十一月二十九日
……なるほど、つまり全ての元凶は十三形ってわけか。
十一月二十九日
まぁ、あいつが絵本を作らなければ、こんなことにはなってないわけだから、元凶であることに変わりはないが。
四ツ谷
そう言うこと。
四ツ谷
実は俺、十三形とは親戚でね。
四ツ谷
まぁ、本人が奇人だし、親戚の集まりには顔を出さなかったし、結婚もしないでプラプラしてたようなやつだから、そこまで深い接点もないんだけどさ。
四ツ谷
数年に一度会う、ちょっと愉快で変なおじさん――って言うイメージしかなかったんだよ。
十一月二十九日
あんた、十三形の親戚なのか。
四ツ谷
まぁ、天涯孤独なんて言われてるけど、人間ってのはそんな簡単に縁がなくなったりはしない。疎遠だったことは間違いないし、十三形自身が孤独だったことは確かだけど、現にこうして薄く血が繋がっているやつもいるわけで。
十一月二十九日
まぁ、親族ならば、俺達より十三形のことを知っていても当然だよな。
四ツ谷
あぁ、ある時、本人が狂い死んだってことも、世の中の誰よりも早く知ることができたわけだ。
四ツ谷
警察は自殺と断定したけど、それでも異様な光景だったらしい。
二ツ木
一応、十三形は名を馳せた作家だった。
二ツ木
奇妙な死に方をした作家……という意味で、だけど。
十一月二十九日
で、狂い死んだはずの人間が、どうして今も暴れてんだよ?
四ツ谷
その理由は俺も良く分からない。だが、葬儀が終わってからしばらくして、俺はふらりと本屋に立ち寄ったんだよ。
四ツ谷
その時、なぜそうしたのかは分からないし、なんで本屋になんて立ち寄ったのかも分からない。
四ツ谷
でも、その本屋の中で会ったんだよ。
十一月二十九日
死んだはずの十三形に――か?
十一月二十九日の問いかけに頷く四ツ谷。
四ツ谷
あぁ、最初は夢かと思ったし、なによりも店の人間が十三形だと気づいた自分に驚いた。
四ツ谷
なんせ、滅多に会うこともなかったし、せいぜい葬式の時の遺影でしか、はっきり風貌を見たことのない相手だったからね。
四ツ谷
でも、その時は直感的に分かったんだ。
四ツ谷
あ、十三形のおじさんだ――ってな。
四ツ谷
あっちも俺のことは分かってたみたいで、馬鹿みたいに丁寧に教えてくれたよ。
四ツ谷
呪いの絵本がどういうものなのかをね。
呪いの絵本という存在。
それはある意味眉唾で、限定的な情報しかなかった。
十一月二十九日
つまり、呪いの絵本がなんたるかの情報を流布したのも、あんただった――ってわけか。
四ツ谷
その通り。
四ツ谷
呪いの絵本を放置していたら、多くの人間が不幸になる。
四ツ谷
それを、自慢げに話していた十三形に腹が立ってさ。
四ツ谷
十三形は自分の残した絵本で、多くの人間が苦しむことを望んでいたよ。
四ツ谷
自分を認めなかった世の中への復讐らしい。
四ツ谷
だから、俺はそれを阻止すべく動くことにした。
四ツ谷
もちろん、十三形に悟られないように、表向きは十三形側についているようなふりをしてね。
十一月二十九日
あんた、なかなか強(したた)かだな。
四ツ谷
そいつはどうも。
四ツ谷
まずはネットに呪いの絵本の情報を流した。
四ツ谷
もしも、すでに呪いの絵本が12冊、世の中に出ているのだとすれば、なにかしらの反応があるかもしれない。
四ツ谷
そう考えて発信を続けていたわけだ。
二ツ木
その結果、私達が集まって【ストーリーテラー】を中心とする勢力が出来上がった。
二ツ木
目的は漠然と絵本を奪うこと。
二ツ木
絵本は高価で取引きされていて、だから集めれば集めるほど金になる――。
二ツ木
それを鵜呑みにして集まった人間もいるだろうね。
二ツ木
特に十一月二十九日あたりは。
十一月二十九日
は?
十一月二十九日
ってことは、もしかして……。
四ツ谷
悪いな。それは俺のでっち上げだよ。
四ツ谷
ちょっと考えたら分かるだろ?
四ツ谷
実際に取引きなんてされていないよ。
四ツ谷
誰が呪いの絵本なんて眉唾もんを、高い金出して買うんだよ。
二ツ木
まぁ、金が目的でなくとも、私みたいに絵本を手にしてしまって、どうしていいのか分からなくなった人間には、ありがたかったけどね。
十一月二十九日
はぁ?
十一月二十九日
マジかよ……。
二ツ木
もっと崇高な理由があって【ストーリーテラー】は動いていたってこと。
二ツ木
反省しろ、この守銭奴。
四ツ谷
それくらいにしておいてやれよ。
四ツ谷
俺も人の欲望につけ込んだわけだから。
十一月二十九日
それで、俺達は【ストーリーテラー】中心に集まったわけだが、他の連中はどうするつもりだったんだ。
四ツ谷
絵本は自然と所有者同士を引き合わせる――だから、そこまで深く考えていなかったんだけどな。
四ツ谷
ある時、妙に高飛車な
女が俺の前に姿を現した。
女が俺の前に姿を現した。
四ツ谷
どうやら、呪いの絵本のことを調べて回っているらしい。
四ツ谷
誰か分かるだろ?
二ツ木
七星か。
四ツ谷
その通り。
四ツ谷
実際に呪いの絵本でどうやって戦うのかも知りたかったし、俺は彼女の勝負を受けることにした。
四ツ谷
勝ったら勝ったで、彼女を傘下に加えればいい――そう思っていたんだが。
二ツ木
四ツ谷は自分が思っている以上に弱かったってことか。
四ツ谷
ひ、否定はしないけどよ。
四ツ谷
まぁ、その通りだな。
四ツ谷
結果的に七星には負けたが、俺は彼女の傘下に入り、呪いの絵本の持ち主を探すことになった――ってわけだ。
四ツ谷
結果、表向きは四ツ谷として、そして裏では【ストーリーテラー】として、俺は二重の生活を送ることになったわけだ。
四ツ谷
これでうまくいくはずだった。
四ツ谷
でも、十三形が急に暴走を始めたんだ。