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その日の夜、わたしは自室で漫画を読んでいた。
本棚の奥に封印されていた、昔ハマったバスケ漫画である。
久し振りにバスケに関わることになったら、急に読みたくなったのだ。
バスケ部のコーチは不承不承引き受けたものだというのに、不思議なものだ。
そういえば、バスケを始めたきっかけも、これだったか?
そんな気もするが、いまいち思い出せない。小学生の頃の記憶など、そんなものだろう。
コンコン。
ねーちゃーん
木崎砂姫(きさき さき)
木崎姫歌(きさき ひめうた)
自室の扉から硬質な音がした。
木崎姫歌(きさき ひめうた)
木崎砂姫(きさき さき)
木崎姫歌(きさき ひめうた)
木崎砂姫(きさき さき)
ガチャリ。
扉が開くと同時、我が部屋に天使が舞い降りた。
木崎砂姫。十歳。小学五年生(♀)。
前から読んでも後ろから読んでも「きさきさき」の、我が妹であった。小柄ながら、わたしにそっくりなキュートガールである。
手には算数のドリル。
何故か「四年生」と書いてあるところには突っ込まないでおこう。
木崎姫歌(きさき ひめうた)
肩肘を突いて聞くと、我が妹は満面の笑みで答えた。
木崎砂姫(きさき さき)
うん、何故「四年生」のドリル全体を指差すのだ、我が妹よ?
木崎姫歌(きさき ひめうた)
脳裏に酔っぱらいの顔を浮かべつつ提案してみた。
しかし、妹は首を縦に振らず、さも当然のように言った。「あいきゅー180に聞けば間違いない」だってさ
木崎姫歌(きさき ひめうた)
木崎砂姫(きさき さき)
シュタ。
という擬音が似合う俊敏さで敬礼し、我が妹は部屋を後にした。
数秒後、父の断末魔の悲鳴が聞こえたのは、言うまでもない。
それから一時間、わたしは算数に関してのみ頭の弱い妹に講義を行った。
正直、九九さえまともに覚えていない人間に、小学四年生の算数ドリルを解かせるのは苦難以外の何物でもなかった。
現役中学教師の父が匙を投げるのも頷ける話ではある。
砂姫の先生よ、何故「三年生」のドリルを飛ばした?
木崎砂姫(きさき さき)
木崎姫歌(きさき ひめうた)
わたしは頭痛を押し殺しながら訊ねた。
次に「7×8は何だ?」などと聞かれた日には、わたしは妹を山に埋めに行くことになるだろう。
が、わたしの予想は外れていた。
木崎砂姫(きさき さき)
木崎姫歌(きさき ひめうた)
ようやくブラを着けるようになった妹からのマセた(?)質問に、わたしは固まった。
木崎姫歌(きさき ひめうた)
木崎砂姫(きさき さき)
木崎姫歌(きさき ひめうた)
まあ、我が妹が「わがままぼでぃー」かはさて置き、妹を付け狙う「ちょーどきゅー変態」がいることは大問題だ。
出来る限りのアドバイスはしたいところである。
木崎姫歌(きさき ひめうた)
お前が言うな!
と天から声が降ってきた気がしたが、わたしは気にせず妹に続きを促した。
木崎姫歌(きさき ひめうた)
木崎砂姫(きさき さき)
木崎姫歌(きさき ひめうた)
妹よ、それは俗に自慢話とカテゴライズされる話だ。
黒髪イケメンの小学生にストーキングされるだと?
わたしならば血の涙を流して喜ぶシチュエーションだ。勿論鼻血も忘れない。
木崎姫歌(きさき ひめうた)
「小学五年生の黒髪のイケメン」という単語が妙に引っ掛かった。
我が地元は大絶賛過疎化中の超弩級ド田舎であるため、小・中学校には各学年一クラスずつしか存在しない。
その為、「黒髪」という単語はほぼ全員に当てはまるが、「イケメン」という単語が当てはまる人間はそう何人もいない。
わたしの頭には、一人の少年の顔が浮かんでいた。
我が妹は言った。ストーカーの名を。
木崎砂姫(きさき さき)
思わず、わたしの顔に笑みが浮かんだ。同時に、妹を八つ裂きにしようかとも思った。