仁
私の返事を聞くなり、彼は私に抱きついた。そのまま背中に手を回され、ぎゅっと抱きしめられる。少し苦しいけれど、暖かくて悪くない気分だ。
「それで? どうやって戦うつもりなの?」
私が尋ねると、彼は体を離した。
「実はもう、準備自体はできてるんだけど……」
そう言って、足元に転がっていた小石を手に取る。
「今からコレを投げるから、君はそれに当たらずにいてくれないかな」
「えっ!? 嫌だけど!? 絶対当たるじゃん! 当たったらどうするの? 死ぬの?」
「大丈夫、死にはしないと思うよ」
彼がそう言った瞬間、視界の端から何かが飛んでくるのが見えた。
反射的に避ける。避けてしまった。
「ほらぁ!!」
「大丈夫だってば、落ち着いて」
落ち着くも何もない。いくらなんでもこれは酷い。
「大丈夫、今度は当てないように投げるから」
「ほんとに?」
「うん、約束する」
「わかった、信じるからね」
彼はもう一度、先程と同じ大きさの小石を拾い上げた。
「いくよー、3,2,1……」
カウントと同時に投げられた小石が宙を舞う。
「あっ」
間抜けな声と共に放物線を描こうとした小石が途中で軌道を変え、私達の間を通り過ぎて背後の木に当たって跳ねた。思わず振り返ると、木の向こう側にあったはずの山道の入り口は既に見えなくなっていた。
「…………神って、神様のこと? 神様を殺したら、また別の神様が生まれてくるんじゃなかったっけ?」
「ああ、うん、それも正しいんだけど……」彼が少し考え込むようにして言う。「そもそもね、僕らが殺すべきなのは、『神』じゃないんだよ。僕らが倒さなければならない相手は、『世界を滅ぼす何か』だ」
「世界を滅ぼす、何か」
「そう。例えば……『時間を巻き戻せる力を持った存在』、『宇宙の法則を書き換わることのできる存在』、『概念そのものに影響を与えることができる存在』、『物理法則を無視して行動できる存在』とか。そういったものが敵として現れることが想定されるんだ。だから、僕たちが倒すべきなのは神ではなく、それらの敵対者だよ」
「ふーん……なんというか、壮大すぎてよくわからないわね」
彼は困ったような顔をするだけで何も言わず、私の横に腰掛けた。そのまましばらく無言の時間が流れる。
「……まあ、いいでしょう。それで? 貴方はその『敵を倒すための手段』を持っているわけよね。それが、これ?」
私が懐から取り出した紙束を見せると、彼は満足げに笑みを浮かべた。
「そう! 僕の財団の科学班が作り上げた最高傑作の一つ。その名も『神の杖』!」
「『神の杖』って知ってるかい?」
「聞いたことはあるわ。確か、地上施設の破壊兵器よね。核兵器よりも威力のある、空からの爆弾みたいなものだったはず。それがどうかしたの?」
「あれの改良型だよ。核じゃない。ミサイルでもない。あの赤い花と同じものだと思ってくれればいい。正確には、SCP-2000を破壊するための道具だけれどね。もちろん、それだけじゃ足りないんだけど」
「どういうこと?」
「簡単に言うと、衛星軌道から地表に向けて発射されたレーザー兵器によって、大気圏内で蒸発させてしまおうって計画だよ。今見えてる船は貨物運搬用だから、当然武装なんてされてないんだけどね」
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