十日市
――と言うわけ。
これまでの経緯を聞いて、思わず深いため息を漏らした。
十日市
納得でき――ないよね?
十日市
私もさ、つい最近【ストーリーテラー】から聞かされたばっかりだったから、いまだに半信半疑なところもある。
一宮
正直、どこからどう理解していいのか分からないけど――。
一宮
俺との勝負は、最初から俺を所有者から外すためのものだったということか?
十日市
そう。
十日市
本当は正々堂々やりたかったんだけど、二ツ木ちゃんが、あなたの考えることだけは分からない――って。
十日市
万が一のことも考えて、ちょっとズルをさせてもらいましたー。
十日市
そのネタバラシは、二ツ木ちゃんと会った時にでも、じっくり聞いてね。
頭の中で懸命に整理しようとするが、情報量が多すぎて処理が追いつかない。
一宮
つまり、俺達がやり合っていたのは――。
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全て十三形を欺くためだってさ。
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全く、肝心なところを全く話さないあたりが、本当にタチが悪いよな。
ふと、背後から声がしたと思ったら、長身の男がグラスを片手に姿を現した。
十日市
あ、十二単。あれほど、店のものは勝手に飲むなと――。
十二単
いいだろ?
十二単
ネタバラシパーティーの真っ最中なんだからさ。
十二単と呼ばれた男が言うと、十日市は小さくため息を漏らした。
十日市
――えっと、一宮さんだっけ?
十日市
なんか飲む?
一宮
あ、烏龍茶で。
十二単
真面目かよ。
十二単
酒の一杯でもどうだい?
十二単
この店、扱っている酒の種類だけはいいから。
十日市
あ?
十日市
それ喧嘩売ってるの?
十二単
後、行き遅れのママがいる。
十日市
行き遅れは余計だ。
十日市
てか、まだ行き遅れてないし。
文句を言いながらも、一宮の目の前に烏龍茶の入ったグラスを置く十日市。
一宮
と、とにかく。
一宮
話を元に戻して欲しい。
一宮
その、十三形が暴走を始めたって言うけど、具体的にはどんな暴走をしたんだ?
十二単
十三形は絵本の所有者同士が、醜く争い合うのを見たかった。
十二単
人間の汚いところを凝縮させて、呪いの絵本を呪いの絵本たるものにしたかった。
十二単
ところが――絵本が渡った先が、あまりにも常識人だらけだったのさ。
十日市
まぁ、伍代みたいなガチな馬鹿もいるけどね。
十二単
とにかく、十三形からすれば、今の俺達のやり方は面白くなかったのさ。
十二単
だから、新たなる所有者を選定すべく、元々の所有者を殺して回り始めた。
一宮
……八橋もそのせいで殺されたってことか?
十日市
そういうことになるね。
十二単
それと、三富という人物もだ。
一宮
そんな……呪いの絵本で、醜い争いが見れないからって、所有者を殺すなんて反則だろ?
十二単
あぁ、俺もそう思うよ。
十二単
それと、君に謝るべきかどうかは微妙なところだけど、謝らせて欲しいことがある。
十二単
事情を知らなかったとはいえ、六冥という子の命が失われた。
十二単
伍代が勝手に判断したのかもしれないが、もっときつく言い聞かせておくべきだった。
十二単
俺の周囲に集まった人間が常識人すぎたせいで、警戒を怠ってしまった。
十二単
彼女が死んでしまったのは俺の責任だ。
十二単
許してくれ――とは言わない。
十二単
だが、頭だけでも下げさせて欲しい。
一宮
俺は六冥本人じゃないし、そっちもまた伍代本人じゃない。
一宮
伍代が頭を下げるのであれば、それを受け入れるべきだろうが、今はまだ受け入れることはできないよ。
一宮
それだけ人の命は重いんだ。
一宮
だが、それを悔いるのは伍代自身であるべきだ。
一宮
頭を上げてくれ。
十二単
あ、あぁ。
十二単
すまないな。
一宮
それで、これからどうするんだ?
十二単
終わらせるのさ。
十二単
詳しい話は【ストーリーテラー】から改めてあるとは思うが――。
十二単
これ以上、十三形の好きにさせるわけにはいかない。