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いつか君が還る場所

第8話 - 第5話さようなら、お父さん

2025年09月07日

#泣ける

#生まれ変わり

湊カナメ

そして千鶴さんが会社から出て雨宿りしている所を、お父さんが家まで送りますと車を出してくるんだ。そして車で移動しているうちに嵐になったのでお父さんは雨が止むまでどこかで休憩しようと話を持ちかける。

それに対しての千鶴さんの返事、わかるでしょ？断れなかったんだ。

夢(かなえ)

はあっ、はあっ、

夢(かなえ)

わっ！

夢(かなえ)

……うう、転んだあ……いたた

夢(かなえ)

……うっ

夢(かなえ)

くそっ！負けるもんか！

夢はお金も何ももって無いからタクシーも乗れないよね…… かなり距離があるけど大丈夫？

夢(かなえ)

……大丈夫、なんとか…なる

夢(かなえ)

なんとかする！

夢(かなえ)

はあっ、はあっ、

夢(かなえ)

……なんとか着いた。だけど4時半か…まだ時間あるな

━━━━━━━ピカッ━━━━━━━ ゴロゴロゴロ

夢(かなえ)

ひっ！

夢(かなえ)

うう、怖いよ

会社の人

お疲れ様。電車止まってるみたいよー

会社の人

あらいやだわ、歩いて帰りましょ

夢(かなえ)

(会社の人だ。ぞろぞろでてくる。)

男

君、そこで何してるの？

夢(かなえ)

！

男

こんな雨の中、どうして会社の門の前に？

夢(かなえ)

あ、人を迎えに来たんです。傘、忘れていったみたいで。

夢(かなえ)

(この人も会社の人かな？)

男

そうなんだ……って顔怪我してるじゃん！
すぐに手当しないと危ないよ

夢(かなえ)

大丈夫です！こんなの全然痛くないので！

男

いや！だめだよっ！

グイッと腕をとても強く引っ張られる。痛い、怖い。

夢(かなえ)

ちょっ、

男

痛そうだ、可哀想に。

男

おじさんが手当してあげるから一緒に来て。

夢(かなえ)

いやっ、いいですっ

夢(かなえ)

(待って、それによく見たらこの人……)

夢(かなえ)

(人じゃない。)

時々幽霊を見ることがあった。雰囲気が全く同じで人の形にとどまっている何かだと確信した。

夢(かなえ)

(私、気を強くもて…引きずり込まれるな……)

夢(かなえ)

離せぇぇえええっ！！！！！！！

夢(かなえ)

はっ！

気がつくと、会社の前の公園のベンチに横になっていた。

夢(かなえ)

……ゆめをみてたの？気絶してたのかな。

夢(かなえ)

はっ、それより時間！

門の中には誰もいない。

夢(かなえ)

……1時間はたってる。もう行っちゃったかな。

夢(かなえ)

これでまた失敗……？嫌だ、そんなのは…

顔を覆っていると遠くから声が聞こえてきた。

そして出てきたのは紛れもなく千鶴さんと、若きお父さんの姿だった。

夢(かなえ)

千鶴さん！！！

門の前に走る。

お父さん

いやはや、今日中に終わって良かったですね。

千鶴(29)

ええ、本当に。1人だったら絶対に朝までかかっていましたわ。

お父さん

それにしても、仕事を押しつけられるなんて酷いですねえ
それで残業なんて少しは言い返した方がいいと思いますよ？

千鶴(29)

あはは…まあそうですよね。彼氏にもよく言われるんですよ。その性格直せよって。

千鶴(29)

でも頼まれたら、つい受けてしまうんですよね
人の為になるなら、喜んでくれるならって。

お父さん

そうですか。藤咲さんは本当に優しいんですね。
でも誰にでも優しくしてるといつか自分が損をする気がしてならないのですよ。
ほら世の中全員がいい人なんて限らないじゃないですか。
少しはわがままになってもいいんじゃないかと思うんですよね。

