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𝐆𝐞𝐚𝐭𝐬 IX
リビングには、重たい沈黙が流れていた。 病院から戻って数日。 星奈ちゃんはソファに座り、 膝に毛布をかけたままぼんやりテレビを見ていた。 ナナセさんが淹れたお茶の 湯気だけが静かに揺れている。 その時――
ニュースキャスター
全員の動きが止まった。
三途川メグリ
メグリさんが小さく声を漏らす。 画面には、パトカーのライト。 警察に連行される佐竹の姿が映っていた。
ニュースキャスター
ブツッ。
ハルトさんが無言でテレビを消した。 部屋が静まり返る。
星奈ちゃんは俯いたまま、 小さく指を握る。 自分を刺した相手。
ハルトさん
ハルトさん
低く、でも優しい声。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
その言葉に、星奈ちゃんの 肩が少し震える。 ナナセさんもそっと隣へ座り、 背中を撫でた。
ナナセさん
メグリさんも珍しく真剣な顔で頷く。
三途川メグリ
その瞬間。 ずっと黙っていたコウくんが、 静かに口を開いた。
浅薙晃誠
空気が張り詰める。 コウくんの目は、本気で怒っていた。
浅薙晃誠
ナギさんが苦笑しながら肩を叩く。
ナギさん
浅薙晃誠
即答だった。
そのやり取りに、 ほんの少しだけ空気が緩む。 星奈ちゃんはみんなの顔を見て―― ようやく小さく笑った。 でもその笑顔の奥には、 まだ消えない痛みが残っていた。 テレビの黒い画面だけが、 静かに部屋を映していた。
朝。 家の中は静かだった。 ナナセさんもメグリさんも仕事。 ハルトさんとナギさんも 朝早くから出ていて、 ミレイさん達はお出かけに行っていた珍しく家には星奈ちゃんひとりだけ。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ピンポーン。 インターホンが鳴った。
浅薙星奈(あさなぎせな)
少し眠そうなまま玄関へ向かい、 モニターを見る。 だが、そこには誰も映っていなかった。
浅薙星奈(あさなぎせな)
玄関をそっと開ける。 すると。 足元に、黒い箱が置かれていた。 大きさは両手で抱えるくらい。 送り主の名前はない。 ただ、白い紙が一枚貼られていた。 ――『星奈へ』 その文字を見た瞬間、星奈ちゃんの背筋がぞわりと震えた。
浅薙星奈(あさなぎせな)
箱を持ち上げる。 重い。 中で何かが“カタッ”と動いた。 嫌な予感がした 危険を察知する、本能みたいなもの。 星奈ちゃんはすぐに箱を床へ置き直した。
浅薙星奈(あさなぎせな)
だが同時に、気になる。 もし仲間宛ての重要な物だったら。 もし危険物だったら。 星奈ちゃんはゆっくり深呼吸すると、近くにあったカッターを手に取った。 慎重に、テープへ刃を入れる。 ピリッ……
静かな部屋に、その音だけが響く。 蓋が少し開く。 その瞬間。
――カチッ。
浅薙星奈(あさなぎせな)
箱の奥で、小さな機械音が鳴った。
その瞬間、星奈ちゃんの顔色が変わった。
浅薙星奈(あさなぎせな)
箱の内側。 赤いランプが点滅している。 ピッ……ピッ……ピッ…… 規則的な電子音。 星奈ちゃんは反射的に箱から距離を取った。 だが、次の瞬間には頭が冷えていく。
恐怖で手は震えている。 それでも、みんなの顔が浮かんだ。 もしこの家で爆発したら――。
浅薙星奈(あさなぎせな)
星奈ちゃんは箱を見る。 タイマーは――残り三分。 そして箱の側面には、小さく文字が刻まれていた。 ――『移動検知式』
浅薙星奈(あさなぎせな)
静かな部屋。 鳴り続ける電子音。 ピッ……ピッ……ピッ…… 星奈ちゃんは震える手を握り締める。
浅薙星奈(あさなぎせな)
だから。 彼女は、爆弾の前へゆっくり座り込んだ。
赤、青、黄のコード。 小型の起爆装置。 そして側面には、触れるだけで反応しそうな圧力センサー。
浅薙星奈(あさなぎせな)
額に汗が伝う。 昔、応急的な爆弾処理訓練を受けたことはあった。 でも本職じゃない。 失敗すれば終わり。
星奈ちゃんは息を整えた。 視線を動かす。 (タイマー式……だけじゃない) 装置の奥。 二重配線。
浅薙星奈(あさなぎせな)
一本だけ妙に新しいコードがあった。 赤でも青でもない。 黒。 しかも、わざと見えにくい位置。
ピッ……ピッ…… 残り、一分。 星奈ちゃんは工具箱から細いペンチを取り出す。 震える指。 だが目だけは真剣だった。
そっと黒いコードを挟む。 その瞬間。 タイマーが急に速く点滅した。 ピピピピピ――!!
