ハカセが口にした警告は、残念ながらイチカ達には届かなかったようだ。
イチカ
いいか?
良く聞けよ!
ハカセ
セイヤ、彼女達を止めよう。
ハカセ
このままじゃまずいぞ。
そう言ってハカセが立ちあがろうとするが、先にゴミの母が声を上げた。
ゴミ母
勝手な真似をしたら、どうなるか分かってる?
それがただのはったりなのか、それとも本当のことなのか。
分からない以上、あちらに強気に出られてしまうと動けない。
万が一という可能性がある以上、強行することはできなかった。
ゴミ
……で、余計な邪魔が入りそうになったけど、本当に説明できる?
ゴミ
あんた達なんかに。
ハカセ
頼む、挑発に乗らないでくれ。
シキ
残りのセットは2セット。
シキ
例えば、このまま4セットが終わったと想定するの。
シキ
4セットが終わった時点で恩赦が出ていなければ、残りの5セット目で恩赦が出ることが確定する。
シキ
つまり、5セット目に恩赦が出ることは予期できてしまうわけ。
シキ
もちろん、恩赦が出ない可能性もあるけど、恩赦が一度も出なかったら、こちらの勝ちになるんだから、そこは考えなくてもいい。
シキ
それを踏まえて現段階――3セット目が終わった時点で、恩赦が出ていない場合、どこで恩赦が出るのか?
シキ
5セット目が予期できてしまうことはさっき説明したから、5セット目に恩赦が出ることはない。
シキ
となると、恩赦が出るのは4セット目しかないんだけど、これも今の理論で予期できてしまうことになる。
シキ
結論、もう恩赦は出せない。
シキ
どのタイミングで出しても、不意打ち――予期できないタイミングにならないから。
シキ
このまま最後まで恩赦が出ずに、私達の勝ちが確定する。
イチカ
どうだよ!
これで分かったか!
ニコ
あんたにもう勝ち目はないの。
セイヤ
……抜き打ちテストのバラドックス。
セイヤ
彼女達も知っていたのか。
アカリ
セイヤ、いい加減教えてもらえない?
アカリ
抜き打ちテストのパラドックスのこと。
ゴミ
私も聞きたいなぁ。
ゴミ
ねぇ、セイヤとハカセなら分かってるんでしょう?
ゴミ
やってはいけないことを、どこかの馬鹿がやっちゃったことを。
ハカセ
……ノーコメントとさせてもらおう。
セイヤ
同じくだ。
ヒメ
それで、抜き打ちテストのパラドックスって?
セイヤ
これは抜き打ちテストを題材にしたパラドックス問題なんだ。
セイヤ
ある学校で、教師が月曜日に言った。
セイヤ
今日から金曜日までの5日間のうち、いずれかの日に抜き打ちテストを行うって。
セイヤ
この問題、突き詰めていくと、妙なことが起きるんだ。
セイヤ
まず、さっきシキが言ったみたいに、最終回――今回なら5セット目、抜き打ちテストのパラドックスだと金曜日に、抜き打ちテストをするとしよう。
セイヤ
すると、木曜日にテストが行われなかった時点で、金曜日にテストを行うことが確定してしまう。よって、金曜日のテストは抜き打ちにならない。
セイヤ
では、木曜にテストをするとしよう。
セイヤ
そうすると、今度は水曜日にテストがなかった時点で、テストは木曜か金曜に行われることになる。
セイヤ
でも、さっきのロジックで、すでに金曜に抜き打ちテストができないと確定しているから、抜き打ちテストは木曜に行うことになる。つまり、木曜にやるだろうと予期できてしまう。
セイヤ
ゆえに、木曜のテストもなし。
セイヤ
他も同じように考えると……。
セイヤ
水曜日と火曜日も同様の理論で抜き打ちテストはできなくなる。
セイヤ
唯一、抜き打ちテストが可能なのは月曜日ってことになるけど、ここまでの理論で抜き打ちテストは月曜日にしかできないことが確定しているから、月曜日のテストも予期できてしまう。
セイヤ
結論としては、月から金のいずれの日にも、抜き打ちテストはできないことになるんだ。
ヒメ
これを今のゲームに置き換えて考えると……。
アカリ
1セット目から5セット目のどこにも恩赦は出せないってこと?
ハカセ
その通りだ。
ハカセ
きっと、このゲームの答えは、最初から最後までなにもせずに、ただ傍観すること。
ハカセ
そうすれば、ゴミは恩赦をどこにも出せない。
ハカセ
そして、恩赦を出せなかったらゴミの負けとなるんだから、必然的に僕達の勝ちになるはずだったんだ。
ゴミ
そう、このゲームはずっと見て見ぬふりをしていれば良かったの。
ゴミ
なにかをするわけでもなく、ただ指をくわえて見ていれば良かったんだよ。
ゴミ
さっきのイチカ達見た?
ゴミ
さも鬼の首でも取ったかのように話を展開させてさ。
ゴミ
私に対して馬鹿みたいにマウントを取ってきた。
ゴミ
本当に私に対して申し訳ない、謝りたいと思っていたならさ、こんな態度は取らないよ。
ゴミ
そして、この愚かな行動が、お前達の首を絞めることになるんだ。
ハカセ
このゲームの本質は、ナンバーズが本当に反省しているかにあったんだ。
ハカセ
本当に謝罪の気持ちがあれば、わざわざ理論を振りかざして、ロジックの穴を突いたりしないはず。
ハカセ
少なくとも、勝ち誇ったかのような態度は見せないだろう。
セイヤ
俺達にやたらと有利なルールも、ナンバーズを試すためだった――ってことか。
ゴミ
そして、今……審判は下ったね。
セイヤ
あぁ……。
ヒメ
ちょっとセイヤ、理解が追いつかないんだけど。
ヨウタ
同じく。意味が分かんねぇ。
セイヤ
いいかい?
このロジックは、想定だけで成り立っているロジックなんだ。
セイヤ
それなのにナンバーズは、4回目と5回目は理論的にあり得ないことを主張してしまった。
セイヤ
これってつまり、彼女達にとって4回目と5回目は、絶対的に恩赦が出ることはあり得ないと言っているに等しい。
セイヤ
さて、ここで4回目か5回目のどちらかに恩赦が出たらどうする?
ヒメ
いや、それは有り得ないんじゃないの?
セイヤ
いいや、あり得るんだ。
なぜなら、彼女達にとって4回目と5回目に恩赦が出ることは……予期していないことになるから。
セイヤ
絶対に有り得ないと思ったところに恩赦が出たら、それは予期できない――不意打ちってことになるんだよ。
ハカセ
つまり、残りの2セット間で――恩赦が出る可能性が出てきてしまった。
ハカセ
もし、万が一にも恩赦を逃してしまえば……僕達の負けだ。