テラーノベル
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ドアを開けて鍵を掛けて 靴を脱いで
それまでに香る芳香剤
あの人が選んだラベンダーだった
優しくて可憐なあの人には よく似合った匂いだった
お風呂には必ず入浴剤を 入れる人だった
柚子の香りを好んで楽しむあの人
水滴がまた一滴 バスタブの縁に落ちた
柔軟剤はいつも フローラルを使う人だった
バスタオルが纏うローズが 甘ったるいのが毎晩だった
それで毎晩髪を拭いて
ドライヤーで乾かすのが 僕の役目だった
彼女の髪はいつもローズより シャンプーの匂いがした
使わなくなったドライヤーは 棚の隅っこで蹲っている
ベランダに出て 煙草を吸いながら空を見た
彼女が残した匂いを かき消すように強く吸う
咳き込んだ拍子に風が吹いて 酔うほどに金木犀が匂う
秋の訪れと同時に 彼女の台詞が頭をよぎった
金木犀の匂い、好きなんだよね〜
苦手な人もいるけど、秋を独り占めしてるみたいな香りじゃない?
彼女曰く、秋の始まりの香り
空気が澄んで 鼻がツンとしたら冬だそうだ
空を仰いで夜の空気を吸い込んだ
金木犀と煙草が 甘ったるくて少し苦い
総合的に50%ずつ ということにしておこうよ
そうやっていつまでも同じ天秤の上で揺れていられたら良かったのに
灰皿に吸い殻を作って ベランダを出た
苦い匂いは甘ったるさに ぼやけていく
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