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春太

白凌(はくりょう)~!

春太

お仕事貰って来た……

春太

にゃ?

しかし、

長屋の扉を開けた先はもぬけの殻だった。

春太

……はぁ…

春太

きっとまた飲み過ぎたんだにゃ…

春太は深いため息をこぼして

《麓桜堂(ろくおうどう)》へ向かった。

《麓桜堂》

店主の希世花(きよか)

白凌?

店主の希世花(きよか)

変わらず遅くまで飲んでたわよ

春太

やっぱりにゃ……

店主の希世花(きよか)

店閉めるからって追い出して…

店主の希世花(きよか)

そうそう

店主の希世花(きよか)

裏の川の方にフラフラ歩いてったわね

春太

…嫌な予感しかしないにゃ…

店主の希世花(きよか)

ふふっ

店主の希世花(きよか)

確かにそうね

店主の希世花(きよか)

でも、ちゃんと探してやってよ?

春太

わかってるにゃ

春太は《麓桜堂》の裏に回る。

そこには川幅こそ狭いものの、

それなりの深さがある川が流れている。

河童の吉兵衛

よぉ春太

河童の吉兵衛

白凌を探してんだろ?

春太

そうにゃ

春太

どこに行ったか知らないかにゃ?

河童の吉兵衛

明け方”私は魚だ!”って言って

河童の吉兵衛

川に飛び込んでたよ

春太

にゃぁぁぁぁ…

春太

一体何してるにゃぁ…

春太の悲痛な叫びを聞いて

河童の吉兵衛(きちべえ)は楽しそうに笑う。

河童の吉兵衛

良い感じに流されてたから

河童の吉兵衛

ちゃんと回収してやれよ

春太

うにゃぁぁぁ

春太は眉間に皺を寄せて

足取り重く川沿いを歩ていく───。

綺麗な朝焼けが生える海を見つめ、

白凌は首を傾げる。

白凌

これは……

白凌

うーん……

白凌

また飲み過ぎたか

まだ水を吸って重い着物の裾を絞り、

ゆっくりと立ち上がった。

春太

生きてたにゃ

振り返るとそこには良く知った猫又が一匹。

白凌

やぁ春太

白凌

おはよう

春太

呑気なもんだにゃ

白凌

あはは

白凌

おかしな話だよね

白凌

少し前まで《麓桜堂》で飲んでいたというのに

春太

ここまで迎えに来る身にもなってほしいものにゃ

白凌

ごめんにゃ

春太

それで許されると思ってるところが白凌の悪いところにゃ

白凌

もちろん、許されるとは思ってないさ

白凌

では、ここは

白凌

《麓桜堂》の柏餅で手を打とうじゃないか

春太

……

白凌

ね?

春太

ぐぬぬ……

春太

…はぁ

春太

オイラも大概甘いにゃ…

白凌

甘党なだけにね

春太

うるさいにゃ

白凌

あははは…

白凌は楽しそう笑い、

春太はため息をこぼす。

二人は並んで浜辺をのんびりと歩く。

春太

まったく…

春太

”自分は魚だ!”って言って川に飛び込むにゃんて

春太

どんな酔い方をしたにゃ?

白凌

それは……

白凌

覚えてない案件だねぇ…

春太

吉兵衛が言いふらさないことを願うにゃ

白凌

いや、無理でしょ

白凌

あの河童はお喋りだし

白凌

……明日には全河童が知ってそうだな

春太

帰るころにはみんな知ってる話しになってるにゃ

白凌

……うわぁぁぁぁ…

白凌は頭を抱える。

春太

これを機に

春太

飲む量を減らしてほしいにゃ

白凌

ぜ、善処します…

春太

……ん?

春太が何かに気が付き

歩みを早める。

白凌

どうしたんだい?

春太は砂浜に埋もれた何かを拾い上げた。

白凌

ガラス瓶?

白凌は大股で近づいて

春太の手元を覗き込む。

春太

中に何か入ってるにゃ…

透明なガラス瓶の中には

筒状に丸めた紙が入っていた。

春太

手紙…かにゃ?

白凌

さぁ?どうだろうね

春太

強い想いを感じるにゃ

白凌

開けるのかい?

白凌

でも…

白凌の言葉を無視して春太は瓶の蓋を開け、

中に入っている紙を取り出した。

そして、

紙を広げたところで

二人の顔が一気に強張った。

春太

にゃにゃにゃ!!?

春太

じゅ、呪詛にゃ!!!

紙には赤茶色の文字で、

びっしりと誰かに対する恨み言が書かれていた。

春太

呪いだにゃぁぁぁぁ!

春太が慌ててその紙を捨てようとしたのを、

白凌がその手を掴んで止めた。

春太

にゃにするにゃ!!

春太

オイラが呪われた可哀想な猫又ににゃってもいいのかにゃ!?

春太は涙目で白凌に訴えかける。

白凌

落ち着いて

ゆったりとした口調で言うと

春太の膨らんだ二本の尾がゆっくりと萎む。

春太

うぐぐ……

春太

白凌は自分が呪物だから落ち着いていられるにゃ

白凌

まぁそれもあるけど

白凌

それをこのまま捨ててしまったら

白凌

誰かが拾ってしまうかもしれないだろ?

白凌

それで何も知らないヒトが呪われてしまったら?

