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――ガタンという音と一緒に、引き戸が揺れ動いた。
ただ、揺れ動いただけで、戸は開いていない。
堀田のおばちゃん
堀田のおばちゃん
滅多に事件など起きず、ゆえに防犯意識も低い田舎の集落。
家に鍵をかけるなんて滅多になく、開いていることのほうがデフォルトだった。
シンジ
母親の殺害現場となった玄関先。とっさにシンジは鍵をかけていたことを思い出した。
シンジ
堀田のおばちゃん
独り言と一緒に、足音が玄関から遠ざかっていく。
シンジは胸をなで下ろし、そして血に染まった玄関を見てため息をひとつ。
人間というものは、こんなにも出血するものなのか。
これまで全く知らなかったこと、そして知らなくてもいいことをシンジは知ってしまった。
シンジ
シンジは気を取り直して作業に取り掛かった。
血を拭き取り、雑巾が真っ赤に染まったら、バケツにそれを絞る。
バケツが赤色で一杯になったら、それをトイレに流して、再び同じ作業を繰り返す。
最後に水で玄関先を流し、その水を雑巾で拭き取って、ようやく表向きは綺麗になった。
シンジ
外はすっかり暗くなっている。
念のために使ったバケツと雑巾は、ポリ袋でひとつにして自分の部屋に置いておくことにした。
どう処理していいか分からないが、捨てるより安全な気がした。
シンジ
大仕事が終わるのを待っていたかのごとく、腹の虫が遠慮なしに鳴いた。
シンジ
台所に行って冷蔵庫を開けてみるが、しかし入っているのは発泡酒だけ。
シンジ
愚痴を漏らしながら冷蔵庫を閉めると、シンジは家探しを始めた。
シンジは知らないが、どこかに生活費があるはずだ。
口座に入ってしまっていたらそれまでだが、これから先は弟と2人で食いつないでいかねばならない。
生活保護という制度に頼って、ろくに働きもしなかった化け物はもういない。
先のことを考えると嫌になった。
家探しをすることしばらく。
母親の財布を見つけたシンジは、急いで中身を確認する。
入っていたのは数千円と小銭が少しだけ。
それでも、しばらくは飢えをしのげそうだった。
シンジ
シンジは財布から金を抜き取った。
ようやく制服を脱いで洗濯機に放り込む。
洗濯機を回すと、普段着に着替えて、財布から抜き取った金をポケットに捩じ込んだ。
シンジ
シンジは2階に向かう。
2階にはシンジとアキノリの共有している部屋があった。
父が存命の頃の名残りで、昔のゲーム機なども置いてあり、シンジとアキノリにとっては、この窮屈な家の中で、唯一心を落ち着かせることのできる場所だった。
もっとも、機嫌が悪いと、そのサンクチュアリにさえ、あの化け物は踏み込んできたのだが。
シンジ
名前を呼びながら部屋の戸を開けると、アキノリは壁に寄りかかって寝息を立てていた。
きっと疲れてしまったのであろう。
シンジ
時刻は随分と遅くなっていたが、家には食べるものがなにもない。
不幸中の幸いで、お金は手に入れることができたから、買い出しに行かねばならない。
ここから少し離れているが、自転時で15分ほど走るとコンビニがある。
夜も遅いし、この辺りの店舗で開いているのは、そこくらいしかないだろう。
夜の通りは人通りも少なく、また季節のせいか空気が冷たかった。
いつしか雨は止んでいた。
ここも見慣れた光景で、毎日のように見る光景だった。
ただ、こんな時間に外出することなんて滅多になく、ましてやコンビニなんて行くこと自体が珍しい。
この時代に生きていながら、あの悪魔のせいで、まるで浦島太郎のような生活を送っていた。
あの悪魔が体裁を保つためだけだが、高校に通えていたことだけが救いではあるが。
自転車で風を切ることしばらく。
コンビニへと無事に到着した。
コンビニに入ると、ポケットの中のお金と相談しながら買い物を済ませる。
シンジ
シンジ
シンジ
コンビニ袋を手に、コンビニを出ようとした時のことだった。
駐在さん
ふと、背後から声をかけられた。
振り返ると、そこには駐在さんの姿があった。
シンジ
この辺の独特の訛りの入った喋り方で駐在さんは続ける。
駐在さん
駐在さん
駐在さん
駐在さん
駐在さん
駐在さん
シンジ
駐在さん
シンジ
とりあえず謝ると、コンビニの外へ出た。
シンジ
シンジ
堀田のおばちゃんの件もあり、どうにも嫌な予感を抱いたシンジは、家に置いてきたアキノリのことが心配になった。
自転車にまたがり、漕ぎ出そうとした時、コンビニから駐在さんが出てきた。
駐在さん
シンジ
駐在さん
シンジ
シンジは駐在さんに、家がどの辺りなのかを教える。
駐在さん
駐在さん
駐在さん
シンジ
シンジ
駐在さん
駐在さん
駐在さん
シンジ
駐在さん
駐在さん
シンジ
駐在さんに断ることもできずに、シンジは自転時を漕ぎ出した。
別に断ってもいいのだが、家の井戸の中に母の死体を隠した後ろめたさもあって、断ることができなかった。
そんなことはあり得ないのに、断ったら疑われてしまうような気がしたのだ。
シンジ
シンジ
ぴったりと後ろについてくる駐在の自転車に、シンジはなかばパニックを起こしかけていた。
シンジ
シンジ
シンジ