千鶴(29)

うふふ。ありがとうございます。

2人が空を見上げる

お父さん

にしても、雨強いですね。

千鶴(29)

本当ですね。電車も動いてないって加藤さんが言ってましたし…

お父さん

あの、良ければご自宅まで送っていきましょうか？
私車で来ているもので。

夢(かなえ)

！

千鶴(29)

いえいえ、申し訳ないので。私の最寄り不動駅で遠いですし

お父さん

大丈夫ですよ、私も丁度同じ方面なので。

千鶴(29)

あら……どうしようかしら……

夢(かなえ)

(断って……！)

千鶴(29)

でもそうですね、お言葉に甘えちゃおうかしら…

夢(かなえ)

(……)

お父さん

あ、でも

お父さん

藤咲さん今彼氏さんとか旦那さんっていらっしゃいますよね？大丈夫ですか？

千鶴(29)

えっ？ああ……

千鶴(29)

いますけど大丈夫ですよ。あくまでも送迎してくださるだけでしょう？

お父さん

そうですね。良かった。
車内とはいえ密室ですから気にする方もいらっしゃるので。

千鶴(29)

お気遣いありがとうございます。

お父さん

では駐車場に行きましょうか。

千鶴(29)

よろしくお願いします。

夢(かなえ)

……っ

建物外の左奥へと2人が歩いていく

夢(かなえ)

マ、ママ！！！！！！！！

2人が私の方を向く。

お父さん

……

お父さん

藤咲さんお子さんいらっしゃるんですか？

千鶴(29)

……

千鶴(29)

…………いえ

千鶴(29)

いませんし、知りませんわ。

夢(かなえ)

えっ……？

言葉のショックに一瞬血の気が引く感覚がした。が、

千鶴(29)

ごめんなさい。気にしないで行きましょう。

夢(かなえ)

ママ！！待ってよ！！！

夢(かなえ)

待って…………！！！

2人が車へ乗り、エンジンがかかる。

夢(かなえ)

待って、なんでよ……

夢(かなえ)

あんな千鶴さんの目見たことないよっ……

車が動き出し、反対側の門から出ていく。

夢(かなえ)

……

夢(かなえ)

こんなところで終われないっ！！！

私は門から身を乗り出して、車を一目散に追いかけた。

私は体育が大嫌いで、小学校の持久走ではほぼ毎回ビリッケツ。体力もないし、最下位として罰ゲームを受けたこともある。

それでも今雨の中を無我夢中で走っている。今までからは考えられないくらいのスピードが出ていると思う。

夢(かなえ)

車だけは見失わないように……

夢(かなえ)

はぁっ、はあっ、

夢(かなえ)

あっ、信号が赤になる！

車も信号に合わせて止まる。

夢(かなえ)

急げ私の足、距離を縮めるんだっ！

お父さん

いやはや、そんなことがあったんですね。

千鶴(29)

そうなんですよ、だから最近仲あまり良くなくて。
残業して正解かなとも思ったりして…

お父さん

少し寄り道でもします？笑

千鶴(29)

あら！うふふ。

千鶴(29)

そうですわね……

千鶴(29)

……！！！

お父さん

どうかしましたか？

千鶴(29)

……ごめんなさい。車少し停めてもらえますか？

千鶴(29)

……後ろから、さっきの子供が。

お父さん

え？！

車は停車し、千鶴がドアを開ける。

夢(かなえ)

あっ……

千鶴(29)

……

お父さん

藤咲さん！濡れちゃいますよ！

千鶴(29)

ここまで追いかけてきて何のつもり？
ママ、ママって周りが勘違いすることを言うのやめてよ。

夢(かなえ)

……うん、そうだね。

夢(かなえ)

確かに私は千鶴さんのお腹からは生まれてきてないから、私のママでは無いね

夢(かなえ)

それでも

夢(かなえ)

