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アイビーとガラスのピアノ

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アイビーとガラスのピアノ

5 - アイビーとガラスのピアノ 5話

♥

202

2022年11月25日

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月日は流れ、4月になりマヌエルは大学2年生、清士郎は高校3年生に進級した

お互いそれぞれの学生生活が忙しくなり、ようやくふたりが会えたのは夏本番を迎えたあとだった

清士郎

『──やっと会えた』

ぎゅっ

マヌエル

『暑い……』

清士郎

『そんなに抱きつかれるのが嫌か?』

清士郎

清士郎

『最近メールと電話のやりとりしかしてないから……』

マヌエル

『拗ねないで』

マヌエル

『とにかく涼しいところに入ろう』

ふたりは近くの喫茶店に入っていった

マヌエル

『あ〜美味しい♪』

清士郎

『──アイスがくっついてる』

マヌエルの口元に付いていたアイスを指で拭った

マヌエル

『…………』

一瞬固まる

清士郎

『どうした? 顔が赤いぞ?』

マヌエル

『赤くなってなんかない!』

清士郎

『テレてるのか?』

マヌエル

『いいからさっさとクリームソーダを飲んで!』

マヌエル

『美術館へ行くんでしょ!!』

クリームソーダを一気に飲み干すと、マヌエルは席から立ち上がりレジへ向かう

清士郎

『ちょっと待て』

残りのクリームソーダを飲み干し、慌てて清士郎はマヌエルのあとを追った

──数時間後

マヌエル

『なんだかんだで楽しかったよ』

清士郎

『俺もだ』

チュ

マヌエル

『……………?!』

清士郎に唇を奪わられる

マヌエル

『急になに?』

清士郎

『恋人同士なんだから、べつにいいだろう──』

マヌエル

『それはそうだけど』

清士郎

清士郎

『また会えるよな?』

マヌエル

『らしくないね。なんかあったの?』

清士郎

『……海外の音楽院に、留学するかもしれない』

清士郎

『そしたら今以上にあんたに会えなくなる』

マヌエル

『…………』

清士郎

『マヌエルに会えなくなるぐらいなら、俺は──』

マヌエル

『行っておいで』

遮るように口を開く

マヌエル

『留学するのはピアノの腕を磨くためなんでしょ?』

清士郎

清士郎

『寂しくないのか?』

マヌエル

『寂しくないって言ったら、嘘になるけどさ』

マヌエル

『僕は清士郎のピアノ、好きだよ』

清士郎

『…………』

マヌエル

『後にも先にもピアノに聞き惚れたのは』

マヌエル

『清士郎だけ』

にこ

清士郎

『──マヌエル』

マヌエル

『だから行っておいで』

マヌエル

『帰ってきたら、また清士郎のピアノを聞かせてね』

ぎゅっと抱擁を交わした

──1週間後

《今日、ひとつ年下の女の子から告白された。告白されるなんて思ってもみなかったから少し驚いた。 清士郎のことが頭に浮かび丁重に断った。》

《街中を歩いていたら女の子と勘違いした男が僕をナンパしてきた。無視して通り過ぎようとしたがかなりしつこかった。 「僕、男なんだけど」どすをきかせると男は驚きのあまり唖然となる。 その隙に僕は足早に離れた。》

清士郎は僕よりも女の子と付き合った方がいいんじゃないのか?

《最近、そんな考えが浮かぶようになってきた……。 外見上女の子に間違われるけれど性別は男。 同性で付き合ってると知られたら僕だけじゃなく、清士郎まで好奇な視線を向けられてしまう可能性がある。絶対にそれは避けないと……。 清士郎にとって今は大事な時期だから》

数ヶ月後

2月某日

音楽院の入学試験のため清士郎は渡航した

マヌエル

『…………』

清士郎の合格を祈った

そして2週間後、【試験に合格した】とメールが来た

【おめでとう】と返信する

僕はある決心を固めていた

この数ヶ月間、結論が出るまで悩みに悩んだ

マヌエル

『(清士郎に怒られるだろうな)』

これは勝手に僕が決めたことだから

【空いてる日ある?】

休日

水族館

休日のためか家族連れが多い

清士郎

『はぐれるぞ』

ぎゅっと手を掴む

マヌエル

『…………』

清士郎

『どうした?』

マヌエル

『ううん、なんでもない』

マヌエル

『行こうか』

ふたりは矢印とおりに水族館内を歩きまわっていく

ひと通り歩きまわるとベンチに腰を下ろした

目の前にはクラゲの水槽があり、ゆらゆらと浮遊している姿は光が当たって幻想的だった

マヌエル

マヌエル

『──留学の準備、進んでる?』

清士郎

『なんとか進んでいる』

向こうの音楽院の入学は9月で、それまでいろいろ準備をしなければならないらしい

物件探しや手続きやらその他諸々──

マヌエル

『うわぁ、それは大変だ』

清士郎

『入学まで間に合うかどうか』

他愛のない会話

けれどそんな会話をするために来たんじゃない

マヌエル

『──清士郎、僕がいなくなってもがんばってね』

決心が揺らぐ前に

マヌエル

マヌエル

『清士郎と付き合って楽しかったよ──』

清士郎

『マヌエル……?』

何かを察したのか困惑した顔で僕を見つめる

マヌエル

『ずっと一緒にいたかったけど……』

清士郎

『…………』

マヌエル

『僕たち……』

別れよう

しばらく沈黙のあと、絞り出すように口を開いた

清士郎

『──なんで?』

清士郎

『気に障るようなことしたか?』

マヌエル

『違うよ、清士郎は悪くない』

清士郎

清士郎

『嫌だ。マヌエルと別れるくらいなら俺は──』

チュ

清士郎

『…………!』

言葉を遮るように清士郎の唇を塞いだ

ほかの見物客たちはクラゲに目を奪われ、僕と清士郎に気づいていない

マヌエル

『自分勝手でゴメンね』

清士郎の頭を撫でる

清士郎

『……マヌエル』

マヌエル

『今までありがとう』

マヌエル

『僕、清士郎のことが大好きだったよ』

現代

冴夏

…………

いつの間にか涙が流れていた。それを手の甲で拭う

“彼“──マヌエルは本当に父のことを……

日記帳の最後のページには

《僕が女の子だったら、今でも一緒にいられたのかな…………》

と書かれていた

一部文字が滲んでいる

日記帳をそっと閉じた

冴夏

(本音は別れたくなかったのかも……)

もう1冊の日記帳を手に取りページを開く

日付は4年前──

アイビーとガラスのピアノ

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