浅薙星奈(あさなぎせな)
起爆寸前。 星奈ちゃんは一瞬で理解した。 (黒は罠!!) 彼女はすぐ手を離し、装置全体を見直す。 そして気づく。 奥に隠された、細い透明コード。 ほとんど見えない。
浅薙星奈(あさなぎせな)
装置の横には、小さな受信機。 そして表示された文字。 ――《振動検知作動中》
浅薙星奈(あさなぎせな)
家の中。 星奈ちゃんは、透明コードを見つめる。 汗が指先から落ちる。 残り十五秒。
浅薙星奈(あさなぎせな)
でも、間違えれば終わる。 怖い。 頭が真っ白になる。 それでも――。 “みんなを巻き込みたくない” その気持ちだけで、星奈ちゃんは震える手を前へ伸ばした。
星奈ちゃんは透明コードを見つめたまま、小さく息を吐いた。
浅薙星奈(あさなぎせな)
誰に言うでもなく、自分に言い聞かせる。 震えるペンチ。 そして―― パチン。 透明コードが切れた。 一瞬。 世界が静まり返る。 ピッ――…… タイマーの音が止まった。
止められた。 助かった。 でも次の瞬間。 玄関の鍵がガチャッと開く音がした。
ハルトさん
帰ってきたのは、 ハルトさんとナギさんだった。 そして部屋の中央に置かれた爆弾と、真っ青な顔で座り込む星奈ちゃんを見て――ハルトさんとナギさんの表情が凍りついた。
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
その一言で空気が凍った。 ハルトさんが一瞬で駆け寄る。
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさんとハルトさん
ナギさんもすぐ装置を確認する。 停止したタイマー。 切断された透明コード。 その瞬間、ナギさんの表情が険しくなった。
ナギさん
星奈ちゃんは小さく頷く。 沈黙。 ハルトさんは数秒何も言えなかった。 怒鳴ろうとした。 「なんで連絡しなかった」と。
でも。 星奈ちゃんの震えている手を見た瞬間、言葉が止まる。 怖かったはずだ。 一人で。 誰もいない家で。 失敗したら死ぬ状況で。 ハルトさんは乱暴に頭を掻いて、そのまましゃがみ込む。
ハルトさん
声が少し震えていた。
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
その答えに、ハルトさんが息を詰まらせる。 ナギさんも黙ったままだった。 しばらくして。 ハルトさんは深く息を吐き、そっと星奈ちゃんの頭へ手を置く。
ハルトさん
いつもの強い声じゃない。 本気で怖かった人の声だった。 その横でナギさんが静かに言う。
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
ナギさんの言葉で、部屋の空気が張り詰める。 止まった爆弾。 沈黙したタイマー。 そのはずだった。 ――ピッ。
浅薙星奈(あさなぎせな)
小さな電子音。 全員の視線が、一斉に黒い箱へ向く。 次の瞬間。 ピピッ――!! 消えていたはずの赤いランプが、突然点灯した。
浅薙星奈(あさなぎせな)
星奈ちゃんの顔色が変わる。 タイマー表示が勝手に切り替わる。 《00:15》
ナギさん
ナギさんが叫ぶ。 ハルトさんは即座に 星奈ちゃんを抱き寄せた。
ハルトさん
つまり――。 動かしても爆発。 触っても爆発。 完全な殺意だった。 ピピピピ――!! 残り十秒。 ハルトさんが歯を食いしばる。
ハルトさん
犯人は最初から読んでいた。 一度解除できる人間なら、安心する瞬間ができると。 だから、その“油断”を狙った。 残り七秒。
ピピピピ――!! 残り、三秒。 その瞬間。 ハルトさんの表情が変わった。
ハルトさん
次の瞬間、ハルトさんは星奈ちゃんを抱き寄せながら前へ出る。
ハルトさん
ナギさん
――ドォンッ!! 爆弾が起動した。 閃光。 轟音。 だが、その瞬間。
星奈ちゃんが前に出る。
浅薙星奈(あさなぎせな)
半透明の巨大なシールドが、家全体を包み込んだ。 爆風が壁へ叩きつけられる。 ゴオオオオッ!! 窓ガラスが激しく震える。 床が軋む。 しかし――壊れない。
浅薙星奈(あさなぎせな)