白凌

それって瓶を開けた春太の責任になるんじゃないかな?

春太

あ、う……

春太

そうにゃ…

ピンと立っていた髭も耳も

シュンッと下がる。

白凌

だから

白凌

これはきちんと処分しなきゃ

春太

わ、わかったにゃ…

春太

白凌はこれを処分できるのかにゃ?

白凌

もちろんだとも

白凌

ひとまず、紙を瓶に戻そう

言われるがまま春太は再び紙を筒状に丸め、

瓶の中に押し込み、蓋をした。

その瓶に白凌は懐から取り出した二枚の

少し湿った札(フダ)のうち

一枚を瓶に貼り付け、

もう一枚を春太に手渡した。

白凌

浄化するまでその札を手放さないこと

春太

わかったにゃ

ギュッと大事そうに札を握りしめた春太の姿を見て、

白凌は可笑しそうに笑い、

白凌

じゃあ行こうか

と言って歩き出した。

自宅の土間にて……

白凌

鍋に水を入れて

白凌

塩をふた摘み

白凌

沸騰しないように弱火で……

言いながら白凌は

真っ赤に燃えている小さな炭を

鉄製の箸で動かし、

竈(かまど)の火を調節する。

白凌

まずは瓶ごと鍋へ

とぽんっ

とガラス瓶を鍋に入れる。

春太

まるで料理だにゃ

春太は一枚の札を握りしめたまま鍋を覗き込む。

すると、

瓶に貼り付けていた札がお湯に溶け、

次いで瓶からじわじわと

黒い靄がお湯に溶けだした。

白凌

さながら灰汁抜きをしている感じかな

春太

いつ見ても不思議な光景にゃ…

白凌

そうだね

春太

紙には…

春太

クソ上司!とか

春太

使えない部下ども!!とか

春太

たくさん書いてあったにゃ……

白凌

現代人は生きるのが大変ってことさ

春太

この呪詛を浄化したら……

春太

これを流した人の気持ちも晴れるのかにゃ?

白凌

そうなるといいね

白凌

……

白凌

さて

白凌

靄が出なくなったね

白凌

よし、一旦取り出そうか

火傷しないように細心の注意をはらいながら

瓶を取り出し、蓋を開け、

鉄製の箸で器用に中の紙を取り出す。

今度はその紙だけお湯に沈めた。

すると、

ぶわっ

と黒い靄が出てきて、

それから

紙に書かれた文字が一つ一つ紙から取れて

お湯の中をクルクルと舞い踊りながら溶ける。

白凌

文字の一つ一つに強い恨みが込められてたんだね

白凌は苦笑いを浮べて、

さらに塩を一つまみ入れる。

春太

その塩って普通の塩じゃないにゃ?

白凌

ん?そうだよ

白凌

月世見(つきよみ)神社で清めて貰った塩と水だからね

白凌

難しい呪いでなければこの二つで十分浄化できるんだ

春太

お水と塩で十分にゃら

春太

どうして火にかけるにゃ?

白凌

火もまた浄化する力を持っているからね

白凌

念には念入れてってことさ

白凌

春太が呪われた可哀想な猫又にならないようにね

春太

にゃっ……

春太

白凌……

どこか感動したような眼差しを向けると

白凌

ふふっ

と白凌は笑みをこぼす。

お湯の中を踊っていた文字が

完全に消えたのを確認して、

春太が持っている札もお湯に入れるように言った。

恐る恐る札を入れると、

わずかに黒い靄が出て

すぐにお湯に溶けて

札ごと消えた。

白凌

よし

白凌

これで一安心だ

白凌は鍋を竈から下ろし、

土間に直置きすると、

お湯の中に唯一残った白紙を鉄製の箸で掴み上げ、

ひょいっ

と竈の火の中に放り込むと

あっという間に燃えて無くなった。

白凌

あとはこのお湯が冷めたら

白凌

川に流して終いだね

春太

川に流して大丈夫なのかにゃ?

春太

河童に悪い影響を与えにゃいかにゃ?

白凌

その心配は無いよ

白凌

すでに恨み辛みはすべて浄化されているからね

白凌

このお湯も普通に飲めるよ

白凌

飲んでみるかい?

聞かれて春太は

物凄い勢いで首を横に振った。

白凌

あはははっ

白凌

まぁこれで

白凌

あのお喋りな河童を

白凌

黙らせることが出来ればよかったんだけどね

春太

白凌

春太

目が笑ってないにゃ

白凌

おっと…

白凌

では、冷めるまで《麓桜堂》で柏餅でも食べようか

春太

……あ、そうにゃ

春太

二口女が白凌に相談したいことがあるって言ってたにゃ

白凌

おや?仕事の依頼かな?

春太

そうだと思うにゃ

白凌

じゃ、そっちが先かな

白凌

……また色恋沙汰じゃないといいけど

春太

どうかにゃぁ?

白凌

ぬりかべと接吻なんてもうしたくないなぁ…

春太

そもそもあれはどういう流れでそうなったんだにゃ?

白凌

あれ?

白凌

説明してないっけ?

春太

聞いて無いにゃ

春太

いきなり口付けしてビビったにゃ

白凌

あれはね───

そんなことを話しながら

二人は家を後にした───。

『流れ着いた手紙』 ─了─

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