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山中紗花
4限目の終了を告げるチャイムが鳴り響いてすぐ、教室の入り口から元気な声がした。 廊下側の特等席から身を乗り出すようにして手を振っているのは、隣のクラスの紗花だ。 スポーツ万能な紗花の周りには、今日も午前中の授業や部活の話で盛り上がるクラスメイトたちの輪ができている。
御影壱也
私の前の席の壱也が、嬉しそうに席を立って机を動かし始めた。 紗花が私のクラスにやってきて、私の机、壱也の机、そして壱也の隣の机をくっつけて即席の4人席を作る。 いつもなら、私と紗花、そして壱也の3人のはずだった。けれど、壱也が「あ、吏玖も一緒に食おうぜ」と声をかけた。
榛野吏玖
そう言って、壱也の斜め前の席に腰を下ろしたのが、榛野吏玖くんだった。 相変わらず、どこか気怠げで、何を考えているのか読めないクールな瞳。 けれど、私と目が合うと、彼は小さくコクンと首を傾げて、声を出さずに「よろしくね」とでも言うように微笑んだ。それだけで、私の心臓が少しだけトクンと跳ねる。
山中紗花
御影壱也
山中紗花
目の前で繰り広げられる、大好きな紗花と大好きな幼なじみの甘いやり取り。 壱也が紗花の口元についたご飯粒を優しく指で取ってあげている。 紗花は顔を真っ赤にして照れている。 (……やっぱり、お似合いだよね) 二人の幸せそうな姿を見るたびに、胸の奥がキュッと締め付けられる。 紗花が可愛いのは知っている。 壱也が紗花を大好きなのも分かっている。 分かっているのに、喉の奥が苦しくなって、お箸を持つ手が止まってしまう。 自分の世界に閉じこもりそうになり、私は思わず視線を机の上に落とした。 その時だった。
榛野吏玖
低くて、穏やかな声が、私の耳にそっと届いた。 ハッとして顔を上げると、斜め前に座る榛野くんが、私のお弁当箱をじっと見つめていた。
榛野吏玖
山中絃花
不意を突かれてまごつく私に、榛野くんは頬杖をついたまま、ふっと目元を柔らかく緩めた。
榛野吏玖
山中絃花
榛野吏玖
榛野くんは唐揚げを私の取り皿にそっと置いた。 そして、私の少し不格好な卵焼きをひとつ、自分の口へと運ぶ。
榛野吏玖
吏玖は少しだけ声を潜めて、私にしか聞こえないような優しいトーンで囁いた。
榛野吏玖
紗花たち2人の世界から、私をそっと連れ出してくれるような、彼の掴めない優しさ。 自分の名前を優しく呼んでくれた彼の声が頭の奥でリフレインして、私は胸の痛みを忘れたまま、ただ顔が熱くなっていくのを感じていた。
コメント
1件
第2話、すごく良かったです!絃花が姉と壱也の間で感じる寂しさと、そこに差し込む吏玖くんの優しさの対比が素敵でした。「元気出る」って卵焼きひとつで伝えてくれるの、めちゃくちゃグッときます。絃花の名前をちゃんと呼んでくれたのも効いてるなあ…。次の展開が気になります!