淡い白銀の紋様が家中へ走る。 壁。柱。天井。 家そのものが光り、 異常なほど硬化していく。 爆風が家具を吹き飛ばそうとしても、空間そのものが固定 されているように動かない。 数秒後。 轟音が止む。 煙だけがゆっくり漂った。 静寂。 ハルトさんはすぐ星奈ちゃんの肩を掴む。
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
ナギさんも周囲を確認する。 家は黒く焦げた部分こそあるものの、崩壊していない。 ハルトさんは、爆発した箱を睨みつける。 その目には、はっきり怒りが宿っていた。
ナギさん
ハルトさん
床には、焼け焦げた金属片が散らばっている。 その中に、一枚だけ燃え残った紙があった。 ナギさんが拾い上げる。 そこには、歪んだ文字でこう書かれていた。 ――『次は守り切れるかな?』
爆発から数分後。 家の中にはまだ焦げた匂いが残っていた。 壁には黒い煤。 床には焼けた金属片。 それでも家が崩れていないのは、 星奈ちゃんの異能力のおかげだった。 星奈ちゃんはソファへ座らされ、毛布を掛けられている。 まだ少し手が震えていた。 その時――
ガチャッ!! 勢いよく玄関が開いた。
ナナセさん
三途川メグリ
最初に入ってきたのはメグリさん。 後ろにはナナセさん、コウくん、ユウマくん達もいた。 だが全員、家の異様な空気を 見た瞬間に固まる。 焦げた壁。 漂う煙。 そして中央にいる星奈ちゃん。
ナナセさん
ナナセさんの声が低くなる。 ナギさんは少し黙ったあと、短く言った。
ナギさん
三途川メグリ
メグリさんの顔色が一気に変わる。 コウくんも血の気が引いたように星奈ちゃんを見る。
浅薙晃誠
浅薙星奈(あさなぎせな)
でも、その声はいつもよりずっと弱かった。 ナナセさんは周囲を見渡し、 焼け焦げた箱の残骸を見て理解する。
ナナセさん
ハルトさん
空気が重く沈む。 メグリさんは唇を噛み、次の瞬間には星奈ちゃんをぎゅっと抱き締めていた。
三途川メグリ
強く抱き締められた瞬間、星奈ちゃんはようやく“終わった”実感が湧いてくる。 怖かった。 一人だった。 死ぬかもしれなかった。 その感情が一気に押し寄せ、 肩が小さく震えた。 コウくんはそんな星奈ちゃんを見て、珍しく怒りを隠さなかった。
コウくん達には誰が犯人なのかは秘密にしている
浅薙晃誠
ハルトさんも同じ方向を見ていた。 床に落ちた脅迫文。 ――『次は守り切れるかな?』 ハルトさんはそれを握り潰す。
ハルトさん
真相が明らかになる
隊長室 机の上に置かれたテレビから、病院前の騒ぎのニュース映像が流れていた。 「犯人は依然逃走中——」 その言葉を聞いた瞬間、ハルトさんの眉がぴくりと動く。
ハルトさん
ナギさんも険しい顔で腕を組んだ。
ナギさん
その時だった。 ――ガタン。 部屋の外で大きな音が響く。 隊員さんが慌てて駆け込んでくる。
「大変です!! 拘束室が……!」
ハルトさん
「佐竹が……消えています!!」
空気が凍った。 拘束室へ向かうと、扉は内側から壊されていた。 床には千切れた拘束具。 そして壁には、爪で引っ掻いたような文字。 『まだ終わってない』 ナギさんが低く呟く。
ナギさん
その瞬間。 廊下の奥のモニターが突然ノイズを走らせた。 ザザッ――。 映ったのは、フードを被った人影。 ゆっくり顔を上げる。 そこにいたのは——佐竹。 目は虚ろで、口元だけが笑っていた。
佐竹
ハルトさんがモニターを睨む。
ハルトさん
佐竹
ブツン――。 映像が切れた。 静まり返る廊下。 その時、別の隊員の無線が鳴る。 『不審人物を確認!』 『特徴は——佐竹と一致!!』
『これは………隊長とナギさんのうちに向かってるようです!!』
ナナセさん
三途川メグリ
ハルトさんが駆け出す。
ハルトさん
ハルトさん
ナギさん
その後
夜の雨が、錆びた廃工場の トタン屋根を叩いていた。 ハルトさん達は、匿名の通報を頼りにその場所へ向かっていた。
ナギさん
ナギさんが小さく呟く。 入口のシャッターは半分だけ開いていて、中は真っ暗だった。 星奈ちゃんの胸がざわつく。
浅薙星奈(あさなぎせな)
その瞬間―― ギィィ…… 奥の方で、鉄が擦れる音が響いた。 ハルトさんが即座に前へ出る。
懐中電灯の光が奥を照らす。 すると、積み上げられたコンテナの影に、人影が見えた。 ボサボサの髪。 泥だらけの服。 ――佐竹だった。
佐竹
その瞬間。
