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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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ペダルをこぎながら、どうしようかと画策している時のことだった。

ふっと、目の前に黒い小さな影が飛び出してきて、近くにあった民家の敷地へと入っていく。

駐在さん

……どうした?

思わずブレーキをかけたシンジに続き、駐在の自転車も停まる。

多分、猫かそこらが横切っただけなのであるが、しかし駐在はその事実に気づいていないらしい。

シンジ

(これ、使えるかも)

シンジ

今、そこの家から物音が……。

シンジは猫と思われる影が飛び込んだ民家を指差す。

駐在さん

物音?
こんな夜中に?

駐在さんは不審げに民家のほうへと視線をやる。

シンジ

もしかして、泥棒とかの類じゃないですかね?

駐在さん

いやいや、この辺りの地域も随分と長くなったけど、事件らしい事件っていったら、いなくなった猫を探すだとか、夫婦喧嘩の仲裁程度のもんでな。

駐在さん

物盗りなんて大きな事件、こんな田舎じゃ起きた試しがない。

駐在の言葉を遮るかのように、民家の庭から物音がする。

おそらく、猫が植木鉢か何かを倒した音なのだろうが、この状況では妙な説得力があった。

シンジ

田舎は防犯意識が薄いから、あえてそれを狙う窃盗団とか、今はいるらしいですよ。

駐在さん

……ちょっと見てくる。

駐在さん

君はここで待っていなさい。

運がシンジに味方してくれた。

逃げるなら、今しかない。

シンジは駐在の背中を目で追い、敷地の中へと入って行ったタイミングでペダルをこぎ出す。

駐在さん

あ、待ってろって言ったのに!

はるか後ろで、駐在の声が聞こえたような気がした。

しかし、それは自転車が風を切る音にかき消されてしまった。

一心不乱になって自転車をこぎ、自宅の少し前になってから振り返る。

背後にあるのは、ただ闇。

駐在さんが追ってきている気配はなかった。

シンジ

よし、なんとかうまく逃げられたぞ。

それでも周囲を警戒して、シンジは自宅へと戻った。

部屋に戻ると、テレビの明かりだけが部屋の中に漏れていた。

そして、毛布に包まってテレビを呆然と見ているアキノリの姿がある。

シンジ

アキノリ、起きてたのか。

アキノリ

兄ちゃん。
その……片付け、終わった?

シンジ

あぁ、完璧だ。
それどころかコンビニで食い物買ってきたぞ。

シンジ

腹減っただろ?

シンジ

兄ちゃんと一緒に食べよう。

シンジは折り畳み式の食卓を出すと、アキノリの左隣に座って、コンビニの袋を漁る。

シンジ

あ、兄ちゃんがここだと邪魔だよな。

コンビニ袋から食べ物を出す前に、アキノリの隣から正面へと移動した。

狭い部屋の中、わざわざ隣り合って飯を食べる必要はない。

アキノリの正面に来るとテレビを背にすることになるが、そんな小さなことは気にならなかった。

アキノリ

え、兄ちゃん。
どれ食べていいの?

シンジ

好きなの食べろよ。

シンジ

あいつがいる時には、絶対に食えないものばっかりだ。

シンジが買ってきたものは、しかし一般的に見てそこまで高価なものではない。

幕内弁当に菓子パン、洋食ミックス弁当と魚肉ソーセージ。炭酸飲料にレトルトのカレーがいくつか。

適当に金額ギリギリまで買い込んだから、おにぎりやお菓子なんかも多数紛れ込んでいるが、しかしそんなに特別な食事というわけではない。

けれども、シンジ達にとっては、どれもがご馳走だった。

良くて、釜の底に残った冷えた飯。悪ければ、その日食べるものがない――そんな生活を当たり前としていたため、感覚が少し狂っていた。

アキノリ

え、じゃあ俺はこれとこれ、あとは……。

シンジ

兄ちゃんのことは気にしないでいい。
腹一杯、好きなだけ食え。

アキノリ

……うん!

シンジ

テレビだって好きに観てもいいんだぞ。

アキノリ

すげぇ。
兄ちゃん、天国みたいだね!

シンジ

いいや、今まで俺達がずっと地獄にいたんだよ。

シンジ

これからは、きっとこれが当たり前になるよ。

アキノリ

うん、だったら兄ちゃん、一緒にテレビ観ながらご飯食べようよ。

アキノリはそう言うと、自分の右隣を開けて、シンジに座るように促してくる。

ご飯を食べる。少しお行儀が悪いけど、テレビ観ながら。

そんな、どこの家庭でも当たり前のことが、シンジ達にとっては新鮮なものだった。

シンジ

あぁ、そうするか。

こうして、ごくありきたりの家庭では、当たり前のように見られる光景が、深夜というだけで特別になる。

いや、これまで支配されていたシンジ達からすれば、ありきたりの日常でさえ、特別に見えたのかもしれない。

この日食べた弁当の味と、2人で観た、ほんの少しエッチな深夜番組は、今でも忘れられない。

私は人を殺したことがあります(仮題)

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