナギさんは星奈ちゃんを見る。 酸素マスクの奥で、 呼吸が弱々しく上下していた。 ハルトさんはその手を離さない。 ナギさんは小さく答えた。
ナギさん
ナギさん
ハルトさん
「ウー」
「ピーポーピーポー」
救急車のサイレンが街に響く中、ストレッチャーが慌ただしく 処置室へ運び込まれる。 白い照明がまぶしくて、消毒液の匂いが鼻を刺した。
看護師
看護師の声に、ハルトさんが立ち止まる。 けれど視線はずっと星奈ちゃんから離れなかった。
ナギさん
ハルトさん
呼びかけても返事はない。 ハルトさんのシャツには、まだ乾ききっていない血がついていた。 メグリさんは唇を強く噛みしめながら、
三途川メグリ
と震える声を漏らす。 ナナセさんは気丈に振る舞おうとしていたけれど、指先は小刻みに震えていた。 その時。
処置室の奥から医師たちの声が飛ぶ。
医者
看護師
その緊迫した声に、 空気が一気に重くなる。
その緊迫した声に、 空気が一気に重くなる。 ハルトさんは壁に拳をついた。
ハルトさん
ナギさん
ナギさん
けれどナギさん自身も、目の奥に強い怒りと焦りを抱えていた。 ——あの時、止めきれなかった。
沈黙が落ちる。 ただ心電図の電子音だけが、処置室の奥から微かに聞こえていた。 そして数十分後。 処置室の扉が開く。 医師が静かにマスクを外し、四人を見る。
医者
医者
空気が凍りつく。 メグリさんがその場で崩れそうになり、ナナセさんが支える。 ハルトさんは目を閉じたまま俯き、 ナギさんだけが医師を真っ直ぐ見ていた。
ナギさん
医師は小さく頷く。
医者
その時―― バタバタと駆けてくる足音が響く。
浅薙晃誠
聞き慣れた声に、ナギさん達が振り返る。 そこには、息を切らしたコウくん。 その後ろにはリカさんとアラタさん、 そして不安そうな顔をした ユウマくん達の姿もあった。
リカさん
リカさんがそう言った瞬間、 コウくんは止める間もなく病室へ 向かおうとする。
コウくんの声が廊下に響いた。
浅薙晃誠
その目には涙が溜まっていた。
浅薙晃誠
声が掠れる。 リカさんはそんなコウくんの背中をそっと支えながら、静かに俯いた。 アラタさんも珍しく険しい顔をしている。
アラタさん
ナギさんは少しだけ目を伏せた。
ナギさん
ナギさん
悔しさと怒りが混ざった叫び。 ユウマくんも 俯いたまま拳を握り締めていた。 すると、病室の扉が少し開き、 看護師が顔を出す。
看護師
浅薙晃誠
アラタさん
アラタさん
浅薙晃誠
病室の扉が静かに開く。 薄暗い室内。 規則的に鳴る心電図の電子音。 ベッドの上には、点滴やモニターに繋がれた星奈ちゃんの姿があった。 包帯越しに見える傷跡が痛々しい。 ハルトさんの足が止まる。
ハルトさん
普段なら軽口を叩く彼が、 何も言えなかった。 ナギさんはゆっくりベッドのそばへ歩き、眠る星奈ちゃんの手をそっと握る。 冷たい。 その感覚に、 ナギさんの眉がわずかに歪んだ。
ナギさん
ハルトさんは隣で俯きながら、震える息を吐く。
ハルトさん
ナギさん
ハルトさん
後悔が滲む。 病室には機械音だけが静かに響いていた。 その時。 ぴくっ、と。 星奈ちゃんの指先が、 ほんの少しだけ動いた。
ハルトさん
ハルトさんが顔を上げる。 ナギさんもすぐに星奈ちゃんを見る。
ナギさん
呼びかける声に反応するように、 閉じられていた瞼がわずかに震えた。 ゆっくりと、 ほんの少しだけ目が開く。 ぼやけた視界の中で最初に映ったのは、 ナギさんとハルトさんの顔だった。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
けれど次の瞬間、星奈ちゃんが苦しそうに息を乱した。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
ナギさんがすぐに落ち着いた声で言う。 星奈ちゃんは小さく頷こうとして、 痛みに顔を歪めた。 その姿に、ハルトさんは視線を逸らす。 見るのが辛かった。 しばらくして、星奈ちゃんが途切れ途切れに呟く。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
ハルトさん
ナギさん
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
その時、病室の外から慌ただしい足音が聞こえてくる。 どうやらモニターの変化に気づいた看護師たちが来たらしい。 扉が開く直前。 星奈ちゃんは薄れる意識の中、小さく呟いた。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
その返事を聞いて、星奈ちゃんは少しだけ安心したように目を閉じた。
診察を終えた医師と看護師が病室から出ていく頃には、廊下で待っていた全員が立ち上がっていた。
黒神ミレイ
医師は疲れた表情のまま、けれど少しだけ安心したように言う。
医者
その言葉に、廊下の空気が少しだけ緩む。 リカさんが胸を押さえて息を吐き、メグリさんはその場で涙ぐんだ。