ガコン。 どこかで機械音が鳴った。 ナギさんの顔色が変わる。
ナギさん
工場の床に赤いランプが点灯していく。 ハルトさんが舌打ちした。
ハルトさん
佐竹は涙を流しながら笑っていた。
佐竹
だが次の瞬間―― 星奈ちゃんが佐竹へ駆け出した。
佐竹
佐竹を強く抱きしめる。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ピッ……ピッ……ピッ…… 静まり返った廃工場に、異様な電子音だけが響いていた。 星奈ちゃんに抱きしめられていた佐竹が、ふらりと笑う。
佐竹
その瞬間、ハルトさんの視線が佐竹の服の隙間に向いた。 乱暴に上着を掴む。 そこにあったのは、佐竹の胴体に巻き付けられた黒い装置だった。 赤いランプが不気味に点滅している。
ハルトさん
ナギさん
星奈ちゃんが息を呑む。
浅薙星奈(あさなぎせな)
佐竹
ピピピピ―― 突然、爆弾の音が速くなる。
ハルトさんが即座に叫ぶ。
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
佐竹が泣きながら叫ぶ。
佐竹
浅薙星奈(あさなぎせな)
その瞬間―― 爆弾のタイマーが、“00:30”を表示した。
浅薙星奈(あさなぎせな)
誰にも気づかれないように、そっと佐竹さんのを外して自分につける。 そして。 自分のコートの内側へ取り付けた。
小さな電子音が鳴る。 ピッ…… 星奈ちゃんは一瞬だけ目を閉じた。 (これなら……)
ハルトさん
ハルトさんの声。 その瞬間、タイマーが―― 00:10 工場全体が警告音に包まれる。 星奈ちゃんは静かに前へ出た。
浅薙星奈(あさなぎせな)
青白い光が一気に広がる。 巨大なシールドが、ハルトさん、ナギさん、そして佐竹だけを包み込んだ。
ハルトさん
ハルトさんが叫ぶ。 けれど星奈ちゃんは、シールドの外側に立ったままだった。
星奈ちゃんは振り返る。 泣きそうなのに、優しく笑っていた。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
ハルトさんがシールドを叩く。 だが星奈ちゃんは首を横に振った。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさんとハルトさん
残り―― 00:03 星奈ちゃんは静かに目を閉じる。 そして最後に、小さく呟いた。
浅薙星奈(あさなぎせな)
次の瞬間。 工場を白い閃光が包み込んだ――。
――耳鳴りだけが残っていた。 崩れた廃工場。 燃える鉄骨。 舞い上がる灰と炎。 シールドの中で、ハルトさんは倒れ込むように膝をついた。
ハルトさん
返事はない。 ナギさんも、信じられないものを見るように外を見つめていた。 シールドは消えている。 けれど、その外側は爆発の跡でぐちゃぐちゃだった。
佐竹
佐竹の声が震える。 その時だった。 ガラッ…… 崩れた瓦礫の奥で、小さく音がした。 ハルトさんが顔を上げる。
煙の向こうに、人影が見えた。 ふらふらになりながら立っていたのは――星奈ちゃんだった。
浅薙星奈(あさなぎせな)
服は焼け、腕から血が流れている。 息もまともにできていない。 それでも、生きていた。
ハルトさん
ハルトさんがシールドの残骸を飛び越えて駆け寄る。 星奈ちゃんはそこで限界を迎え、 倒れかけた。 だがその体を、ハルトさんが抱き止める。
ハルトさん
声が震えていた。 怒鳴っているのに、 今にも泣きそうだった。 星奈ちゃんは薄く目を開ける。
佐竹は少し離れた 場所で立ち尽くしていた。 自分を守るために、 星奈ちゃんが命を懸けた。 その事実が、胸を締めつける。
佐竹
佐竹
その言葉に、佐竹は崩れるように泣き出した。 だがその時―― ナギさんの表情が変わった。
ナギさん
ハルトさんも気づく。 星奈ちゃんの胸元。 焼け焦げたコートの下で、まだ微かに赤い光が点滅していた。
ナギさんとハルトさん
ナギさん
その瞬間。 星奈ちゃんが震える腕で、ハルトさんの服を掴んだ。
浅薙星奈(あさなぎせな)
声はかすれていた。 息をするだけでも苦しいはずなのに、それでも笑おうとしていた。
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
ナギさん
