アカリ
セイヤ、その抜き打ちテストのパラドックスってなに?
セイヤ
有名なパラドックス問題だよ。
セイヤ
この抜き打ちテストのパラドックスは……。
まるでセイヤの言葉をさえぎるかのように、ゴミが声を上げる。
ゴミ
じゃあ、2セット目行くよー!
もし、自分とハカセが同じ考えであれば――この2セット目も【謝らん】が正解だ。
ゴミ
おーんーしゃーたーまーわーるーはー。
ハカセ
セイヤ、彼女の意図が見えてこない。君はどう思う?
ゴミ
だーあぁーれー?
セイヤ
俺にも分からないんだ。
セイヤ
なぜ、彼女はわざわざこんなことをするんだ?
マドカ
ちょっと、2人で納得していないで、私達にも教えなさいよ。
カシン
抜き打ちテストのパラドックスなら、僕も多少は分かりますよ。
カシン
説明してあげましょうか?
マドカ
……なんか、その上から目線の言い方が気に入らないから、お断りするわ。
マドカ
あとでセイヤに教えてもらうから結構。
カシン
くくくくっ……。
カシン
随分と嫌われてしまったようですねぇ。
セイヤ達のやり取りをよそに、2セット目の回答が行われる。
ヨウタ父
まだまだ【謝らん】ぞ。
イチカ
……【謝らん】で。
セイヤ
俺も【謝らん】にする。
ハカセ
ナンバーズや父さん達が、この理論にたどり着いているかは分からない。
ハカセ
でも、今はこれでいい。
ハカセ
これでいいはずなんだ。
セイヤ
でも、なにかが引っかかる……ハカセも同じ違和感があるみたいだね。
ハカセ
あぁ、このゲームはどう考えても最初から、ゴミが圧倒的に不利なんだ。
ハカセ
なぜ、このルールでゲームをしようとしたのか?
ヒメ
ねぇ、このゲームって【許す】ことがテーマみたいなこと言ってたでしょ?
ヒメ
なんで、ゴミが不利なのかとかは分からないけど、もしかして【許す】ために、あえて自分が不利なゲームを提案したのかも。
ツヨシ
教室を占拠したあげく、クラスメイトを全体の半分くらいぶっ殺した奴が?
ツヨシ
そんなことをするとは俺は思えない。
アカリ
ねぇ、セイヤ。
アカリ
今のうちに、簡単でもいいから抜き打ちテストのパラドックスの話を……。
シズカ
……私もそれ、聞きたい。
セイヤ
あぁ、ちょっと長くなってしまうんだけど……。
ゴミ
2セット目も終わり。
ゴミ
さてさて、恩赦はいつ出るのでしょうか?
さも、セイヤ達の会話を邪魔せんとばかりに、タイミング悪く次のセットに移ろうとするゴミ。
ここまでくると、意図的なタイミングでやっているとしか思えない。
ゴミ
おーんーしゃーたーまーわーるーはー。
ゴミ
だーあぁーれー?
なぜなら、残り3セットに対して、こちらの回答権は3回あるのだから。
ただ、それぞれのグループ間での相談はできているが、互いのグループ間で意見のやり取りはできていない。
それぞれのグループが被らないように【ごめんなさい】をすれば、絶対に恩赦は逃さないのだが、被ってしまう可能性はあり得る。
ハカセ
セイヤ……ここも。
セイヤ
あぁ、謝るつもりはない。
セイヤ
俺達は【謝らん】で。
イチカ
私達も【謝らん】にする。
こうして、先に他のグループの答えを聞いてしまえば、回答が被ってしまうことは避けられる。
ふと、ヨウタの父とハカセの父が頷き合うのが見えた。
ヨウタ父
では――【ごめんなさい】だ。
ハカセ
やっぱり、どう考えたっておかしい。
ハカセ
ここまで来てしまったら、もう僕達の負けはあり得ない。
セイヤ
あぁ、俺達の勝ちが確定する。
セイヤ
大体、こっちに3回も回答権がある時点で、明らかに有利すぎるんだ。
セイヤ
5回のうち当てずっぽうで3回チャレンジしても、恩赦を受けられる確率は単純に60%だからね。
セイヤ
このゲームは俺達が勝つように仕組まれている気がする。
ハカセ
問題は、なぜ彼女はそうしたのかだ。
ハカセ
気味が悪くて仕方がないよ。
嫌な予感がする。
3セット目でようやく【ごめんなさい】が出たことに、ゴミは小さくため息を漏らした。
ヨウタ父
いいかい?