ナナセさん
ハルトさんとナギさんが病室から出てくる。 二人ともひどく疲れた顔をしていた。 ミレイさんはすぐ駆け寄った。
黒神ミレイ
ハルトさん
ハルトさん
その瞬間、 コウくんの目にまた涙が浮かんだ。
浅薙晃誠
ナギさんは壁にもたれたまま 静かに目を閉じる。 緊張の糸が切れたのか、 いつもよりずっと疲れて見えた。 そんなナギさんを見て、 メグリさんがそっと隣に立つ。
三途川メグリ
ナギさん
ハルトさん
ナギさん
するとその時。 病室の中から、小さな物音が聞こえる。 ユウマくんが反射的に扉を見る。
看護師
看護師が確認に入ろうとした、その瞬間。 弱々しい声が、病室の奥から聞こえた。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ユウマくん
浅薙晃誠
ナギさん達も後を追う。 病室のベッドの上。 星奈ちゃんはまだ苦しそうに呼吸しながらも、薄く目を開けていた。
浅薙星奈(あさなぎせな)
その声を聞いた瞬間、コウくんの表情がぐしゃっと崩れる。
浅薙晃誠
浅薙晃誠
その一言に、部屋が静かになる。 リカさんが目を伏せ、メグリさんも口元を押さえた。 星奈ちゃんは少しだけ目を見開き、それから弱々しく指を動かす。 コウくんの袖を、ほんの少し掴んだ。
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙晃誠
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
三途川メグリ
ナナセさん
でも次の瞬間。
浅薙星奈(あさなぎせな)
その名前が出た途端、空気がまた変わる。 ナギさんの表情が静かに険しくなる。 ハルトさんも笑みを消した。 コウくんはゆっくり顔を上げる。 星奈ちゃんは苦しそうに息をしながら呟く。
浅薙星奈(あさなぎせな)
星奈ちゃんのその言葉に、ハルトさんとナギさんは顔を見合わせた。 ハルトさんが眉をひそめる。
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
途切れ途切れの声だった。 ナギさんは静かに問い返す。
ナギさん
アラタさん
ハルトさんは言葉を失う。 二人が見た佐竹は、笑っていた佐竹しか見ていない。
ハルトさん
浅薙晃誠
浅薙星奈(あさなぎせな)
否定はしなかった。 病室に重い沈黙が落ちる。 するとナギさんが静かに口を開いた。
ナギさん
病室の空気が重く沈む中ーー 廊下から複数の足音が近づいてきた。 コンコン、と控えめなノック。 入ってきたのは、察官と、顔色の悪い女性だった
佐竹の母
その瞬間、全員の空気が張り詰める。 コウくんが反射的に前へ出ようとしたが、アラタさんが肩を掴んで止めた。 女性は何度も頭を下げながら、震える声で言う。
佐竹の母
けれど、その表情ば"ただ謝りに来た"だけではなかった。 普察官が静かに口を開く。
警察官
ナギさんが鋭い目を向ける。
警察官
察官は少し迷った後、低い声で言った
警察官
病室の空気が凍る。 ハルトさんの表情が消えた。
ハルトさん
警察官
警察官
ナギさん
警察官
静かな肯定。 星奈ちゃんはベッドの上で 目を見開いていた。 信じたくなかった。 あの涙は、本物だったはずなのに。 すると佐竹の母が泣き崩れる。
佐竹の母
ナギさんは黙ったまま聞いていた。 そして静かに言う。
ナギさん
ナギさん
病室に重苦しい沈黙が落ちる。 佐竹の母のすすり泣きだけが、 静かに響いていた。 その時。
けれど、空気が一瞬で凍る。 全員がハルトさんを見る。 ハルトさんは俯いたまま、 拳を強く握っていた。 血が滲みそうなくらいに。
ハルトさん
ハルトさん
ゆっくり顔を上げる。 その目には、今まで見たことがないほど強い怒りが宿っていた。
誰も言葉を返せない。 ハルトさんは感情を押さえきれず、壁を思い切り殴った。 鈍い音が病室に響く。 ナナセさんがびくっと肩を震わせる。
ナナセさん
ハルトさん
ハルトさん
ハルトさん
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
弱い声。 ハルトさんの肩が止まる。 星奈ちゃんが震える手を少しだけ伸ばしていた。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
ナギさん
ナギさん
星奈ちゃんとナギさん以外
ハルトさん
ハルトさんは佐竹のお母さんの 胸ぐらを掴みかけ――
ナギさん
ナギさんが咄嗟に止めた。
ナギさん
ハルトさん
その声だけで、 どれだけ怒っているか分かった。
ナギさん
佐竹のお母さんは何も言い返せなかった。 その時、病室のドアが少しだけ開く。 弱々しい声が漏れた。
浅薙星奈(あさなぎせな)
全員が振り向く。 点滴姿の星奈が、青白い顔で立っていた。 ハルトの表情が一瞬で変わる。
ハルトさん
怒鳴りながらも、すぐ駆け寄って支える。廊下には、重たい沈黙だけが残っていた。