そして星奈ちゃんは、震える指をゆっくり持ち上げる。 青白い光が、床に魔法陣のように広がっていく。 空気が震え始めた。 佐竹が涙を流しながら叫ぶ。
佐竹
浅薙星奈(あさなぎせな)
タイマーは残り数秒。 ピピピピピ――!! その瞬間。 星奈ちゃんが最後の力を振り絞った。
浅薙星奈(あさなぎせな)
轟音と共に、青い光が爆発的に広がる。 次の瞬間―― ハルトさん、ナギさん、佐竹の3人の視界が真っ白になった。 そして。 気づけば3人は、廃工場の外の道路へ転移していた。
ハルトさんが即座に振り返る。 そこには――工場の入口に、一人だけ残る星奈ちゃんの姿。
ハルトさん
伸ばした手は届かない。 星奈ちゃんは遠くから、小さく笑った。 その直後。 工場全体を飲み込むほどの爆発が夜空を裂いた――。
ハルトさんが全力で駆け出す。 瓦礫の熱なんて気にしない。 燃える床を踏み越えて、その体を抱き上げる。 星奈ちゃんは意識がほとんど無かった。 腕には火傷。 呼吸も浅い。 それでも――微かに生きている。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
その言葉を聞いた瞬間、星奈ちゃん の力が抜ける。 安心したようだった。 遠くから 救急車のサイレンが近づいてくる。 佐竹は少し離れた場所で、 その光景を見ていた。 自分を憎んでいたはずの人が、 最後まで守ってくれた。
佐竹
ハルトさんは星奈ちゃんを抱えたまま、静かに佐竹を見る。 怒りは消えていない。 けれど今は、それ以上に―― “終わらせなきゃいけない何か”があると分かっていた。
救急車の中は、慌ただしかった。 救急隊員の声が飛び交う。 ストレッチャーの上で、星奈ちゃんは酸素マスクを付けられたまま微かに目を開けた。 ぼやける視界の中、一番最初に見えたのは――ハルトさんだった。
救急隊員
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
ナギさん
病院――集中治療室前。 赤いランプが点灯したまま、時間だけが過ぎていく。 ハルトさんは壁にもたれ、 ずっと俯いていた。 ナギさんも珍しく無言だった。 佐竹は少し離れた椅子で、毛布を握り締めている。 重たい沈黙。 そこへ、医師がICUから出てきた。 全員が立ち上がる。
星奈ちゃん以外
医師は厳しい顔のまま言った
医師
医師
ハルトさんの拳がぎゅっと握られる。 ナギさんは静かに目を閉じた。 佐竹は涙を堪えながら呟く。
佐竹
ICUの窓の向こう。 星奈ちゃんは静かに眠っていた。 機械音だけが、静かな病院に響いていた――。
その瞬間。 ナナセさんの顔から血の気が引いた。 メグリさんも唇を噛む。 そして二人の視線が、 廊下の端に座る佐竹へ向いた。 佐竹はビクッと肩を震わせる。
普段なら、ナナセさんもメグリさんも滅多に怒鳴らない。 むしろ優しい側の人間だった。 だからこそ――怖かった。 ナナセさんがゆっくり近づく。
ナナセさん
佐竹
次の瞬間。 ナナセさんが感情を抑えきれず叫んだ。
ナナセさん
廊下に声が響く。 ハルトさんもナギさんも止められなかった。 ナナセさんの目には涙が溢れていた。
ナナセさん
佐竹は俯いたまま動けない。 すると今度は、メグリさんが前へ出た。 いつも穏やかな彼女の表情は、見たことがないほど怒っていた。
三途川メグリ
三途川メグリ
佐竹
三途川メグリ
佐竹
ハルトさん
低い声が響いた。 ハルトさんだった。 全員が振り返る。 ハルトさんは疲れ切った顔のまま、佐竹を見る。
ハルトさん
ハルトさん
ハルトさん
その時だった。 ――ピッ。 ICUの機械音が、一瞬だけ変わった。
全員が一斉にICUを見る。 機械音が微かに変化していた。 ピッ……ピッ…… 看護師達が慌てて部屋へ入っていく。
看護師
ナナセさん
ハルトさんは無意識にICUのドアへ近づいていた。 数分後。 医師が出てくる。
医師
星奈ちゃん以外
医師
最初に入ったのは、ハルトさんだった。 静かなICU。 白いベッドの上で、星奈ちゃんは弱々しく目を開けていた。 包帯だらけの姿。 痛々しいほど細い呼吸。 それでも、ハルトさんを見ると少しだけ笑った。
浅薙星奈(あさなぎせな)
その声を聞いた瞬間。 ハルトさんは張り詰めていたものが切れたみたいに、深く息を吐いた。