あの時私を拾ってくれて家に招いてくれた。お風呂だってご飯だって温かくて、まるで自分の娘のように育ててくれた。
普通はそんなこと、見ず知らずの子供になんてできないよ。
私は千鶴さんのことを

夢(かなえ)

血は繋がってなくても、ママだと思ってるよ。

夢(かなえ)

あと、憂一郎さんもすごく反省してたよ
もう一度話し合って仲直りしたいって。

夢(かなえ)

……濡れちゃうと風邪ひくから、傘さしてよ。

夢(かなえ)

……それと

お父さん

ん？

夢(かなえ)

あなた結婚してるのに何してるんですか？

夢(かなえ)

家で奥さんがご飯作って待っているって言うのに。

お父さん

ハッ、なんだ君は？指輪つけてないのにどうして既婚なんて言えるんだい？
人聞きの悪い。

夢(かなえ)

ああ、言ってませんでしたね。私人の心が見える未来人なんです。
信じられないと思いますけどね。

夢(かなえ)

だから私はあなたがこの後どこへいき、何をするかも分かっちゃうんです。
後、こっちの道路お2人の目的地とは別の方向ですよ。

夢(かなえ)

確かにこの天候の中女性が1人で家まで帰るのは危険です。
ですが、奥さんの電話も無視したあげくに〝友達〟からの連絡だと嘘をつく。
それっておかしいですよね。

夢(かなえ)

自分を待ってくれている、自分を心配している家族を置いて
どこに行こうとしてるんですかね。

夢(かなえ)

……ゴムなんてこんなに用意して。

千鶴(29)

えっ……

千鶴(29)

そんなの……

お父さん

……っ

千鶴(29)

久山さん？どうされて……

お父さん

あーっはっはっは。
はっはっはっは

お父さん

はー何か勘違いさせちゃったみたいだし、
かと言ってそんなもの見せられたら安心して乗れませんもんね。

お父さん

可愛い御迎えさんも来てくれたことですし、私1人で帰りますわ！

お父さん

ああ、あと私来週関西に転職するんですよ
恐らくもう顔合わせることは二度とないと思うのでご安心を！

お父さん

じゃあ、さようなら！お元気でー！

車の扉が閉まり、逃げるように走っていった。

夢(かなえ)

…………

夢(かなえ)

……あの、ごめんなさい。

夢(かなえ)

千鶴さんのことママなんて呼んで、嘘ついちゃって……

千鶴(29)

………………

夢(かなえ)

私……
っ？！

千鶴(29)

ごめ…

千鶴(29)

ごめんねえ…っ

千鶴(29)

うう、寒かったよね……傷ついたよね……痛かったよね……

千鶴(29)

憂一郎さんのこととか周りの人達の目が色々ストレスでどうかしてたよね……
本当にごめんね……
こんな可愛い子を置いていくなんて……

夢(かなえ)

確かに辛かったよ。だけどもう大丈夫。

夢(かなえ)

千鶴さんに何も起こらなくて良かった。
私はそれだけでいいの。

夢(かなえ)

それに見て！
あんなに強かった雨止んだよ
だから帰ろう、お腹空いた！

千鶴(29)

うん。わかった。ごめんね。
早く帰って3人分のご飯作るね

千鶴(29)

帰りにスーパー寄っていい？
野菜と卵、切らしちゃってるから……

夢(かなえ)

……

夢(かなえ)

もちろんっ！！！！！

このやり方で良かったんだろうか。何かを断る時、会話の間に入る時、自分が相手を傷つけてはいないだろうかと思ってしまう。

だけど結果としてこれで良かったんだ。千鶴さんと買い物をして、空いた手で手を繋いで帰った。

これからも目標は沢山あるけれど、既に達成感が凄かった。そしてもうこの時から始まっていた。

私自身の〝死〟ではなく〝消滅〟への旅。タイムリミットが、近づいていた。

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湊カナメ

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