残りは3セット。
ヨウタ父
こちらが【ごめんなさい】できる回数は、それぞれ1回ずつで計3回だ。
ヨウタ父
あとは残りのセットを、誰かが【ごめんなさい】をするようにして消化すれば、必ず誰かが恩赦を受けることになる。
ハカセ父
私達の勝ちはもう揺るがない。
ハカセ父
子どもみたいな遊びはやめて投降しなさい。
ハカセ父が言うも、ゴミとゴミの母は顔を見合わせて笑みを浮かべるばかり。
イチカ
お前さぁ!
イチカ
本当はもう分かってるんじゃないの?
イチカ
この時点で勝ち目がないってことにさ!
イチカ
回答権の残り回数とか関係なく、もうお前は不意打ちができねぇんだよ!
ゴミ
えー、なんのことぉ?
ゴミ
私さ、お前らが言うみたいに馬鹿だから分からないわ。
イチカ
なんか意味分かんない。
イチカ
みんなを監禁して、勝手なゲームで殺して、なにが楽しいの?
ゴミ
……逆に聞くけどさ、私のことを毎日のようにいじめて、学校に来るなって言うくせに、学校に来なかったら来なかったで家までおしかけるような真似をして、なにが楽しかったの?
ゴミ
勝手に変なランキングを作って、妙な投票して楽しかった?
ゴミ
人の飲み物に少しだけど洗剤混ぜて楽しかった?
ゴミ
当たりのないくじ引きをさせて、理不尽な罰ゲームやらせて楽しかった?
ハカセ
……これまで行われたゲームは、イチカ達にやられたことを、やり返していたということか。
ツヨシ
でも、それがあいつの目的だとしたら……ナギまで死ぬことはなかっただろ?
ツヨシ
お前、ナンバーズに恨みがあるならナンバーズにだけやれよ!
ツヨシ
なんで無関係な俺達まで!
ゴミ
……誰も助けてくれなかったじゃん!
ゴミ
みんな、見て見ぬふりしてたじゃん!
ゴミ
私があんなに苦しい思いをしていたのに、何事もないかのように、毎日楽しく過ごしてたじゃん!
ニコ
勝手なこと言ってんじゃねぇよ!
この犯罪者!
ゴミ母
犯罪者?
静かに言い放つと、イチカ達のほうに向かうゴミの母。
ゴミ母
あんたらのやったことのほうが、よっぽど犯罪だろ!
ゴミ母
いい?
言っておくけど、あんたたちがうちの娘にやったことは、イジメなんていう可愛いものじゃないの。
ゴミ母
犯罪なんだよ。
ゴミ母
私達がやっていることと、そんなに変わらないと思わない?
ゴミ母
1人の人間を追い詰めて、最終的に命まで奪うんだから。
ゴミ母
泣きながら、娘に「死にたい」って言われた親の気持ち、あんた達に分かる?
ゴミ母
私はね!
ゴミ母
あんた達にしいたげられるために娘を育てんじゃないの!
ゴミ母
幸せになるために育てたの!
ゴミ母
人様の娘になにやってくれてんの!
肩で呼吸をする母の姿を見て、逆に冷静になったのか。
ゴミは小さくため息を漏らしてから、改めてイチカのほうへと向き直った。
ゴミ
それで?
ゴミ
なんで今の時点でそっちの勝ちなの?
ゴミ
詳しく理由を教えてもらえない?
ゴミ
そこまで勝ち誇ってんだから、ちゃんと説明できるんだよね?
イチカ
できるに決まってんだろ!
イチカ
ねぇ、シキ。
シキ
あ、うん。
ゴミ
それじゃあ、教えてもらおうか。
ハカセ
……そういうことか。
ハカセ
まずい、話に乗るな!
ハカセ
それは罠だ!