ハルトさん
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
ハルトさん
次に入ったのはナギさんだった ナギさんは星奈ちゃんの姿を見た瞬間、疲れが取れたような顔をしていた。
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
ナギさん
ナギさん
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
その次に入ったのは、 ナナセさんとメグリさんだった。 二人は星奈ちゃんの姿を見た瞬間、泣きそうな顔になった。
ナナセさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
三途川メグリ
そして最後に。 佐竹がICUへ入った。 空気が静まる。 佐竹はベッドの前まで来ると、震える声で言った。
佐竹
佐竹
言葉が詰まる。 星奈ちゃんはしばらく黙った後、小さく微笑んだ。
浅薙星奈(あさなぎせな)
佐竹はその場で泣き崩れた。
佐竹
ICUに、静かな泣き声だけが響いていた。
退院後、
リビングいっぱいに、 笑い声が広がっていた。
星奈ちゃん以外
クラッカーが一斉に鳴って、星奈ちゃんはびくっと肩を跳ねさせる。
浅薙星奈(あさなぎせな)
テーブルには料理がずらりと並んでいる。唐揚げにピザ、ケーキまで用意されていて、ユウマくんが得意げに胸を張った。
ユウマくん
浅薙晃誠
とコウくんが笑う。 壁には大きく、 『星奈ちゃん退院おめでとう!!』 という手作りの文字。 星奈ちゃんはその光景を見て、 少し目を丸くした。
浅薙星奈(あさなぎせな)
するとナナセさんが腕を組みながら言う。
ナナセさん
三途川メグリ
とメグリさんがケーキを持って現れる。
三途川メグリ
ハルトさん
ナギさん
ハルトさんとナギさんだった。 二人とも少し仕事帰りらしく疲れた顔をしていたが、星奈ちゃんを見ると表情が柔らかくなる。
ハルトさん
ハルトさん
部屋中に笑い声が広がる。 しばらくして、みんなで 乾杯することになった。 ジュースの入ったコップを持ちながら、 ナギさんが静かに言う。
ナギさん
その言葉に、一瞬だけ部屋が静かになる。 でも次の瞬間――
三途川メグリ
浅薙星奈(あさなぎせな)
笑って、騒いで、からかい合って。 危険なことも、辛かったことも、 今だけは全部忘れられるくらい ――その夜は、 とてもあたたかい時間だった。
ガヤガヤと賑やかな声が響くリビング。 星奈ちゃんがケーキを切ろうとしている横で、ユウマくんがつまみ食いをしようとしてナナセさんに怒られていた。
ナナセさん
ユウマくん
ナナセさん
ユウマくん
また笑いが起きる。 そんな時―― ピンポーン、とインターホンが鳴った。
浅薙晃誠
コウくんが玄関へ向かい、 扉を開けた瞬間。
リカさん
アラタさん
リカさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
星奈ちゃんの顔がぱっと明るくなる。
リカさんはそのまま勢いよく駆け寄って――ぎゅうっと星奈ちゃんを抱きしめた。
リカさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
リカさん
アラタさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
アラタさん
その一言に、星奈ちゃんの胸がじんわり熱くなる。 そしてその直後――
リカさん
リカさんがスマホを構えて突撃した。
リカさん
ハルトさん
リカさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
バタバタと配置が決まっていく中で、リカさんがニヤッと笑う。
リカさん
ユウマくん
ユウマくんが一瞬固まったあと、嬉しさを隠しきれずにニヤッとする。
ユウマくん
ナギさん
ユウマくんは気にせず、 星奈ちゃんのすぐ隣にちょこんと座った。
ユウマくん
浅薙星奈(あさなぎせな)
星奈ちゃんは思わず笑ってしまう。 少し距離が近くて、でも嫌じゃない空気。 その反対側にはハルトさんがいて、 じっとその様子を見ている。
