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体が 重い
私 このまま殺されちゃうんだ…
殺され…
……
…………
……………………
………あれ…?
私、生きて……る?
ずしりとした重さは確かな感触
しかし痛みも何もない
ただただ "重い"…
意識を手放しかけていた私に五感が戻ってくる
すっと体が軽くなる
声によろよろと顔を上げると、
浅野
宮原
目の前に宮原が いた
どこか ぶつけたのか、彼は頭に手を当てている
どうやらあの重さは宮原のものだったらしい
逃げる私を捕まえたのは、彼だった
宮原
手を差しのべられる
私は躊躇いながらもその手に、 自らの手を伸ばした
ひやりとした感触が喉を伝う
緊張で渇ききった喉に潤いが戻ってきた
ほう と息をつき、手元のグラスに目を落とす
カラリと音を立てる 冷えた麦茶が私の心を落ち着かせてくれた
ひと息ついたところで 部屋を見渡してみる
相変わらずね……
部屋には様々な形のビーカーや試験管、科学本が床を埋め尽くしている
そんな本の山のなか、辛うじて一人分のスペースが空けられている
ここが私の特等席
昔はよく 宮原をごっこ遊びに付き合わせていた
私が塔の上のお姫様で
宮原は 12時の魔法使い
ダンボール製のカボチャの馬車で私をお城まで送ってくれるのだ
こんなところでよく遊べたものだなと今更ながらに 思う
昔を懐かしみながら グラスを傾け、ふと気づいて手を止める
すでに麦茶を飲み干してしまっていた
露になった底に目が奪われる
空っぽのグラス
途端に不安感が舞い戻ってきた
宮原
はっとして、慌てて こくりと頷く
宮原
宮原
宮原
ゴースト……
屋敷で見た 祖父と似た人物の顔が脳裏に蘇る
けれど、自ら光を発するゴーストなんて聞いたことがない
宮原
宮原
ゴーストのなかには、光を当てただけで消えてしまう個体もいる
宮原
宮原
宮原
"実体"と聞いて眉をひそめる
浅野
教科書にはそう書いてあったはずだ
宮原
宮原
浅野
宮原
宮原
No.9
2032.8.15 長崎にて巨大ゴースト "THE LIGHT"を発見
全国から従業員245人を召集
駆除を開始する
2032.8.18 ライトが効かず 駆除が長引いている
応援を要請したが一向に本部からの連絡がない
しかも無線機からは 妙なノイズが鳴り始めた
同様の報告が他チームからも出ている
2032.8.19 チーフが亡くなった
彼の代わりに記録を続ける
2032.8.22 技術チームからようやくゴーストの分析結果が届いた
以下にそのデータをまとめる
・体長 推定24m
・念種 恐怖
・性格 通常はおとなしいが、刺激により凶暴化の恐れあり
・危険度 すでに多数の死者が出ている、十分に用心せよ
・自ら発光し、ライトへの耐性あり
・人間の念の複合体の可能性、また実体化がみられた
2032.8.25 THE LIGHTの動きが鈍くなった
やっと実験段階の解念剤の効果が出始めたらしい
2032.8.27 THE LIGHT 駆除完了
2032.9.13 広島にて 捜索開始
2032.11.24 二体目の THE LIGHT を発見
駆除を開始する
浅野
宮原
宮原
宮原
浅野
私の質問に宮原がうーん…と唸る
宮原
あくまで俺の予測なんだけど…と宮原は続ける
宮原
浅野
浅野
宮原
浅野
赤点ギリギリだったけど…
宮原
宮原
宮原
研究者のスイッチが入った宮原に思わず背筋を伸ばしてしまう
浅野
浅野
宮原
宮原
宮原
宮原
原爆……
その言葉に子供の頃の記憶が蘇る
社会学習で原爆資料館に行ったことがあった
恐ろしかった…
おぞましい当時の状況を収めた写真たち
5Dの映画も見たが、できればもう二度と観たくない
こんなことを自分と同じ人間が起こしてしまうのか
小さかった私は大きな動揺を覚えた
悲しみなのか、怒りなのか よくわからない感情が幼い心に渦巻いた
この感情は一生忘れないでおこうと私は小さいながらに決意した
成長するにつれて、自分のことで精一杯になってしまったけれど…
あの場所では、私のような現代人には想像すらできないような惨劇があったはずだ
あの戦争が終わってから百年以上経つ
もう生きてそのことを伝える人たちはいなくなってしまった
時間とは残酷なものだ
どんなに抗っても、伝承は風化してしまう
宮原
宮原
宮原
浅野
宮原
宮原
浅野
宮原は目を逸らして頭をかく
宮原
勿体ぶっておいてそれはないでしょ……
浅野
ぴしゃりと宮原の膝を叩く
宮原
お返しにと眉間を指で押される
宮原
宮原
浅野
宮原
宮原
宮原
宮原
ジ ッ
浅野
突然 部屋が光に包まれる
浅野
浅野
返事が ない
このとき私はパニックを起こしていた
そんな私に追い討ちをかけるように、あの音楽が身体を震わした
あいつが 来る
視界は光に覆われ、どこに逃げればいいのかさえ わからない
それでも私は必死に何かを探して手を動かした
パリンッ
何かを割ってしまったようだ
さっきも言った通り、宮原の家にはフラスコやら何やらが雑多に床置きされている
前に宮原は ゴーストのサンプルを見ながら、
『俺の家、冷気溜まってるから』
と要冷蔵のをそのままストックしていた
音のした方向へ手を伸ばす
かちと冷たいものが指先に当たった
それにさっと指を滑らせ、割れて鋭利になった瓶だろうと確認する
もう すぐそこまで光が迫っていた
前とは形の違う光がじりじりとこちらに近寄ってくる
私は迷わずそれを光に突き立てた
生々しい感触が瓶越しに伝わってくる
ふっと周りの光が失せていった
ドサッ
私の目の前に 宮原が倒れていた
浅野
脇腹から鮮やかな血が流れ出ている
浅野
私の手は血にまみれ、腕のなかでは友人がぐったりとしている
頭が真っ白になりかけながら思考を働かせる
浅野
宮原
スマホをもつ手が制される
宮原
浅野
浅野
宮原
ぐいと肩を掴まれ、顔が近づく
宮原
宮原
そう言って、脇腹に刺さったガラス片を指す
宮原
宮原は笑おうとするも、その表情は弱々しい
宮原
まっすぐこちらを見る双眼
浅野
宮原
宮原
宮原は口角を無理につり上げる
そんな宮原にまた泣きそうになる
宮原
宮原
浅野
浅野
鞄を握りしめて 立ち上がる
浅野
宮原
そして私は 友人を置いて光から逃げた
『滅びの歌』へ 続く