ハルトさん
ユウマくん
ハルトさん
リカさん
リカさん
パシャッ――。 その一枚には、 笑っているユウマくんと、 少し照れた星奈ちゃんと、 なぜか少しだけ無表情な ハルトさんが写っていた。
パシャッと一枚撮り終わったあとも、 リカさんはまだスマホを構えたまま 興奮気味だった。
リカさん
ハルトさん
ハルトさんがため息をつく。 ユウマくんは完全に ノリノリでピース連発。 そんな中で、星奈ちゃんがふとリカさんとアラタさんの方を見て、小さく笑った。
浅薙星奈(あさなぎせな)
リカさん
アラタさん
リカさん
リカさん
次の瞬間、リカさんはアラタさんの腕をガシッと掴んだ。
リカさん
アラタさん
強引にソファの中央へ連れていかれる アラタさん。 ナナセさんが呆れ顔で一言。
ナナセさん
メグリさんは楽しそうに笑っている。
三途川メグリ
星奈ちゃんは少し恥ずかしそうに 笑いながら、 リカさんの隣に並ぶ。
その反対側にアラタさん。
アラタさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
アラタさん
少しだけ照れたように視線を逸らす。 ハルトさんはその様子を横目で見て、 ぼそっと言う。
ハルトさん
ナギさん
リカさん
パシャッ。 その写真には、 少し照れながら笑う星奈ちゃんの中心に、 ユウマくんの元気なピース、 後ろで静かに笑うコウくんとミレイさん、 少し緊張気味のハカちゃん、 楽しそうに笑うマキちゃん、 呆れ顔のナギさん、 疲れたようで優しいハルトさん、 そして誰より満足そうなリカさんが写っていた。
にぎやかで、ちょっと騒がしくて。 でもちゃんと「帰ってきた場所」 みたいな一枚だった。 退院祝いの夜は、ちゃんと “みんなの思い出” になっていった。
夜。 珍しく、家の中がしんとしていた。 メグリさんもナナセさんも外出中。ハルトさん達もまだ戻ってきていない。 そんな中――
ナギさん
リビングのソファに座っていた ナギさんが、小さく顔をしかめた。
浅薙星奈(あさなぎせな)
星奈ちゃんが近づくと、 ナギさんの額はかなり熱かった。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
星奈ちゃんはぐいぐい背中を押して、ナギさんを部屋まで連れていった。 ベッドに座らせ、慌てて冷えピタや水、 タオルを準備する。 途中で冷蔵庫を開けた時、
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
数十分後。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさんが一口食べると、 星奈ちゃんが不安そうに覗き込む。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ぱあっと顔が明るくなる星奈ちゃん。 その様子に、ナギさんは少し笑った。
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
即答だった。 ナギさんは少し目を細める。
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
そう言った直後。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
しばらくして。 薬が効いてきたのか、ナギさんは少しうとうとし始める。 星奈ちゃんはベッド横の 椅子に座ったまま、 濡れタオルを替えていた。 その時。
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
優しいけど、妙に頑固な声。 ナギさんは少し黙ったあと、 小さく笑った。
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
その数分後。 ガチャ。 玄関が開く音。 帰ってきたメグリさん達が静かに 部屋を覗くと―― ベッドで眠るナギさんと、 その横で看病しながらいつの間にか寝落ちしてる星奈ちゃんの姿。 しかも星奈ちゃん、ナギさんの手をぎゅっと握ったまま。
メグリさんが小声で、
三途川メグリ
ナナセさんも頷く。
ナナセさん